刈茅の才女
刈茅の家は、代々女性で盛ってきたと言っても過言ではない。
未菜の父親も、任された会社を不況の波に飲まれて、一度赤字に
転落させてしまった。
結局、東京の会社は、姉が引き継ぎ見事、立て直している。
現在は、未菜の父親は関西の会社を受け持っている。
未菜の祖母は、数十の会社を経営していたスーパーキャリアウーマン
であった。
「うん、何とか黒字のようね。本当、未菜に来てもらって助かるわ。」
伯母がそう言った。
今は、従業員全員とオーナーで賄い中であった。
メニューは、イタリアンらしからぬ親子丼である。
夜の賄は、オーナー命令で和食となっている。
「伯母様、いい加減解放してくれません?」
正直、未菜はバイトなんてしたくもなかった。
関西の会社に追いやられとはいえ、社長令嬢である。
「ここは、いろんな会社の社長さんが来るのよ?今のうちに人脈は、
作っておくものよ?」
「人脈って・・・。」
「あら、あなた不愛想だけど、お偉いさん連中には評判いいのよ?」
「どうでもいいです。」
「本音を言わせてもらうとね、ここまで手が回らないのよ・・・。
あなたに卒業したら、何社か任すつもりだから宜しくね。」
「お断りします!」
「あのね、あなたは刈茅の娘なのよ?ちゃんと自覚しなさい。」
「おばあ様の孫なら何人もいるでしょ?」
未菜の祖母は既に亡くなっている。
キャリアウーマンだった祖母は、結婚はしてないが、子供は5人も居た。
しかも実子が。
若い男が大好きで、次から次へと恋人を変えていった為、父親は不明
である。
「あの子たちは、駄目ね。才能が無いもの。」
むしろ、天才肌の未菜が別格と言えた。
「私はやりたいことがあるのっ!」
「やりたいことねえ・・・。」
未菜の夢は伯母は知っていた。
壮大な夢と言えば壮大ではあったが・・・。
「あなた、今日の賄も美味しかったわ。店じまいお願いね。」
「ああ。未菜ちゃんをよろしく頼むよ。」
伯母は、いつものように未菜を車で送って行った。
「まあ、あなたなら、国家公務員試験一種パスするでしょうね。」
「当然です。」
「省庁にも入れるでしょう。そして刈茅の家の力を使えば政治家にも
なれるわ。」
「だったら、経営者になれとか言わないでくれます?」
「でも、そこまでね。」
「は?」
「日本はね、欧米と違って性的な事には、未だに閉鎖的な国よ。」
「それこそナンセンスでしょ?国際的に遅れすぎてます。」
「日本でいえば、同性婚なんてマイノリティすぎるって言いたいのよ。」
「国際世論を味方につけます。」
「数は力よ?マイノリティで、法改正なんて、まず無理ね。」
「そうですか?私は、出来る自信があります。」
「例え同性婚が認められたとしても、一夫多妻制なんて絶対無理よ。」
「伯母様、間違えないでくださる?そんな下等な制度は死んでも作りません。
一妻多妻制です。」
簡単に言うと、レズのハーレムの事である。
「はあ・・・。どうしてこんな子になっちゃったのかしら・・・。」
「失望したなら、自分で子供作るか、他の子に押し付けてください。」
「私が、産休なんてしたら、何億もの損失よ!」
「じゃあ、他の子に。」
「ハーレム作りたいなら、勝手に作ればいいでしょ?何故法改正に
拘るの?」
「子供の頃の夢ですから!」
中学にあがった頃、未菜は千鶴に夢を語った。
あまりのアホらしさに、千鶴は何も言えなかった。
「千鶴ちゃんは、私が夢かなえたら一号さんになってくれる?」
「ええと・・・、叶えれたらね。」
あまりのアホらしさに、適当に答えてしまった。
「本当に、本当だよ。」
「う、うん。」
そもそも絶対叶えれるわけねえだろと思い返事をした千鶴だった。
伯母は、未菜を女性専用マンションに送り届けた。
そんじょそこらの学生が入れるマンションではない。
完全に男子禁制で、マンションに入ってる女性でも男を連れ込む事は出来ない。
未菜としては、女性が連れ込めればいいので、そこそこ気に入っていた。
「なんとかならないかしら・・・。」
未菜がマンションに入るまで、車の中で見送った伯母は、ボソッと呟いた。




