秘密の打ち合わせ
聖騎士団のギルドルームを出たベルラインは、人気が少ない場所で
個人トークを始めた。
「パルちゃん、ちょっといいかな?」
「うん、大丈夫よ。こっち来れば?最近来てないよね?」
「ま、まあ。色々忙しくて。」
「ベルニウム補給し隊とか?」
「そんな感じ。」
「で、今日は何?」
「今度のレイドボス討伐の話は、知ってるよね。」
「ええ。」
「その事で、一度釣り仙人と話がしたいんだけど。」
「タイマーさんと?」
「そう。」
「多分、今なら呼び出せると思うけど、うちのギルドルームでいい?」
「出来れば、闘技場で二人で話したいんだけど。」
「二人っきりねえ・・・あまりお勧め出来ないわ。」
「そ、そうなの?」
「天性の女ったらしだからね。二人きりだと危険よ。」
「ま、まあ私は強いから、大丈夫かと・・・。」
「そこまで言うなら・・・。連絡とってみるわ。」
「ありがとう。」
パルコがタイマーとメールで連絡をとり、闘技場でベルラインとタイマーが
会う事になった。
もちろん、その時にパルコがタイマーに釘を散々刺したのは言うまでもない。
闘技場のシークレットスペースで、待っていたベルラインは、タイマーが、
現れると丁寧かつ、威厳をもって挨拶をした。
「始めまして、聖騎士団副団長のベルラインと言います。」
丁寧な挨拶に、丁寧な挨拶で返そうとしたタイマーだったが、挨拶を思い
とどまりベルラインを凝視した。
「あれ?ゲームやってたの?・・・。」
リアルネームを呼ぼうとした瞬間、ベルラインはタイマーの胸ぐらをつかみ、
吊し上げた。
「始めまして!聖騎士団副団長のベルラインです。」
始めましてをことさら強調し、再び挨拶をするベルライン。
「は、はじめまして・・・。」
吊し上げられたまま、タイマーは挨拶を返した。
ベルラインが胸ぐらから手を放すと、タイマーは下に座り込んだ。
「酷いなベルちゃん。」
「誰が、ベルちゃんだっ!」
「いや、だって名前長いし。」
「私をベルちゃんて呼んでいいのは、女性だけだっ!」
「それにしても、ベルラインねえ。」
「おいっ、人の話を・・・。」
「随分、安直に名前つけたんだね。」
「き、貴様に言われたくないわっ!」
「ああ・・・、まあそうだね。でもその名前で誰も気が付かないの?」
「私を知ってるのは、貴様と先生だけだ。」
「グランマさんも知ってるんだ。」
「先生は、仕方ないとしてだ。何故貴様は、簡単に人を見抜けるっ!」
「普段から、相手の仕草とかちゃんと見てるからだと思うけど?」
「普通、そんなもの気にしないだろ。」
「でも、俺とこうして二人きりで会うってことは、バレるかもって思った?」
「ふんっ。」
ベルラインは、ぷいっと顔を反らした。
「で、ベルちゃんの要件は?」
「だから・・・。」
はあと諦めたようにため息をついた。
「レイドボス討伐が行われるのは知ってるな。」
「オオカミウオでしょ?まあ釣るのは俺だから知ってるけど。」
「残念ながら、そこで貴様と顔を合わすことになる。」
「何故に残念なの?」
「当初は参加するつもりはなかったが、どうもそう言っていられない状況に
なってしまった・・・。」
「大変だね、副団長って。」
「そこでだ。私と会っても親しく声を掛けない様に。」
「ああ、そういう事ね。まあ俺も余裕ないからねえ。」
「何がだ?」
「釣りだよ。今でさえ1時間に1回釣れるかどうかだから。」
「一体、VFGXは、何のゲームなんだ・・・。」
「俺は、凄く楽しいけどね。」
「働きもせず、ゲームで釣りとはいい身分だな。」
「それを言われると・・・。」
「まあいい、貴様は釣りに集中して、私に声を掛けなければそれでいい。」
「むしろ、頑張ってって声を掛けて貰いたいんだけど・・・。」
「貴様に声を掛ける義理はない。」
「義理くらいあると思うんだけどなあ・・・。」
「うるさいっ!とにかく、馴れ馴れしくしないで貰いたい。私には
ゲーム内での立場があるからな。」
「ベルちゃんも色々大変だなあ。」
「いいか、馴れ馴れしくするなよっ!」
そう捨て台詞を残して、ベルラインは去っていった。
タイマーも既にこの日の釣り時間は終わってる為、パルコに話し合いは
終わったと伝えてからログアウトした。




