釣り開始
「それでは、タイマーさん宜しくお願いします。」
ギルバルトは、そう言い残しログアウトしていった。
他の面々も次々とログアウトしていく。
「それじゃあローラちゃん、メール宜しくね。」
パルコがローラに言った。
「だから・・・。」
ちゃん付けで呼ばれるのに納得していないローラだが、
パルコは有無を言わさずログアウトしていった。
50キャラ近くログアウトして行った訳だが、それでも
バラサンのギルドルームには、まだ100名近いキャラ
が、残っていた。
「バラサン」と「ツレルン」のギルメン達だ。
皆、タイマーの釣りを見るために集まっていた。
バラサンの人間にとっては、タイマーは嫉妬の対象でも
あるが、それでも気軽に声を掛けてくる面々も多い。
ツレルンに至っては、GMが弟子ということもあり、
全員が好意的だった。
その弟子のヨンペイは、ONしていなかった。
「仙人、すみません。うちのGMは今日はリアル都合で
ON出来ないらしくて。」
ツレルンの人間が、タイマーに話しかけた。
「聞いてますから、大丈夫ですよ。」
「その分、俺らが応援しますんで頑張ってください。」
「是非、皆さんも釣れるようになってください。」
タイマーは逆に激励した。
「じゃあ応援と並行して、技を盗ませて貰いますね。」
「どんどん盗んでください。」
タイマーはニッコリと笑って答えた。
タイマーにとっては、レイドボスを釣り上げるのが自分
一人という状態は、一日でも早く終わってほしかった。
注目されるのも頼み事されるのも特に気にはならないが
あまりに多くの人から頼み事されたのでは、時間が
いくらあっても足りない。
まあといっても、どうせ釣りするんだから、一緒のこと
ではあるが・・・。
「もうっ!なんなのよっ。」
既に隣で釣り始めていたローラが愚痴をこぼす。
ローラは、糸当たりがわかるまでになっていた。
「凄いじゃないかローラ、糸当たりがちゃんとわかる
なんて。」
「厭味なの?」
「いやいや、本当に感心してるんだよ。」
「意味ないんでしょ?糸当たりわかっても?」
「意味ない事はないけど、糸当たりでは、当たりは取れ
ないよ。ヒットさせるには、感覚的に感じないと。」
「ようは糸当たりが来そうってのを感じとれと?」
「だね。」
「・・・。」
「釣り続けてるとそういった、第6感的なものが
出てきたりするんだよ。」
「何その超能力的な・・・。」
「うーん、理屈じゃあ説明できないんだけどね。
勘というかインスピレーション的なもので・・・。」
「まあいいわ。糸当たりみてたらわかるように
なるかもしれないんでしょ。」
「そうだね。」
確実性な物では無いため、タイマーは上手く説明が
できなかった。
実際、どんな世界にもこういった第6感と言われる
ものが存在している。
何となくといった、曖昧なものから、危険察知といった
ものまで、説明はできないが確かに存在している。
釣りの世界で言えば、ルアーを何万、何億とキャスト
していると、ある時、不思議な感覚を感じ取ることが
できる。
あっ何か魚が追いかけてきている。
そう感じ、少しルアーの動きを止めて。
来るっ!
と感じた瞬間、実際にヒットする事が多々ある。
嘘みたいな話だが、釣りを長年やってる人達であれば
何度か体験してる現象だ。
「さて、始めるとするか。」
ようやく、タイマーが釣りの準備にかかった。
ギルドルーム内の全員が、タイマーの一挙手一投足に
注目する。
タイマーは特に緊張する事なくいつも通りの動きで。
釣り始めて暫くすると最初の糸当たりがあった。
しかし、タイマーは微動だにしない。
「今、糸当たりあったわよね?」
「本当にローラは凄いなあ。」
ローラの方は、糸当たりがあれば、体が反応して
合わせを入れている。
釣り人の性ではあるが、微動だにしないタイマーが
異常というか卓越していた。
「糸当たりに合わせを入れても獲れないからね。」
タイマーにしても、糸当たりが来そうという第6感は
毎回あるわけではない。
タイマーは、ずっと糸当たりが来そうという第6感を
待っていた。
降りてくる、そんな表現があってるのかさえ曖昧な
現象を。




