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弟子たち

「うちの派閥の連中は、毎度毎度くだらない事を。」

専務は自室で、辟易としていた。

「まあ彼らにも医療機器メーカーとしてのプライドがあるのでしょう。」

総務部長が答えた。

専務室には、いま専務と部長の二人だけである。

「それにしても、凄い世の中になったものだ。フルダイブVR機か。

 東京で、気軽に釣りが出来る日が来るなんて思いもしなかった。」

「専務は、ずっと封印しておられましたから。」

「封印していたわけではないが、会社に入ってから釣りに行く時間が、

 なかっただけだよ。」

「申し訳ありません。度々釣りに行ってしまって。」

「いや、君を責めてる訳じゃあないよ。私の時代がそうだったというだけだ。

 しかし、陶山君は、私の釣りの趣味なんて、何処で調べたのやら。」

VFGX開発中に、声を掛けてきた陶山に専務は感心していた。

「私の釣り好きは、社内で知らない者は居ませんが、専務の釣りが趣味という

 のは、私も知りませんでした。」

「抜け目がないな。あの男は。」

「ですね。」

「そう言えば、陶山君がオオカミウオを釣り上げたというような話をしていたな。」

「ええ、そのようで。」

「釣ったのはもちろん?」

「はい、我々の師匠です。」

正式サービスが始まってからも、専務と部長は度々ゲームにONしていた。

二人とも、そんなに時間があるわけでなく、社内でちょっとした時間にONして、

釣りをしていた。

昼間に釣りをする人間なんて、余程の物好きか、無職の仙人くらいしかいないわけで、

人誑したる仙人は、二人とも釣友となっていた。

専務と部長は、正式な弟子と言う訳でなく、二人が勝手に師と仰いでるだけだった。

「0.2秒の反応速度か・・・・、釣り師の夢ではあるが、本当に釣るとは。」

「だからこその仙人かと。」

「けしからん男だ。仕事もせずに釣りばかりしおって。」

「私は、けしからんを通り越して羨ましいです。」

「まったくだ!」

「一応、素性は調べておきました。」

「個人情報が煩い状況で、よく調べられたな。」

「それが、どうも、我が社のモニターのようで。」

「ほう。」

「専務の読み通り、働いていませんでした。」

そう言って、総務部長は資料を専務に渡した。

「元中堅ゼネコンか。たしか倒産した所だな。」

「そのようです。」

「結構な人材じゃないか。」

「女癖は悪いようですよ?」

「出来る男というのは、そういうものだろ。」

「はあ。専務は随分とお気に入りのようで?」

「ゲーム内とはいえ、あの姿勢に物腰、佇まい、そうそう出来るものは居ないだろ。」

「そうですね。」

「VR機を使ってみて判ったが、リアルの仕草や自分いった物が、直結に反応していて、

 ゲームの中であっても、本人が滲み出て来ていた。」

「そういった意味で貴重な人材であるという事ですか?」

「ああ。それに悔しいだろ?仕事もせず、釣り三昧な師が?」

「確かに。」

「フフフ。いつまでも遊んでいられると思わぬことだな。我が師よ。」

そう言って専務は不気味な笑いを浮かべた。


開発室長が吊し上げをくらった翌日、運営のチーフが開発室長に話しかけてきた。

「私が休んでる間に、室長が呼び出されたとか?」

「まあ、いつもの事だよ。」

「副社長は?」

「出張中。」

「私、専務に一言いってきます。」

「まあまあ、落ち着いて。今回はその専務に助けて頂いたんだから。」

「はあ?」

チーフは少し考え込む。

頭の回転が速いチーフは、即座に答えにたどり着いた。

「あの噂、本当だったんですか?」

「ん?」

「とぼけないでください。専務が開発モニターに参加してたという噂です。」

「本当だよ。」

「私、聞いてませんよっ!」

「聞かれなかったし・・・。」

「・・・。」

社内で噂になった時、陶山に聞いてきた人間は一人として居なかった。

全ての人が単なるデマだと思ったからだ。

「今回も特に何の問題もないし、気にしなくていいから。」

「私も第2事業部の人間ですから、気にしますよ。」

「その考え方がよくないなあ。」

「はあっ?」

「第2事業部じゃなく、タウントカンパニーの人間なんだよ、皆。」

「実際、目の敵にしてくるのは、第1事業部の人間たちですが?」

「そうであってもね。君はいずれ会社を率いていく立場になるかもしれないし。」

「なりませんよ。私は。」

チーフは、社長の孫だった。

副社長は、叔父にあたる。

それゆえ、専務派もチーフが居る時に、イチャモンをつけて来ることは無かった。

専務にも可愛がられているという事もある。

「三田の奴より緑川チーフの方が、よっぽど社長に向いてると思うけどね。」

三田とはタウントカンパニー副社長の名前だった。

もちろん社長も三田。

チーフの母親が、副社長の姉であり、嫁に行って緑川となっていた。

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