特訓
「お待たせしました、師匠。」
「大丈夫、こっちもさっき15分休憩終わった所だから。」
タイマーは軽く返事をした。
「現在の状況を聞いておきたいんだけど。4層はわかる?」
「なんとかわかる感じですかね。」
「3層と4層の境目は?」
「それは、自分では、難しいです。」
「シマアジは、2と3の境目に居るんだけど。この境目を感じる
のが、ポイントだね。」
「なるほど。」
「問題は、2と3の境目が、一番難しいって所かな。」
「海でも境目とかは、意識したことないです。」
「川の4層は大丈夫かな?」
「それも自信がないです。」
「まずは、そこからか。」
「お願いします。」
「4層は、常にあるわけじゃなくて、川の変化で、現れるんだけど
非常に説明しずらい。」
「師匠は、どうやって見分けを?」
「ずっと川で釣ってたら、何か違和感を感じる時があるんだよね。
川の流れは、ランダム性で目で見分けるのは、無理だと思う。」
「違和感ですか?」
「そう。」
「とりあえず、隣で1から3層を順番に釣っててくれる?
層の幅を図る感じで。それで違和感を感じたら教えるんで。」
「わかりました。」
ヨンペイは、タイマーに言われた通り、丁寧に層を探り出した。
タイマーはと言えば、鯉と鮒の選別を始めた。
「ねえ、そこ私の場所なんだけど?」
ローラがキツメにヨンペイに話しかけた。
「ああ、ローラさんお久しぶりです。」
「うちのギルドを裏切っただけじゃなく、タイマーまで独占かしら?」
「何かリアルで嫌な事でもあったのか?ローラ。」
タイマーが聞いた。
「私は、リアルを持ち込むような女じゃありません。」
「師匠、自分は、昔、ローラさんのギルドに居まして。」
「ほうほう。」
「エージェイさんもONしなくなって、ギルメンも増えてきたんで、
辞めて自分のギルド立ち上げたんですよ。」
「エージェイ?」
「うちのGMよ。まったくONしないけど。」
「あらまあ・・・。ゲームに向いてなかったのかな?」
「違うわよ。リアルで釣りしてるから、ゲームやる暇がないそうよ。」
「てことは、釣り場が近いんだろうなあ。うらやましい。」
「てことで、ヨンペイ君。そこどいてくれる?」
「まあまあ、ローラ。ほらこっちに座って。」
タイマーは宥めるようにローラを自分の左側にエスコートした。
「おっ、ちょうどいい。4層あると思うから、二人とも釣ってみて。」
川に違和感を感じたタイマーは、二人に4層で釣るように指示した。
「あら、ヨンペイ君は、4層まだわからないのね。」
ローラは上から目線で言った。
「ローラだってわからないじゃないか。」
タイマーが暴露した。
実際、ローラは川の4層で魚を何匹も釣っている。
層をとらえる事は、ブラッククリスタルロッドの性能のお蔭でなんとか
なっている。
が、違和感だけは、全然わからなかった。
ヨンペイも言われた通り、4層に向けて落とし込みながら、違和感を
掴もうとしたが、いつもと何が違うのかわからなかった。
先に4層で魚をヒットさせたのは、ローラだった。
わずか10分で、キハダマグロを釣り上げた。
ヨンペイも堅松樹のロッドで、なんとか4層でキハダマグロを釣り上げる
事に成功した。
時間は15分いっぱい掛かってしまったが。
「ビックリです。川でキハダを自分が釣り上げるなんて、夢にも思って
ませんでした。」
「ヨンペイさん。4層の時間はそう長くないんで、今のうちに境目を
探ってみて。」
「了解です。」
「ねえ、タイマー。シマアジの練習ってそこからやるの?」
「そうだね。ローラも川でシマアジは釣ってないだろう?練習してみる?」
「私は、5層の練習を先にするわ。コンプはヨンペイ君に任せます。」
例えシマアジを99匹釣っても、ローラは、キハダすら99匹に届いていない。
「それも難しいんで、頑張ってとしかいえないな・・・。」
5層は、堅松樹のロッドでは、探ることが出来ない。
ブラッククリスタルロッドがなければ。
ローラは、タイマーが居ない時も、出来れば5層の練習がしたかった。
しかし、違和感が感じ取れない為、いつ現れるかわからない層を探るのは、
非常に効率が悪かった。
その為、練習する時は、タイマーの右隣を陣取っていたのだが、
今日は、左隣である。
結局、この日のヨンペイは、3層と4層の境目がわからなかった。
ヨンペイにしても、違和感がわからない為、練習をする時は、タイマーの
隣でしか出来ない。
タイマーのように無限に時間があるわけでなく、ヨンペイはON出来る時間を
タイマーに伝え、合わせてもらう事にした。
「申し訳ありません、師匠。自分の都合で。」
「弟子入りの持参金貰ってるからね。これ位大丈夫だよ。」
「大変ね。ヨンペイ君も色々と言われてるんでしょ?」
「まあ、言われてますけど。自分はこのゲームの釣りが好きなんで、コンプは
頑張ります。」
「自分が居ない時も、出来るだけ川で釣ってて欲しい。」
「違和感ですか?」
「うん。恐らくずっと釣ってるとわかると思うよ。」
「わかりました。出来るだけそうします。」




