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2回目の

翌日、波田運輸サービスを訪れた時野は、

「すみませんでしたっ!」

とパートの事務員さんに深々と頭を下げていた。

ケーキを持参して。

「も、もういいです。今後は気をつけて下さいね。」

「はい、常磐にも、もの凄く怒られて・・・。」

「常磐さん??」

「あ、ああ・・・。難しいですね。リアルとゲームの使い分けが・・・。」

「慣れだ。」

社長の波田進が、時野に言った。

「しかし、春子さんって人妻ですよね?

会社にゲームとこんな奴と一緒で、大丈夫ですか?」

「こんな奴って言うなっ!お前と違ってちゃんとしてるわっ!」

「ゲームの時は、旦那も隣でゲームしてるから。」

「旦那さんもやってるんですか?」

「別ゲームですけどね。ガンフィールド12って銃のゲームね。」

「はあ。」

「まあ、そんな事より時野。うちで働かないか?

給料安いし、キツイ仕事だが、お前の年だと再就職厳しいだろ?」

「うっ・・・、きっとそのうち俺にあった仕事が見つかる予定だっ!」

「失業保険は、いつ切れるんだ?」

「まだ6ヶ月もあるわいっ!」

「あと6ヶ月しかないのか?」

「・・・。」

「就活状況は、どんな感じだ?」

「殆どが35歳未満だ。なんだあの35歳の壁は?」

「知らないのか?国から補助金が出るんだよ。会社に。」

「な、なんだと・・・20年間死にものぐるいで働いて税金納めて来た人間になんだこの仕打ちは・・・。」

「毎日ぶらついてても仕方ないだろ?まずはバイトしてみるか?」

「断るっ!バイトすると失業保険が貰えない。

というか働いた日が先延ばしされるからな。」

「失業保険、全額貰う気か・・・。」

「20年間真面目に働いて税金納めて来たんだ、それ位いいだろっ!。」

「それはいいが、本当に駄目人間になってしまうぞ?」

「ぬっ・・・。」

「時野さん、バイトの件、職安に聞いてみたらどうです?」

春子がアドバイスした。

「そうですね。体動かしてないとヤバイですしね。」

時野は素直に受け入れた。


失業保険を貰う人間は、月に最低2回ハローワークに出向かなければいけない。

認定日と就活した日数が二日必要になる。

就活とは職安に行って面談もしくは、パソコンで検索しただけでもOKで、

認定日に行って検索し、もう一日検索と最低の二日しか行かない事を、儀式と呼んだりもする。

時野は、認定日にバイトの相談をした。

「延長は360日以内となってます。職業訓練の場合は、訓練終了まで延長になりますが、バイトですと360日以内ですね。」

「というと、90日はバイト出来るということですか?」

「簡単にいうとそうですね。

細かい日程もありますんで、その都度相談されるのがいいと思いますが、

 バイトの方は日程調整できますか?」

「知り合いの所なんで、出来ます。」

なんとかバイトは出来るようだ。

時野としては、さっさと就職を見つけ、再就職手当で我慢しようと考えていたのだが、35歳の壁に頭に来ており、何とか全額貰ってやろうという気になっていた。

蓄えもあり、現在はバツイチで独身。

相手側が既に家庭を築いており、子供の養育費も不要。

多少の株券も持っており、20年位は、今の状態で暮らせるセレブ無職ではあるが、今の状態を数年も続けたら、死んでしまうんじゃないかという危機感も時野にはあった。

帰り際、波田運輸サービスにより、忙しい時にバイトに入るという事になり、時野は自宅へ帰り、ゲームにONした。

「一週間貯まりに貯まった鬱憤を晴らさせて貰おう。」

そういって、最初の村の川へ。

サービス開始から、1年以上も経っており、最初の川で釣る人間は一人も居ない。

最初の村には、ゲートで飛べるため、露店はチラホラと見かける。

暫く釣ってると、タイマーは違和感を感じていた。

川には流れがあり、ランダムでポイントが変わるのは既に熟知していたが、

層があるんでは?と疑問を持つようになっていた。

しかし、最初に買える「丈夫な竿」では、その先に到達出来なかった。

「ふむ、この世界に感度なんてあるのかなあ。」

暫く考えて、釣りを一旦中断した。

気晴らしに、村の中を歩いていると、露店に釣り竿屋を発見した。

買う金は持っていないが、見るだけはタダなので、じっくりと鑑賞した。

「やはり、感度は記載してないかあ。」

ロッドを手に取り情報を見ても、メインの材料と耐久度しか書いていない。

「感度重視の竿をお探しで?」

「うわっ・・・。」

自動露店だと思って、声を掛けられるとは思っていなかった。

「す、すいません。お金無くてみてるだけなんで。」

「いえいえ、冷やかし大歓迎です。今のご時世、見る人すら居ないんで。」

「じゃあ、失礼ついでにお伺いしますが、この世界に感度ってあるんですかね?」

「ありますよ。ただ、そこまで重要視はされないと思います。」

「そうなんですか?」

「釣りたい魚が居れば、釣れる場所に行けば釣れますから。」

「うーん・・・。ちなみに感度重視の竿ってお幾らくらいでしょ?」

「昔に作ったのでしたら、無料で差し上げますよ?」

「えっ・・・。」

「タイマーさんですよね?」

「そ、そうですが。」

「是非、うちのロッドを使って頂きたい。」

「は、はあ。」

「今時、ロッド買う人なんて居ないんですよ。釣りギルドってのもありますが、お抱えの木工職人が居ますしね。」

「でも、いいんですかね?アップライスなんて、名前使って?」

ロッドの説明には、アップライス製と書かれてある。

アップライスは、現実世界に存在するロッドメーカーである。

「いいもなにも、これ業務の一環ですから。」

「ええええええっ・・・。」

「何かしらの宣伝になるかなとやってみたんですが、まったく売れず、

 現実のように感度を聞かれたのは、タイマーさんが初めてですよ。」

そういって、店の店主ロッドメーカーは、昔に作った感度重視の竿をタイマーに渡した。

名刺交換も終わり、タイマーは釣り座へと戻った。

「これなら、層がわかるかも。」

ある一定の条件を満たした時、川の中に層のような物が出来るのは、1週間の釣行で感じていた。

しかし、丈夫な竿では、曖昧な感じしか掴めずいつもと変わらない魚しか釣れて居なかった。

一番安い餌、赤サシを針につけ、いざ実釣。

この世界には、リールは存在せず、ロッドのボタンを押せばラインを自動的に送り込んでくれる。

流し込んでも隣人とライントラブルになる事もなく、そもそもライントラブルが存在していない。

「よし、なんとか1層に餌を送り込めた。」

そうすると魚がヒット!

ヨシっ。

特に苦労する事もなく上がって来た魚は、鯵。

「・・・。」

「川で鯵って、何それ?」

タイマーではなく、女性の声だった。

タイマーが振り向くと、釣り竿を抱えた女性キャラが立っていた。

「えっと・・・。」

困惑するタイマー。

「始めまして、ローラです。釣りギルド「バラサン」の副GMをやってます。」

「始めまして、お嬢さんタイマーです。」

いつもの調子が戻り、そっと女性の手を取り挨拶する。

「えっ・・・。」

今度は、ローラが困惑した。

「それで、お嬢さん、どのような用件で?」

「あ、いや、釣りでクールタイム食らった人が居るから見にきました。」

「なるほど。宜しければ、隣へどうぞ。」

自然とエスコートして、ローラを隣へと座らせた。

ニッコリとローラに笑いかけ、タイマーは再び釣行を開始した。

1層を感じて、更に流し込み2層で送り込みを止めた。

グッ と強い引き込みが。

竿を立ててしならせる。

「鯉?」

ローラが声に出す。基本、川で大きい当たりは鯉しかいない。

竿がクンっ クンっ クンっとしなる。

俗にいう叩くというもの。

「うーん、叩いてるから鯛系じゃないかな?」

タイマーがそう言うと。

「鯛系って、ここは川で・・・。」

そう言って、ローラは先ほど、タイマーが鯵を釣り上げたのを思い出した。

5分程度のやり取りをすると、魚もようやく大人しくなり、あがってきた。

真っ赤な鯛が。

「真鯛ですねえ。」

タイマーがあっさり言う。

「最初の川で海の魚が釣れるなんて聞いた事ないんだけど・・・。」

タイマーは、層の説明をして、ロッドを貸してレクチャーした。

最初は、層というものをローラは掴めなかったが、丁寧に説明して貰ったお陰で、鯵を釣る事が出来た。

その際、タイマーが体を密着してきたりもしたので、パーソナルスペースの警告が、出ていたが、ローラは気づかれないように解除した。

その後、二人でロッドメーカーの露店へと向かった。

ロッドメーカーは、居なかったので、メールで呼んでみると直ぐ来てくれた。

夕方の16時なので、まだ就業時間のようだ。

「そうですね、感度重視のロッドは、試作品がまだありますんで、

 ローラさんにお譲りしましょう。

釣りギルドの方に使って貰えばいい宣伝になりそうですし。」

「うちのギルドもそれなりに、蓄えがありますんで、次から購入させて貰いますね。」

「是非。」

そういって、商談が成立した。


その後1週間、タイマーは釣りに釣った。そして見事、2回目のクールタイムへ

突入した。

VR機初心者が、VR機にのめり込みクールタイムを食らう事は、希にある。

しかし、1週間のクールタイム後、再びクールタイムを食らった例は、数例しかない。

ヴァーチャルファンタジーGXで言えば、そもそも釣りでクールタイムを食らったのは、タイマーだけという。

しかも2連続と言う事で、某掲示板は盛りに盛り上がった。


「何やってるんですか、先輩・・・。」

いつものキレがなく、もはやあきれ果てたような感じでカラットは言った。

「いや・・・今回は村を歩き回ったり、ただ寝っ転がってたり、

 全て釣りしてた訳じゃあ・・・。」

「1週間で50時間以上らしいですよ?」

パルコが言った。

ここは、「鋼の翼」のギルドルーム内。

パルコとミラは、いつもの場所に座って二人で一緒だった。

「たった50時間・・・。」

「ちゃんと働いたらどうです?」

「うっ・・・」

パルコに突っ込まれた。

「先輩に、ゲーム奨めた自分が間違ってましたね。」

「カラット君は、どうしてこんな駄目人間に勧めちゃうかなあ。」

「だって就活失敗して、家に閉じこもって死んじゃいそうだったんで。」

「ま、まあ。それならしょうがないわね。」

パルコにも前例がある為、あっさり納得した。

「酷いと思わないか?ミラちゃん。」

そう言って、いつのまにかミラの隣に座っていたタイマー。

ミラは、恥ずかしがってるのか下を向いて何も喋らない。

「タイマーさんっ!」

「は、はいっ。」

パルコに強く名前を呼ばれ、その場を直ぐ離れた。

「ミラちゃん気をつけてね。あの人、天然の女ったらしだから。」

パルコがミラに注意する。

「なんですかそれ?前の会社では天性の女ったらしって呼ばれてましたよ?」

カラットが聞いた。

「リーダーがそう言ってたんで、私たちはずっとそう言ってるわよ。」

「へー、天然のかあ。その方がしっくりくるなあ。」

「おい、女ったらしって何だ。失礼な。」

「出世しない耕作ってあだ名もありましたよね?」

グサっ。

カラットにとどめを刺された。

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