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ある日、時野にタウントカンパニーという会社からメールが届いていた。

「ん?こんな会社に履歴書送ってたっけ?」

とは、思いつつ身だしなみを整えて会社に向かった。


「あなた馬鹿なの?うちの会社潰す気っ!」

会議室で4人の従業員の中の左端の女性に思いっきり怒られた。

タウントカンパニーは、バーチャルファンタジーGXのメーカーだった。

「えっと・・・。」

「クールタイム2連続で食らうんじゃないよっ。しかも釣り!?って、

 あなた、うちのゲーム舐めてんのっ!」

「ふむ、そんなに怒ると眉間に皺がよって美人が台無しですよ。

 これでも食べて落ち着いたら?」

そいっていつのまにか女性の手を握っていたのだが、その手に

チョコレートを乗せた。

「ちょっ・・・。」

戸惑う女性チーフ。

「おい、チーフが女の顔になってないか?」

「始めて見たぞ、俺。」

「ありゃあ、そうとうな女ったらしだな。」

「ああ。」

小声で3人の男達が、ひそひそ話をしていた。

「えっ、あっ、コホンっ。

 本題に入らせて貰います。説明してあげて。」

そう言って、部下に促し、女性チーフは席に座った。

時野も対面の席に座り直し、大人しく話を聞いた。


何かと問題が多いVR機において、いま一番怖いのが死者を出す事である。

かつてVR機黎明期に一人の死者と一人の行方不明者が出ており、業界は、

過敏になっていた。

「申し訳ないですが、時野さん、うちの産業医による脳波チェックと簡単な健康診断を受けて頂きたいのですが。」

「ああ、構いませんよ。」

「というか、あなた仕事は何をされてるの?」

女性チーフが聞いてきた。

「勤めていた会社が倒産したので、今は、無職ですが?」

「まあ、無職ならちゃんと睡眠もとれてるでしょうね?」

「もちろんですよ。ゲームで死んじゃったら、それこそ馬鹿らしいでしょ?」

「ON時間を減らして、就活にあてるべきでは?」

グサッ・・・。

ぼそっと言った男性従業員の言葉に時野は沈黙してしまった。

「あっちの説明もしてあげて。」

女性チーフに言われ、更なる説明を続ける。

「こういった事をお願いする事は、まず無いんですが、時野さんの場合は、

 うちのゲーム始まって以来という事もありますし、

モニターを引き受けて頂けないでしょうか?」

「モニターですか。」

「特にON時間のノルマ等もありません。

定期的に脳波チェックを受けて頂き、

 こちらでゲームについてのお話をして頂くだけなのですが。」

「なるほど、脳波チェック等の費用はどうなりますか?」

「むろん我が社持ちです。現在お支払い頂いている月額使用料金も無料と、さして頂きます。」

「それは嬉しいですね。」

「それと、こちらに来て頂いた時には交通費と日当1万円を支給します。」

「無料で釣りが出来て、健康診断も無料で、日当まで貰えるって、

 願ったり叶ったりで、むしろこちらから是非お願いします。」

「うちのゲームは、釣りゲームじゃないんですが・・・。」

説明と契約をすまし、時野は見事モニターになった。

この日の1万円も支給して貰えるという。

「ふむ、一応、職安には相談にいった方がいいな。」

タウントカンパニーの産業医に脳波チェックと健康診断をやってもらった。

この日は、時野ともう一人の計二人だった。

「タウントカンパニーの方ですか?」

「ええ、第2事業部長の氷山寿といいます。見かけない方ですが?」

時野は少したじろいだ。

【おいおい、30代半ばでもう部長って・・・】

時野の最終役職は、課長代理。同期の中では最も遅い昇進だった。

課長補佐になったのは、同期で一番だったのだが、そこで女性問題を多々起こし、一度、主任にまで降格させられていた。

自業自得ではあるのだが。

「私は、ゲームのモニターになりました時野と言います。」

「ああ、タイマーさんですね。私はマルスと言います。宜しく。」

最初は、よそよそしかった氷山だが、相手が釣りバカとわかりフレンドリーに話しかけて来た。

一方の時野は首を傾げた。

【マルス?どっかで聞いたような・・・】

「あのゲーム内でお会いした事がありますか?」

「いえ、ないと思いますよ。タイマーさんが自分のキャラ名を見たとしたら、公式の方じゃないですかね?」

「あっ。」

時野は思い出した。

「確か戦闘馬鹿が、そんな名前・・・。あっすみません失礼な事を。」

「全然構いませんよ?お互い馬鹿やったんだし。」

そう言って氷山は、笑った。

「そうですね。」

時野も笑った。

時野は、氷山の名刺を貰い。アドレス交換もした。


帰り際、職安に行き相談した所、1日働いたとみなされる事となった。

「まあ、しかたないな。」

更に、波田運輸サービスにも寄った。ケーキを持参して。

「本当、時野さんはマメですね。」

春子が言った。

「春子さん、すみませんが、コーヒーお願いできますか?」

社長の波田が言った。

「はい。時野さんは、ありありでしたね?」

「ええ。お願いします。」

時野は、モニターになった事と日当の事を説明した。

「モニターなんてあったのか、サービス開始前ならわかるが。」

「ふっ、これで気兼ねなく釣りが出来るわっ!」

「なんだ時間制限も外して貰えるのか?」

「いや、そういった特典は一切ないが・・・。」

「お前、掲示板でなんて呼ばれてるか知ってるのか?」

「そういうのは見ないから、知らんっ!」

「釣り仙人ですよ。」

春子がそう言って、コーヒーとケーキを運んできた。

「はあ、てっきり釣りバカとか書かれてるのかと。」

「それは、最初のクールタイムの時だな。

2回くらって仙人に昇格してる。」

「釣り仙人か、いい響きじゃないか。」

時野は満足そうににやけた。

「ゲームではいいが、リアルでは仙人になるなよ。」

「くっ・・・。」

波田に釘を刺された。

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