サイド:剣の道
「今日は、お邪魔してしまって、すみません。」
クレインは畏まって挨拶をした。
「男所帯で殺伐としてるがゆっくりしていってくれ。」
野武士のギルドルームで、シンゲンが言った。
「しかし、よかったのか?カルディナとの約束はないのか?」
シンゲンが聞いた。
「リアル事情で、暫くON出来ないようなので、構いません。」
「そうか。」
野武士のギルメンは、戸惑っていた。
本来なら、女性キャラが訪ねてきたら、ソワソワとするものだが。
鎧武者で固めたクレインは、見た目だけでは性別は区別できにくい。
声が女性ボイスを使用しているから、女性なんだろうと思える位だ。
しかも、あのカルディナの知り合いという事なら、むしろ関わりたく
ないと思うのはしょうがなかった。
「あのう、聖騎士団のカルディナさんの知り合いと聞いてるんですが?」
ギルメンの一人が聞いた。
「すみません。いつもご迷惑かけてるみたいで。」
カルディナの名前が出たので、幼馴染としてとりあえず謝った。
「「「おおーっ、常識的な人だ。」」」
安心するギルメン一同。
「クレイン、予定が無いのならレベル上げでも付き合うが?」
シンゲンが提案した。
「ここ最近、レベル上げや、クエストで辟易としてまして・・・。
良かったら、誰か対戦して貰えませんか?」
クレインは、レベル上げで倒す雑魚戦に、飽きていた。
後に、陰鬱な森の速い敵に魅了され、狂ったように突き進みだすのは、
まだ先の事になる。
「対戦?デュエルか。ふむ、うちのギルドは攻略ギルドとは言え、
レベルも装備もクレインとは、随分と差があり過ぎるのだが。」
「まだ、手ごたえのある敵にも当たったことなくて。
遠慮は要らないんで、誰か私を倒してみてくれませんか?」
「そうだな、とりあえず闘技場に行ってみるか?」
シンゲンは、時間が空いてる者を誘い闘技場に移動した。
ギルドルームに居たギルメン全員がついていった。
闘技場には3種類のスペースが存在する。
オーブンスペース、リミットスペース、シークレットスペースの3つだ。
オープンは、誰でも観戦できるスペースで、大会等で使用される。
リミットは、限られた人だけが観戦でき、シークレットは、対戦する
二人のみが入れるスペースとなっている。
シンゲンは、リミットスペースにルームを作成し、ギルドメンバーのみ
観戦可能で設定した。
「さて、誰か対戦してみるか?」
シンゲンが言うと、中堅クラスの一人が名乗り出た。
「スキルも未使用で、対戦しますから、少しは対戦らしくはなると
思います。」
「そうだな。まあ、それでも差があるようなら、装備とかも調整しよう。」
シンゲンの提案にギルメンが頷いた。
そして、シンゲンを含む5人の人間が、クレインに負けた。
「なっ・・・。」
「・・・。」
「頭領、勝てる気がしません。」
「スキルがあれば・・・きっと・・・。」
「それは、どうかな?むしろスキルを使えば隙が出来ると思うぞ。」
ギルメンの一人、ポリースが言った。
名前の通り、職業は警察官だったりする。
剣道4段で、県大会でも優勝したことがあるが、残念ながら全国レベルと
までは言えない。
【女子の大会にも、何度か手伝いに行っているが、あんな突きを使う女子は
見たことが無い。】
ポリースは、最初の戦いから、クレインが剣道経験者であることを見抜いていた。
「頭領、次は自分が行ってもいいですか?」
「お願いする。」
攻略ギルドでは、デュエルは殆どやることがない。
デュエルと攻略では、武器はもちろん、スキル構成もまったく違うからだ。
シンゲンの二刀にしても、剣道における二刀であれば、一本を小太刀を使用する
場合が多い。
しかし、シンゲンのは二刀とも大太刀を使用している。
シンゲンは、アタッカーであり、攻略に於いて防御は使用しないからだ。
「リアルの事を聞くのは、マナー違反だが、段くらい聞いてもいいか?」
「はい、私は三段です。」
「そうか、俺は四段だ。よろしくな。」
「有段者と戦えるなんて光栄です。」
リアルでは、ギブスをはめている為、剣道の対戦をする事は出来ない。
まさかゲームで剣道の対戦が出来るなんて、思いもしてなかった為、
クレインは、ウキウキとしていた。
「最初に教えておくが、このゲームでは、刃受けは可能だからな。」
「そうなんですか?ありがとうございます。」
実際の日本刀で、時代劇のように刃受けをすると刀を痛めてしまう。
切れ味が命の日本刀に於いては、致命傷ともいえる行為だ。
二人はお互い、中段の構えで向かい合った。
数秒二人とも動かなかった。
クレインは、武者震いがするほど、血がたぎっていた。
そして。
小さい突きを3連。
ポリースは、軽くさばく。
【強いです。】
クレインは、そう感じた。
一方、ポリースの方も、攻め手が見つからず、苦慮していた。
【分が悪いが、やるしかないか。】
ポリースは火の構えをとった。
突きの使い手に火の構えは、分が悪いにも程があるが、慣れ親しんだ
構えなので、一か八かの賭けである。
クレインは、構えを変えず、対峙した。
【つくづく実戦向きの奴だな・・・。】
通常、剣道であれば、火の構えに対しては平正眼の構えをとる。
だが、これは剣道ではない。
ポリースとしては、平正眼の構えをとって欲しかったのだが。
ポリースは、大きく息を吸い込み、そして相手に向かって、飛びながら、
剣を振り下ろした。
剣道であれば、面を取る技だが、ゲームでは面を取る必要はない。
相手にダメージを負わせればいい。
対して、クレインは。
クレインも相手に向かって飛び込んだっ!
渾身の突きを同時にはなっていた。
【舐められてるな。剣道もゲームも俺の方が一日の長があるんだよっ!】
ポリースは、心の中で叫んだ。




