食虫植物
ギルバルトが自分のギルドに戻ると、見慣れた光景が、
いや、異様な光景が目に入ってきた。
クレインにアイアンクローをガッチリくらっている
カルディナ。それと見たことが無い女性が二人。
ギルバルトは、何事もなかったように、いつもの席に
座った。
「何か変わった事は?」
ギルバルトは近くにいた男性幹部に聞いた。
「い、いえ、何も。」
とりあえず、ギルバルトは、レイドボス討伐メンバーの
選定をしようと思ったが。
ベルラインと目が合った。
ベルラインの目は強く語っていた、こっちに来いと。
ギルバルトは、重い重い腰を上げて、ベルラインたちの方へと向かった。
「新人さんか?」
ギルバルトは、ベルラインに聞いた。
「ヨウシさんと・・・、エレナさんだ。」
ベルラインは、二人をギルバルトに紹介した。
「聖騎士団団長のギルバルトです。」
「えっ、ベルラインさんが団長さんじゃないんですか?」
ヨウシが驚いた。
「私は、副団長だ。」
「なるほど。」
ギルバルトは、言葉に詰まった。
何を聞いていいかわからなかった。
恐らく困ってたであろう新人二人を連れて来たのは、
ベルラインだ。
その新人に、チョッカイだそうとした、アレが
アイアンクローを食らっているのも容易に想像できた。
「ヨウシさんは、PVの薙刀使いに憧れてこのゲームを
始めたということだ。」
ベルラインが説明した。
「ほう。」
PVの薙刀使いと聞いて、ギルバルトは一人しか
該当者が思い浮かばなかった。
「クレイン、グランマさんは、今日は?」
ギルバルトは、アレにアイアンクローをかましてるクレインに聞いた。
「おばあ様は、もう少ししたらONします。」
「そうか、むさ苦しい所ですが、ゆっくりして
行ってください。」
ギルバルトは、新人二人に言った。
「ねえ、ヨウシ、あの子ヤバいわよ。」
エレナは小さい声で、ヨウシに耳打ちした。
「何がヤバいのよ?」
「本物のガチよ、間違いないわ。」
「私には、エレナとの違いがわからないわ。」
「全っ然っ、違うでしょっ!私、ノーマルだし。」
「へ、へぇ・・・。」
その後、ヨウシとエレナは、聖騎士団の女性メンバーと
談笑して時間を潰した。
カルディナが、クレインによって隔離されていたのは、
いうまでもない。
「ヨウシさんって、なぎなたやってたんですか?」
女性団員の一人が聞いた。
「ええ、高校、大学とやってました。」
「それは、本格的ですね。」
「でも、大学の時は、同好会でしたから。」
「ちょっと前に薙刀流行ったよね。このゲームでも。」
別の女性団員が言った。
「そうなんですか?私達がやってたゲームでは、薙刀が
無くなってしまって。」
「何やってたんですか?」
「ソードバトルエボリューションです。」
「ああ、S.B.Eね。」
「聞いた話だと、スキル重視のゲームよね。」
「そうなんです。薙刀は、不遇の武器だったんですが、
使う人も減少して、ついに無くなりました。」
「あのゲームって仕様変更多いって聞くよね。」
「聞く聞く。」
「あの、このゲームで流行った薙刀はどうなりました?」
「あ、ああ。最初だけよね。」
「うん、一気に流行って、大量に薙刀出回ったけど、
今じゃあ聞かないよね。」
「私は、今でも少し習ってるけどね、冒険とかじゃあ
使わないけど。」
「だよね。」
「ここに居たら、教えて貰えるんですか?」
「うん。」
「他にも色々教えてくれるよね。グランマさんは。」
「姿勢とかマナーとかね。」
「わあ。」
ヨウシは、期待に胸を膨らませた。
このギルドに入りたいとそう思ってはいるが・・・。
隣のエレナを見て現実に引き戻される。
「もし私が、聖騎士団に入りたいって言ったら、
エレナはどうする?」
「私も入るに決まってるじゃない。」
キッパリとエレナは、即答した。
「はあ・・・。」
小さなため息をつくヨウシ。
「あっちにいるカルディナさんって人とエレナは、
仲良くやっていけるの?」
「無理っ!と言いたいところだけど。私は分別のある
大人だし、ヨウシが困るような事はしないわ。」
「じゃあ、ちょっと挨拶してきてよ。」
「簡単よ、そんなの。」
そう言って、エレナはカルディナの方へ行った。
「エレナさん、気を付けてね。」
女性団員が忠告した。
「先ほどはどうも。」
エレナは、そう言ってカルディナに挨拶をした。
「ははん。」
カルディナはニヤっと笑い、舌なめずりした。
「何よ?」
「いえ別に、私と同じ香りがするなあと。」
「失礼ね。私はノーマルよ。」
エレナは、キッパリと答えた。
「そうなんだ。」
カルディナは、そういうと次の瞬間、一気にエレナに
抱き付いた。
まるで食虫植物のように。
「な、なななな・・・。」
突然の出来事に平静を失うエレナ。
ガシっ!
刹那!
神速のアイアンクローがカルディナの額に決まる。
一気に引きはがされるカルディナ。
そのまま、大人しく椅子に座らされた。
「触れると危険なんで、気を付けてください。」
クレインは、そう言って、エレナに忠告した。
身震いしながら戻ってきたエレナに、ヨウシは謝罪した。
「ごめん、エレナ。あの人、本当にヤバいね。」
「そ、そうね。」
エレナは、震えながら答えた。




