決勝戦
大会前から言われてた事だが、誰もが優勝はカラットだと、
信じて疑わなかった。
しかし、決勝戦が開始されて、時間が経っても、カラットは、
一度も攻撃を繰り出していなかった。
「コンパクトに突いてきてるわね。」
パルコが言った。
「でも、カラットも避けてますよ?」
タイマーが言う。
「攻撃に行けないのよ。間合いの問題もあるんだけどね。」
会場が静まり返る。
「あの娘強いね。」
運営のメインルームで、鑑賞中の開発部長が言った。
「PV班も喜んでますよ。」
運営の一人が言った。
「だろうね、こういう勝負があると作り甲斐があるでしょ。」
「いいPVが出来そうです。」
運営の一人ががにこやかに言った。
「ますます猫耳チーフの出番は、ないんじゃないの?」
開発部長が突っ込んでは、いけない所を突っ込んだ。
「・・・。」
運営チームは、好勝負にのめり込むあまり、すっかり忘れていた。
クレインがコンパクトに突きを繰り返す為、カラットは攻撃に行く
タイミングを逸していた。
もちろん拳に魔法も纏っていない。
魔法を唱える隙が出来るからだ。
いくら、最小の詠唱時間といえども、クレインにとっては十二分に
攻撃を当てることが出来る。
急所に当たれば、一撃で負けが決してしまう。
「ふう。」
カラットは小さく息を吐き、軽やかなステップを踏み出した。
今までは、空手の構えで、ずっと対戦してきたが、
ジークンドーのようなステップを踏み出した。
「ようやく仕掛けるようね。」
パルコが言った。
クレインは、構えの変わった相手に対して、攻撃の暇を与えない為、
コンパクトな突きを放った。
カラットは華麗によける。
今までは、避けるだけだったが、今回は、ステップを踏みながら、
クレインを中心に、時計回りに周りだした。
クレインは、相手の動きに惑わされず、中心に留まり、相手に向けて
コンパクトな突きを繰り返した。
完全に避けてた突きだったが、ステップを踏み出してからは、かする
様になり、カラットの体力を微小ではあるが奪い始めた。
「パルコさん、仕掛けるどころか、カラットがダメージ負ってますよ?」
「そうでしょうね。あの状態で、完璧に避けてたら、化けもんよ。」
「???」
タイマーには、カラットが何をしているのか、わからなかった。




