ラストストーリーは突然に
始まりがあれば、終わりがある。
終わりがないものなんて存在しない。
ついに、時野正の失業保険の給付が終了した。
「終わってしまった・・・。」
「当たり前だ、いつまでも無職じゃ駄目だろ。」
波田運輸サービスで、時野は、波田に言われた。
「ずっと支給してくれればいいのに。」
「そんな事したら、誰も働かなくなるだろうが。」
「中には仕事が生きがいの人もいるだろ。」
「ごく少数だろう、それは・・・。」
駄目だコイツ、ダメ人間脳になってやがる。
波田はそう思った。
「で、どうするんだ?うちで従業員になるのか?」
「いや、仕事決めてきた。」
「ほう。」
「まあ働かないとな、やっぱり。」
「という事は、ウチのバイトも終了だな。」
「ああ。」
「今度、就職祝いに飲み会でもやるか。」
「いいな、それ、よろしく頼むよ。」
時野は、波田運輸サービスを後にしてタウントカンパニーへ向かった。
受付から応接室へ案内される途中で、運営の緑川チーフに出会った。
「あれ?時野さん、今日は報告の日じゃあないですよね?」
「ええ、今日は専務に用事がありまして。」
「は??」
一体何の用が・・・不審に思いチーフは、時野について応接室に行った。
「あ、あの・・・。」
隣に座ったチーフに、疑問を投げかける時野。
「何か?」
「いや、どうしてチーフが俺の隣に?」
「私が自分の会社に居ておかしいですか?」
「・・・。」
「どうして、志保ちゃんがここに?まさか時野さんと付き合ってるのかね?」
専務は、応接室に入るなり、いきなり、そう言ってきた。
「はあ?どうしてそういう事に?」
「時野さんは、ゼネコンの業界では、知らない人が居ないと言うほどの女ったらしだから・・・。」
専務は、孫のように可愛がっているチーフを心配して言った。
「そんなに有名な女ったらしなんですね。」
チーフは白い目で時野を見た。
「酷いですね、専務。どこからそんな話を。」
時野は困ったように言った。
「いや、付き合ってないならいいんだ。うむ。」
改めて時野が挨拶をした。
「今日はお忙しい所、お邪魔して申し訳ありません。お電話では失礼かと思いまして、直接お断りにまいりました。」
「ふむ。」
「えっ、何の話ですか?」
チーフは専務に聞いた。
「いや、何、時野さんをうちに誘ってたんだよ。」
「な、なっ・・・、こんな釣りしかしない輩を・・・。」
チーフは驚いた。まさかそんな話があったとは。
「ゲーム作りに携わった事もないんでしょ?」
チーフは、時野に聞いた。
「いやいや、志保ちゃん、私が誘ったのは第一事業部だよ。」
タウントカンパニーの第一事業部は医療関係の本丸である。
「うがっ・・・。」
第一事業部の中途採用と言えば、大学病院の先生や医学部の教授、もしくは、名のある研究者といった感じで、一般の中途採用は一切していない。
それ故に、言葉にならないような驚きを感じていた。
「条件で気に入らない所でもあったのかね?」
「いいえ、むしろ身に余るほどの条件でした。」
「ふむ、まだ無職で居たいのかね?」
「いえ、実は就職先が決まりまして。」
「ほう、うちを断って行くぐらいだから、条件がいいのかね?」
「条件はいいとは言えませんが、必要とされているようで。」
「なるほどなあ。」
同じ男だから、専務は理解できた。
必要とされていると言うのは金銭には代えがたいものがあるということを。
専務とのお断りの挨拶も終わり、会社を出る前に時野はチーフに聞いた。
「そう言えば、就職するんですが、モニターの件は?」
「特に問題はありません。むしろモニターは、普通は働いてる人がするものですから。」
「なるほど。じゃあ志保さんとも、またお会いできますね。」
「なんで、いきなり名前呼びなんですかっ!」
「いえ、何となく。」
「そんなんだから、女ったらしって言われるんですよ。」
まったく自覚がない訳ではないが、昔からこうなんで、今更変える気もなかった。
一人歩く帰り道。
平日のこんな時間に、ただただ歩くなんて事は、当分ないだろう。
そう思いながら、最後の無職を噛みしめながら歩いていた。
うーっと空に大きく手を伸ばし背伸びする。
「さーてっ!ちゃんと働きますかっ!」
連載開始から2年、今まで読んでくださった方々に、感謝の気持ちでいっぱいです。
最後まで書き続けられたのも、読んでくださった方々のお蔭です。
233万PVという思ってもみなかった数字になり感無量です。
無事門も開き、時野正も就職いたしました。
また、どこかで会えることをお祈りして、お別れの言葉と致します。
応援ありがとうございました。