サイド:はじめてのおつかい
千鶴はキャラ作成の前から決めていた。
リアルと同じ身長でやろうと。
体験中に思った事だが、リアルより高い身長の為、間合いも広かった。
あれに慣れてしまうと、リアルの剣道に影響が出てくるのではと、
懸念したからでる。
名前を考えるのも面倒だったので、自分の名前から一文字取って、
英語に変えた。
カルディナのように、私、カルミナだから、なんとなくカルディナって
いい加減な決め方よりはいいかなと、自分に納得した。
最初のログインポイントは、最初の村である。
開発スタッフというか、開発室長が、ジャパンRPGが大嫌いなので、
最初に何かをしなければならない事が無い。
最初から自由な世界。
ゲーム慣れしてる連中なら、何かを見つけてきて、進んで行くものだが、
千鶴は、ゲームを殆どやったことが無い。
「遅いっ!」
大きな盾を持った騎士が声を掛けてきた。
「えーと、み・・・じゃなかった、カルディナ?」
「キャラ作成とか説明してあげたのに、どんだけ時間掛かってるのよ。」
「こういったものは、よくわからないので・・・。」
「まあ、いいわ、とりあえず装備買いましょ。裸じゃあ防御力ないし。」
「えっ?」
千鶴は自分の格好を改めて再確認した。
「なっ・・・下着じゃないですかっ!!!」
「水着みたいなもんよ。ゲームだし気にしなくてもいいわよ。」
「気にしますよっ!」
「周りを見てみなさい。殆どクレインと同じ格好でしょ?」
「ほ、本当だ・・・カルディナの方が浮いてますね。」
「最初の地点だし、そんなもんよ。とりあえずお金渡すから、
最初の防具屋で、適当なもの選んで買って来て。」
そう言って、カルディナは、お金をクレインに渡した。
最初の防具屋は、Lv1から装備できるものしかなく、品揃えは大してない。
それでも、裸よりはマシという感じである。
「お待たせしました。」
クレインは、頭は兜、体は、鎧と武士の装備を身に着けていた。
「ちょっ、あんたよりにもよって、それ選ぶかっ!」
「格好いいでしょ。」
目をキラキラしながら言ってくる千鶴。
「お金は余分に渡してるんだから、もっと可愛いのに変えてきなさい。」
「これ以上に可愛くてかっこいい物はありません。」
こうなったら、クレインは後に引くことはない。
「も・・・もういいわ。最初はレベル上げと行きたいとこだけど、
あんた全然ゲームの事知らないでしょ?」
「まったく。」
「とりあえず、簡単なクエストやってみましょう。」
「クエストですか?そんな事より対戦しませんか?」
「お断りですっ!」
「えー。」
二人は、パーティーを組んで最初の村の一軒の家に入った。
狭い家なのに中には、大量の人が居た。
「なんですかこれ?大量の人が、これじゃあ動けませんよ?」
「試しに他の人に触ってみて。」
「えー・・・」
その時、他のプレイヤーが、クレインに突っ込んできた。
「えっ。」
するとそのプレイヤーはクレインをすり抜けて行った。
「基本的に、パーティ組んでたり、ギルドルームに居たりしなけりゃ、
他のプレイヤーと接触する事はないわ。NPCも接触できないから。」
「NPC?」
「プレイヤーじゃないキャラクターね。あそこに人に囲まれてる、
おばさんが居るでしょ?あれに適当に話しかけて。」
「はー。」
クレインは、他プレイヤーをすり抜けて行って、NPCに話しかけた。
「あら、あんた、もし暇だったら、これを村長さんの家に持ってって、
くれない?」
基本的にNPCの会話は、勝手にパーティートーク扱いになる。
NPCの声は、パーティーを組んでいる人間にしか聞こえない。
大量に人が居ても、それぞれのパーティートークで会話するようになるので
混乱する事はない。
「村長さんの家ってどこにあるんです?」
「この家でて、2軒どなりかな。」
カルディナが答えた。
「ちかっ!あなたは何で、自分で行かないんですか?」
クレインがNPCに再度話しかけるもNPCは何も言わない。
クレインの眼前には、ウィンドウが開いており、yesかnoを選ぶように
表示されていた。
「このおばさん何もいいませんよ?」
「NPCだもの・・・。ウィンドウ開いてない?yes選んで、クエスト
始めましょう。」
クレインは、仕方なしにyesに指で触れた。
「助かるよ。食材だからね。なるべく早く持ってっておくれ。」
「急ぎなら自分で行ったらどうです?」
クレインの再度の問いにもNPCは答えない。
「さあ、村長の所へ行くわよ。」
クレインは、完全には納得はしてないが、カルディナの指示に従った。
「おおー、ちょうど待っておったぞ。」
村長の家に行くと、初対面なのに待ち伏せされていた。
「これが無いと、晩飯が始まらんからな。
これは、少ないがお礼じゃ。とっておいてくれ。」
回復薬と微々たる経験値が貰えた。
「これでクエストとやらは、終わりですか?」
千鶴は、カルディナに聞いたつもりだったのだが、NPCが反応した。
「おおー、あんたか実は困ったことになっておっての。
村の周りで、ラットが繁殖しておってな、すまんが10匹ばかり狩って
きてくれんか?」
「・・・。」
「ちょうどいいわ、それもやりましょ。」
千鶴は何も言わず、ウィンドウ画面のyesを押した。
「こういうことをやるゲームなんですか?」
「RPGってのは、こういうことをチマチマやるゲームよ。」
「・・・。」
「まあ別にやんなくてもいいんだけどね。」
「む、じゃあやらなくても・・・。」
「ラットは最初の敵だし、レベル上げにもなるから、ちょうどいいのよね。」
二人は、さくっとラットを10匹狩って、村長の所へ報告に行った。
今回も回復薬と微々たる経験値が貰えた。
「それじゃあ、今日はここまでかな?」
「え?」
「あのね、このゲームは連続ON時間が2時間なのよ?休憩15分取らないと
再ONは、出来ないわ。」
「私は、まだ2時間たってませんが?」
「誰が、私を待たせてたんだっけ?」
「そ、そうでした・・・。」
「クレインは、まだ初心者だから、後は明日にしましょ。」
「わかりました。」
それから、ある程度、独り立ちするまで、カルディナは付きっきりで、
お手伝いをした。




