新人さんいらっしゃい
ベルラインは一人、森の中を歩いてた。
森と言っても敵が出るような森でなく、最初の村の中に
ある森だ。
ベルラインは、一人になりたいときに、こういった散歩
をしている。
昔のゲームであれば、散歩なんてものはしない。
移動は時間の無駄、もしくは、苦痛を感じるほどで・・・。
しかし、VR機は違う。
本当に森の中を歩いている気分になれる。
クエストや、レべ上げだといった殺伐なものではなく、
ゲームの中の風景を楽しんでいた。
最初の村の森と言うだけあって、人影は少ない。
最近では、初心者も疎らで、新人争奪といった、
ギルド間の争いも少なくなっていた。
「なあなあ、俺たちのギルドに入りなよ。」
「そうそう、新人さんだろ?」
ベルラインは運が悪い事にそういう場面に出くわして
しまった。
普段なら連合といった大手ギルドが目を光らせている
のだが、もっか釣り仙人見守り中だった。
二人の男キャラが、殆ど裸当然の女性キャラ二人に
言い寄っていた。
性別の選択がほぼ不可能なVR機にあって、女性は、
貴重な存在だった。
それでなくても、女性ギルドに女性が偏るのに。
「手取り足取り教えるからさあ。」
リアルで女性に声を掛けれないような奴ほど、
ゲーム内では、積極的で、女性の誘い方というものが
わかってなかった。
「結構です、私達もVR機は初心者じゃないので。」
キッパリと断られたが、空気も読めない男たちは、
更に勧誘を続けた。
「おい、お前たち。」
そんな光景を見逃せるわけもなく、ベルラインは声を
掛けた。
重厚な鎧に身を包み、女性キャラの中では、
上背はある方で。
ガシャンっ
右手に持ったメイスの柄で地面を叩いた。
「が、頑強・・・。」
男たちは、一目で相手が誰かがわかった。
そして、その肩書きも知っている。
サポート協議会の人間だ。
VFGXをやってる男なら誰もが知ってる不文律。
“サポート協議会を敵に回すな”だ。
「い、色々と大変だろうけど頑張って。」
男たちは、女性二人にそう言い残すと、足早に
去っていった。
「アイテムボックスに、装備があるはずだ。
着ておくといい。」
ベルラインは、二人の女性に助言した。
オンラインゲームというものは、初心者に優しいもので
昔は、なかったような装備やアイテムなど、初めから
アイテムボックスに入っていたりする。
「本当だ。ありがとうございます。」
そう言って、ショートカットの女性は、
アイテムボックスのウィンドウを開き装備を装着した。
もう一人の長髪の女性は、ベルラインに近づき、
手を握った。
「危ないところを助けて頂きありがとうございます。」
ねっとりとした視線を、ベルラインに向けた。
【これは関わりにならないほうがいいな。】
ベルラインはそう思った。
「私はエレナと言います。宜しければお名前を。」
「いや、名乗る程の者ではない。このゲームには、
さっきみたいな連中も居るが、親切な人間も多い。
初心者をサポートしてるギルドもあるので、
もし良ければ、ギルドを紹介してもいい。」
ベルラインは、連合でも紹介して、さっさと立ち去り
たかった。
「お急ぎですか?良ければ私達に色々教えて
欲しいんですが?」
ネコ撫で声で、ベルラインに接するエレナ。
酷く困ってる風なベルラインを見かねた、もう一人が、
キッパリと言った。
「すみません。連れがご迷惑おかけして。
私も縁を切ろうと思いますので、
どうぞ行ってください。」
「えっ、ヨウシ、酷いじゃない。一緒にこのゲームまで
始めたのに。」
焦ったエレナは、ヨウシの方を振り返った。
「恩着せがましく言われても、私、頼んでないし。」
「私が何をしたっていうの?お礼を言った
だけじゃない?」
「どうして、手を握る必要があるの?」
「そんなの女性同士のスキンシップじゃない。」
「へー・・・。」
ヨウシは呆れた顔でエレナを見つめた。
「第三者の私がいうのもなんだが、付き合いは
ゲームだけに止めておいた方がいい。」
ベルラインは、忠告した。
「ちょ、ちょっと二人とも勘違いしてません?
私、ノーマルですよ?」
「エレナから、男関連の話聞いたことないんだけど?」
「知り合いにガチなのが居るんだが、雰囲気が似てる。」
ベルラインが言った。
「言っておきますが、言い寄ってくる男の一人や二人
普通に居ますよ。」
「言い寄って来ても、それがノーマルの証明には、
ならないと思うが・・・。」
ベルラインがボソっと言った。
「うっ・・・。」
言葉に詰まるエレナ。
「すみません、助けて頂いたのに変なのに
巻き込んじゃって。」
そう言って、ヨウシは頭を下げた。
「もし困るような事があれば、連合というギルドを
頼るといい。初心者を積極的にサポートしてる
ギルドだが、ギルメンは募集してないので
勧誘されることもない。」
「そんなギルドがあるんですね。ありがとうございます。」
そう言って、ヨウシとベルラインはお互い名を
名乗る事もなく何事もなかったように別れようとした。
が、
「ちょ、ちょっとまってください。何、勝手に話
終わらそうとしてるんですか?」
そういうエレナに対し、ヨウシは話と共に関係も終わらせたかったのだが。
「私達、今日、初めてONしたんです。もう少し
お付き合いしてくれてもいいんじゃないですか?」
至極まっとうな正論だが。
「ごめんエレナ、もう黙っててくれる?」
ヨウシは、冷たく言い放った。突き放すように。
「そう・・・。ねえ、ヨウシ。ストーカーって、
どうやって生まれるか知ってる?」
そう言ってエレナは、壊れたような笑いを浮かべた。
「もしかして、リアルでも知り合いなのか?」
ベルラインは、心配になって聞いた。
「前のオンラインゲームで知り合いになって、
女同士で、住んでる所も近かったんで、リアルで
会ってしまいまして・・・。」
ヨウシは、酷く後悔していた。
「ふむ、知り合いにリアルで警察官の人間がいる。
よかったら紹介しようか?」
ベルラインは、ほっとけなくなった。
「う、嘘です。ストーカーになんかなりません。」
エレナは、焦って取り繕った。
ベルラインが見るに、ショートカットの女性は、
礼儀正しく、感じのいい女性。
一方のエレナの方は、感じ的にカルディナ系の匂いが
ぷんぷんした。
関わりにはなりたくないものの、ショートカットの
女性の方は放ってはおけなかった。
「私はベルラインと言う。宜しく。」
名を名乗り、あくまでもショートカットの女性にだけ
挨拶した。
「助けて頂いて、ありがとうございます。
ヨウシと言います。」
「前のゲームは何を?」
「S.B.Eってゲームなんですが、知ってますか?」
「ああ、知り合いが前にやっていた。」
エレナは、蚊帳の外で、ヨウシとベルラインは、
二人だけで会話を始めた。
「もしもーし、私も居ますよっ!」
二人の間に割って入るエレナ。
「ふうっ・・・。」
ベルラインは、ため息を一つついた。
「二人は、どうしてVFGXに?」
「薙刀使いのPVを見て、是非やってみたくなって。」
VFGXに薙刀使いは、殆ど居ない。
更にはPVに出てるとなると該当者は、1名しかいない。
「んー・・・。」
ベルラインは、エレナの方を見て、考え込んだ。
「どうかしました?」
ヨウシが聞いた。
「その薙刀使いは、おそらく私のギルドの人間だ。」
「えっ!」
ヨウシは、驚いた。
いつか会ってみたい、そう思っていた。
まさか初日に関係者に会えるとは、思いもしなかった。
是非、紹介してください。
と言葉に直ぐ出しそうになったが、飲み込んだ。
そうして、となりのエレナを一瞥する。
「何?紹介して貰えばいいじゃない?」
簡単にいうエレナ。
「助けて貰った恩人をトラブルに巻き込むのは。」
「何よ、トラブルって!」
当事者のエレナが言った。
「いやあ、実は私のギルドにもトラブルメーカーが居て。」
ベルラインは困ったように言った。
「そ、そうなんですか・・・。」
何処にでも居るんだな、エレナみたいなのとヨウシは、
思った。
「あの、私、これでも社会人ですし、
分別がつく人間ですよ?」
先ほど、ストーカー発言をした人間とは思えないような
言い草だった。
「個別に紹介なら出来ると思う。」
「ベルラインさんのギルドは、女性のギルドですか?」
ヨウシが聞いた。
「いや、むしろ男性の方が多い。」
「そうなんですか。」
「ただ、女性は少ないが、ガチなのが一人居てね。」
そこへ、エレナを連れてくと、どんな化学反応を
起こすのか・・・ベルラインは不安材料しか
思い浮かばなかった。
「心配無用ですよ?私は、分別のある大人ですし。」
当事者が言うと、まったく信用がなかった。
このまま、放っておくことは、到底できない
ベルラインは、ギルドリストを確認した。
【カルディナは、居ないか。よしっ】
「ここでは、何だし、私のギルドへ行こうか?」
「いえ、そんな、ご迷惑が掛かりますし・・・。」
そう言って、チラッとエレナを見るヨウシ。
「大丈夫、大人しくしてるからっ!」
キッパリと言い切るエレナでは、あったが。
恩人に迷惑は、掛けたくはないが、薙刀使いには、
会いたい。そんな思いが交錯して悩むヨウシ。
「先ほども言ったが、男連中が多いギルドだ。
多分大丈夫だ。」
悩んでいるヨウシを不憫に思い、ベルラインが言った。
正直な所、頼りにならない男性陣なのだが・・・。
「そ、そうですか・・・。もし迷惑になるようなら、
私が全力で止めますね。」
ヨウシは、決心した。
こうして、3人は、ギルド「聖騎士団」に向かう事に
なった。




