危機回避能力
人間40年以上も生きていれば、何かしらの虫の知らせが
わかるようになるもので、時野にもそれなりに備わっていた。
「これベルギーのチョコレートです。6メーカーの物じゃありませんが、
日本人の口には、特にあう物です。」
ベルギーと言えば、王室御用達の6メーカーが特に有名だが、それ以外
にも多くのメーカーが存在する。
時野はフォンデで仕入れてもらったチョコレートをチーフに手渡した。
今日は、モニターの報告日。
「べ、ベルギーのチョコレート・・・。」
完全に目がハートになっていた。
もちろんチョコレートに対して。
「女ったらしは、半端ねえな。」
「あの回避能力、俺も欲しい。」
「時野さんって、赤い彗星なんじゃ?」
他の運営の3人が小声で会話した。
「む、無職なんだから、無理しなくてもいいんですよ。」
「いえいえ、これくらいは、させてください。」
「時野さんが、そういうなら。」
この時点で、猫耳事件の怒りは、吹っ飛んでしまった。
その後は、上機嫌のチーフだった為、報告はあっさりと終わった。
「そうそう時野さん、ゲームの知り合いで年配の方は居ませんか?」
「年配の方ですか?」
「ええ、出来れば定年された方とか、そういった方がいいんですが。」
チーフに言われ、時野は暫し考え込む。
「まだ始めたばかりの方なら、一人ほど。」
「出来たら、次回の報告日にお連れして欲しいんだけど。」
「一応、聞いてみます。」
「お願いします。」
「結果は、メールでいいですか?」
「はい、メールでも電話でも。」
時野は、帰り道、波田運輸サービスに寄った。
「はい、春子さん、ベルギーのチョコレートです。」
「時野さんって、私の事を餌付けしようとしてません?」
「滅相もない、スナイパーに撃ち殺されちゃうじゃないですか。」
「それならいいんですけど。」
春子は、喜んで、チョコレートを受け取った。
「コーヒー入れますね。社長もコーヒーでいいですか?」
「すみません。お願いします。」
波田もコーヒーを頼んだ。
「無職になっても、マメな奴だな。」
「ほっとけ。」
「そういや、時野さん、オフ会は、どうなってます?」
春子がコーヒーを出しながら聞いた。
「日程調整中です。お医者さんですからね。中々日程が・・・。」
「ミラちゃんがお医者さんってのが、未だに信じられないんだけど。」
「あ、そうだ。もう1名誘ってもいいですか?」
「あら、ゲームの人ですか?」
「ええ。」
「時野さんが、親しい人ってローラさんとか?」
「いやあ、さすがにローラのリアルは知りませんよ。」
「じゃあ、どなた?」
「武者たんです。」
「「えっ」」
二人が驚いた。
「常盤君も来るんだよな?大丈夫か?」
波田が心配した。
「大丈夫だろ・・・多分・・・。」
「武者たんのリアルって、どういう人なの?」
春子が気になって聞いてきた。
「普通の女子大生ですよ。」
「お前は、どっからそういう若い女性と仲良くなるんだ、まったく。」
波田が呆れて言った。
「時野さん、いい加減にしないとスナイパーに言いつけますよ?」
「そ、それはご勘弁を・・・。」
「まあ、常盤君は、ああ見えて大人な感じなんで大丈夫そうだけど、
武者たんは、猪突猛進ってイメージがあるんだけど・・・。」
「ああ、そのまんまです。」
「ダメじゃんっ。」
「春子さん、こいつはそういう修羅場なんて日常茶飯事なんで、大丈夫
ですよ。」
「日常茶飯事じゃねえよ・・・。」
「まあ何かあったら、時野さんのせいって事で。」
「・・・。」
「お店はどうするの?」
「春子さんは、食べたいものとかありますか?」
「私は何でも。」
「イタリアンなんてどうです?」
「大好物です。」
「行きつけがあるんで、日程決まったら予約しときますよ。」
「無職のくせにな。」
「行きつけになった時は、働いてたっちゅうに・・・。」




