レシピ
「実はレシピを公開しようか迷ってまして。」
ロッドメーカーは、ゲンに言った。
タイマーは、完全に釣りモードに入っていた。
「ふむ。ちなみにレシピを聞いてもいいか?」
「ええ、ゲンさんになら。ライトカーボンメタル錬鋼5本に、
堅松樹5本です。」
「はあああっ! れ、錬鋼5本っ!!」
採掘で採れる鉱石は、鉱石と名前が付く。
ライトカーボンメタルなら、ライトカーボンメタル鉱石という風に。
錬鋼とは、それを圧縮したもので、延べ棒のような物。
鉱石10個が1本の錬鋼となる。
つまり、ライトカーボンメタル鉱石を50個使ってることになる。
「堅松樹も5本使ってる上に、錬鋼かよっ・・・。」
ゲンは、呆れて何も言えなくなった。
「私も馬鹿な物を作ってしまったなあと思ってるんですが、
こんなロッドを用意してた、運営も運営ですよね。」
VFGXは、プログラム上に存在しないものは作れない。
つまり、用意されていた物という事になる。
「堅松樹どころじゃ、なくなるな。」
ゲンは、恐ろしくなった。
「ただまあ、ここまでのロッドが必要かって事ですけど、
タイマーさん以外は不要な物だと思います。」
「そうなのか?」
「川の5層っていうのは、海の3層になりますんで、
海に行けば、今までのロッドで十分なんですよ。
堅松樹だけで作ったロッドすら不要ですね。」
「まったく、道楽を極めようとするととんでもないってのは、
この事だよな。」
「そうですね。私としては道楽で生活させて貰ってるんで、
あれこれ言う立場ではないんですが・・・。」
「確かにな。」
「発表したらどうなりますかね?」
「大騒ぎになるだろうな。前線組も何か言ってくるかもだな。」
「しかし、秘密にもできないでしょ?」
「そうだな。アイツは目立つんだろ?」
ゲンは、釣りに没頭してるタイマーを指さした。
「滅茶苦茶目立ってますね。今回2本だけ作れたんですが、
もう一本はローラさんに行く予定です。」
「そりゃあ、これ以上ないってくらい目立つだろ。
1周年記念人気投票NO.1が使ってるロッドなら皆気になるだろうな。」
「ですね。」
「隠してても騒ぎになりそうだし、困ったことになったなあ。」
「そうなんですよ。ただ今回のロッドは、タイマーさんくらいしか
必要とはしない物なんですがねえ。」
「釣り仙人が使ってるとあっちゃあ、使いたくなる奴も出てくるんじゃ
ないのか?」
「困りましたね。」
「ぶっちゃけレシピ公開して、作成できる奴がいるのか?」
ゲンは聞いた。
VFGXでは、レシピが判ってもスキルが上がってなければ、素材を扱う
事が出来ない。
更に、よりリアルを追及してる為、生産すらプレイヤースキルが必須と
なっている。
「ちなみに私が成功させるのも50%なんですが・・・。」
もちろん失敗作品は、使用することも出来ず、NPCに屑値で売るしかない。
「とんでもないもん、作っちまったな・・・。」
「お恥ずかしい・・・。作る前は、どんなものが出来るかワクワクして
たんですが。」
「その気持ちは、生産職やってないと、わからないだろうな。
どっちにしろ騒ぎになるなら、注意書きつけて公開したらどうだ?」
「ですかね。下手に隠してると方々に迷惑が掛かりそうですしね。」
「それにロッドメーカーさんで、成功率50%と書いておけば、
おいそれと作ってもらおうって思う奴も居ないだろ。」
「そうですね。あとは海に行けば不要なロッドとも付け足しとけば。」
「それがいい。」
「一応、組合にも話通しときますね。」
「一応な。今回のロッドに関係ありそうなのは、俺たちとヨサクくらいだし
組合も特になんも言わないだろ。驚くとは思うが・・・。」
二人が、レシピの扱いを相談中も、タイマーは黙々と釣りを続けていた。
嬉々として、釣りを続けていたタイマーだが突然ロッドが消失し、
あせった。
「お、俺のブラッククリスタルロッドがっ!」
「ど、どうした!」
ゲンが声をかける。
「ロ、ロッドが・・・。」
「タイマーさん、40時間到達したんでは?」
ロッドメーカーが冷静に言った。
「あっ・・・。」
タイマーは茫然としてしまった。
「何がどうなったんだ?」
ゲンがロッドメーカーに聞いた。
「タイマーさんがあまりに釣りに時間を掛けるんで、運営が時間制限を
つけたんですよ。釣りに。」
「そりゃあ、また。えらいとこに目つけられたもんだな。」
「制限っていっても、週に40時間なんですけどね。」
「ちょっ・・・、釣りすぎだろ・・・。さすが釣り仙人だな。」
ゲンは呆れて言った。




