健康診断
無職でも自治体によっては、健康診断を安く受けれる所もある。
時野が住むところは、そういう制度が充実していて、
健康診断の案内が来た。
安く受けれるならと、近くの総合病院に健康診断に行った。
バリウム飲んだり、採血したりと、朝一から行ったのだが、
終わったのは、14時過ぎだった。
半分くらいは、待ち時間だったが。
時野は、遅い昼食を食べることにした。
バリウムを飲む為、朝は抜いていたので腹ぺこだった。。
「病院の食堂って、結構充実してるよな。安いし。」
メニューを見回してから、券売機に向かった。
時野が選んだのは、生姜焼き定食。
病院の食堂は、作りは、そんなしっかりしてるものではない。
職員用と一般用なんて、衝立で別れてるだけだし。
さすがに14時も過ぎると、食堂は閑散としてた。
「ん?」
時野が、生姜焼き定食を受け取りに行く時、職員用の場所で、
一人、昼食をとっている佐柄鏡子の姿が見えた。
「ここいいですか?」
時野は、鏡子の正面に座ろうとした。
「な、駄目ですっ。ここは職員用ですよ?」
「誰も居ないし、大丈夫でしょ?」
強引に座った。
「ナンパでもしに来たんですか?」
「え、病院にそんな事しに来る奴居るんですか?」
「居ませんけど・・・時野さんなら。」
「酷いなあ・・・。今日は健康診断です。」
「へー。」
「いつも、こんな遅い昼食で?」
「手術は、時間なんて決まってませんから、空いた時にとってます。」
「お医者さんも大変ですね。」
「病院のスタッフは、皆変わらないですよ。」
「なるほど。そういえばオフ会の日程はどうです?」
「来週は大丈夫だと思います。」
「わかりました。イタリアン予約しときますね。」
「イタリアンですか。」
「イタリアンじゃない方がいいですか?」
「いえ。大丈夫です。」
「苦手があったら、教えといてくださいね。多少は顔が効きますので、
苦手なものを除ける事も可能なんで。」
「む、無職なのに・・・。」
「・・・。」
「そういえば、オフ会は、皆、鋼の翼の人なんですか?」
「いや、春子さん、つまりパルコさんの旦那さんが来ますよ。」
「そうなんだ。」
「あとは、武者たんも、多分来ます。」
「デュエル大会に出た人ですか?」
「そうです。鏡子さんは知ってますか?」
「いえ、話でしか知らないです。」
「デュエル大会は見ました?」
「PVと決勝戦が上がってたやつは見ました。」
「決勝戦のカラットの相手が、武者たんですよ。」
「なるほど。」
そう言って、鏡子は箸を置いて、手を伸ばすように背伸びをした。
「手とか疲れますか?」
「ですね。手術の後は特に・・・。」
「立ちっぱなしで、足も疲れるでしょ?」
「足は、さすがにもう慣れました。」
「簡単な手のマッサージをしましょうか?」
「時野さんが?」
「ええ、血行をよくする簡単な奴ですけど。」
「女性を口説くために、覚えた技とか?」
「違いますよ。別れた奥さんの妊娠中にね、よくやってました。」
「ふ~ん・・・。」
「手を貸してください。」
「・・・。」
「どうしました?」
「いえ・・・。」
戸惑いながらも、鏡子は、右手を差し出した。
「簡単な奴なんで、時間もかかりませんよ。」
そう言って、鏡子の手をマッサージし始めた。
「あ、あっ・・・。」
食堂に怪しげな声が響いた。
「えっ・・・。」
むしろ、時野の方が驚いた。
鏡子は、顔を真っ赤にして手を引っ込めた。
「誰ですかっ!病院の食堂で変な事をしてるのはっ!」
看護士が、職員用のスペースへと入ってきた。
「鏡子先生?それと・・・。も、持ち帰り野郎・・・。」
「だ、誰?」
「先生、何か変なことされました?」
「な、何でもないのよ、裕子ちゃん。」
「持ち帰り野郎が、職員用スペースで何してるんですか?」
「えっと・・・俺は出会った女性を忘れるような事はないんだけど、
どちらさん?」
「あら、女ったらしも大したことないですね。コンパで一緒したっていうのに。」
「えっと・・・。」
時野が覚えがないのもしょうがなかった。裕子という看護士は、コンパの
時は、別のテーブルに居たので。
「別のテーブルに居た人かな?」
「そうですよ。あなたがさっさと鏡子先生を持ち帰るから、自己紹介もして
ませんけどね。」
「俺が持ち帰ったっけ?」
時野は、鏡子に聞いてみた。
鏡子は、その時の事が恥ずかしくて、うつむいて何も答えない。
「当たり前でしょ?鏡子先生が、そんな事しませんし。」
「と、とりあえず、自己紹介しようか。時野正42歳、無職です。」
「・・・。」
「何?」
「無職って威張って良く言えますね?」
「威張ってるつもりはないけどね。」
「田村裕子、見ての通りの看護士です。」
「女性の制服姿って、美しいねえ。」
「スケベ親父ですね。」
「で、裕子ちゃんは、コンパでいい人見つかった?」
「いきなり、名前呼びですか?しかもチャンづけ・・・。」
「裕子の方がいい?」
「ありえないでしょ。」
「だよねw」
「とりあえず、時野さんの後輩の常盤君とは、お話はしましたけど。」
「まあ、あいつは俺もよくわからんので・・・。」
「常盤君ってモテそうですよね?」
「ああ、モテるよ。でも全然執着心ないからね。直ぐ振られてる。」
「なんかそんな感じでしたね。」
いつのまにか田村裕子は、鏡子の隣に座って食事を始めていた。
「それよりも、何してたんです?二人っきりで?」
「「食事よ」」
「それだけ?」
「あとは簡単な血行マッサージを少々・・・。」
「それってHな奴なんじゃ?」
「全然違うよ。」
「本当ですか?」
「疑りぶかいなあ。じゃあちょっと手を出して。」
「はい。」
裕子は右手を差し出した。
時野が指を押し付けて伸ばすようにマッサージを始めた。
「あっ、あんっ・・・。」
食堂に再び変な声が・・・。
食堂に居た僅かな客のおばちゃん連中が覗きに来た。
おばちゃん達が見たのは、食事をしてる鏡子と赤くなって俯いてる
田村裕子の姿だった。
「き、危険なマッサージですね・・・。」
「そ、そうね。」
鏡子が相槌をうった。
「普通のマッサージなんだけどね・・・。」
「私は、そろそろ戻るわね。」
そう言って鏡子が食事を終えようとした。
「時野さん、詳細日程はメールくださいね。」
「了解。」
それで、会話は終わるはずだったのだが。
「何の日程ですか?」
田村裕子が食いついてきた。
「なんてことないデートだよ。」
「違いますっ。皆で飲み会するだけよ。」
鏡子がデートを否定した。
「へえ、何の飲み会なんですか?」
「ゲームのだよ。」
「ゲーム?」
「VR機って、うちの病院でも心療内科が使ってるでしょ?」
「あ、ああ、バーチャル何とかっていう奴ですね。」
「そう、私はサンプルで貰ったから、ちょっとだけやってるのよ。」
「鏡子先生がねえ。」
「オンラインで繋がってるからね。オフで会うからオフ会っていう
みたいだよ。」
時野が説明した。
「でも時野さんが居るんでしょ?鏡子先生が心配だなあ。」
「わ、私は、大人なんですけど・・・。」
「あれだったら、裕子ちゃんも来る?常盤も来るんだけど。」
「へえ常盤君も。私みたいな部外者が行っても問題ないんですか?」
「部外者は他にも居るから大丈夫だよ。」
「それなら、私は、鏡子先生のボディーガードとして参加させてもらいます。」
「だから、私は大人なんだけど・・・。」
こうして、オフ会にまた一人参加者が増える事になった。




