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サイド:とある病人の憧恋歌 前編

当時の私は、病気と手術を前にして苛立っていて

あの人に酷い言葉を投げつけてしまった。

「私、あなたの事が大嫌いですの!」



私は、高校を入学して直ぐ、病気を患った。

病名は、ウィルス性肝機能欠乏症。

全身の気だるさから、何もする気が起きず、

筋力も衰えていった。

長期入院が必要になり、入院する前に両親達の会話を

聞いてしまった。

「お願いします。先生、なんとかなりませんか?」

父がすがるような声で電話をしていた。

「あなた、どうでした?」

電話が終わった父に母が話しかけた。

「駄目だそうだ。」

「そんなっ、あの娘は、これからじゃないですか。」

「先生がどうしようもない、諦めてくれと。」

「うううう。」

母親が泣き崩れた。

私は、たいして衝撃は受けなかった。

この気だるさと、筋力の急激な衰えは、ただ事ではないのは、

自分が一番わかっていたから。


入院して暫くして、肝臓の一部切除の手術説明を受けた。

主治医は循環器内科の先生だが、手術は外科の先生が行うという。

若くて綺麗な女の先生だった。


「こちらの先生はね。丁寧で傷が少ない事で有名なんだよ。」

「よろしくね。」

主治医にそう説明を受けた。

寝たきりで、動く事も億劫な私は、傷が残ろうが関係無いと思った。

死んだら関係無いでしょ?と。



「随分気落ちしてるようですね。あれでは手術できませんよ?」

外科の女医が主治医に話した。

「入院してからずっと塞ぎ込んでるんですよ。」

「病気からですか?」

「いえ、そこまでの難病じゃあ、ないんですが・・。」

「心療内科の先生に見て貰っては?」

「そうですね、体力だけでも回復してもらわないと手術できませんし。」

「私も、たまには顔を出します。」

「申し訳ありません。外科の先生にお手を煩わせて。」

「いえ、女同士の方が話しやすい事もあるかもですし。」




手術の日程が中々決まらない。

まあ私としては、どうでもいい。

最近、心療内科の先生と外科の先生が、直直、顔を出すようになった。

どちらかというと女の外科の先生の方が話しやすかった。

ある日、小さくておどおどしたような心療内科の先生が、ゲームを奨めてきた。

筋力の衰えもあり、何事にも億劫な私にゲームを奨めるなんて、

見た目通り駄目な先生だ。


そう思っていたんだけど、結局、私はゲームをやってみる事になった。

VR機といって、手足を動かさなくていいゲームらしい。


私は、ゲームの世界の中に入り驚いた。

筋力の衰えで動くのも億劫な私が、ゲームの中では普通に動けるのだ。

しかも、モンスターとかを倒したり出来る。

現実で、こんなモンスターとか出たら、直ぐ殺されちゃいそうだけど。


それから、野良PTというのを組んで冒険をするようになった。

毎回、違う人間とPTを組んだりするのだが、所謂、外れというものが多々あった。

私がいくら、回復や補助をしても、簡単に前衛が沈んでしまう。

しかも辛うじて生き残った弓使いや魔法使いが、私の事を「使えない」とまで罵る事があった。

「蘇生使えない僧侶なんて意味無いよね。」

そういう輩もいた。

は?何、蘇生って。生きたくても生きれない人間が居るなんてコイツらには、

わからないんでしょう。


それから私は、極力会話をするのを辞めた。


そんなある日、もの凄くバランスの悪いPTで冒険する事になった。

前衛二人、これはむしろ贅沢といえる。

近接戦闘三人・・・。

始めてなんですけど、こんなの。

しかも、戦闘になると、めちゃくちゃだった。

特に近接の二人は一切言う事を聞かない。

狂ったように攻撃を繰り返す双剣。

でも、たまに盾の後ろに回避するので、その時に回復や補助が出来たが、

もう一人は、完全にお手上げ。

何、あの人・・・、延々と攻撃してる・・・。


そんな、はちゃめちゃなPTが、なんとかなったのは、盾二人のお陰だ。

敵の攻撃にじっと耐える盾の人の後ろ姿は格好よかった。


「よかったら、名刺交換しないか?」

最後に、そう声を掛けられた。

「話掛けないで下さい。」

私は、そう答えた。

このゲームは、まだβ版で正式サービスは始まっていなかったし、

サービスが始まる頃に、私は・・・。


暫くして、野良PTを探してた私は、声を掛けられた。

振り向いてみると、あの5人が居た。

「よかったら、一緒にどうだ?」


このPTに居ると、とくかく忙しかった。

約1名は、無視しといていいので、辛うじて私は自分の仕事を全うする事が出来た。

そんな、はちゃめちゃな冒険中も、あの人の背中は頼もしかった。

名刺交換はしないと決めてたが、この5人とだけは名刺交換をした。

それでも戦闘後の話とかには、一切参加しなかった。


いよいよβテストも終わりが近づいた。

最後にドラゴンを倒そうと言う事になり、作戦会議が行われた。

さすがに参加しないとまずいかなと思い参加したのだが、

魔拳士のカラットさんは居なかった。

スーパー自己中らしい・・・。


ドラゴンの予測される行動や、各自の行動すべきこと等、

事細かに打ち合わせが行われた。

双剣のパルさんが、大人しく聞いているのが不気味だった。

この人は、剣を抜くと人格が変わっちゃうのだ。

正直怖い・・・。


一通りの説明が終わったが、私には特質すべき点は無かった。

まだ会議は続きそうだったが、

「私のやる事は変わりませんね。それじゃあ失礼します。」

そうして帰ろうとすると。

「待て。」

いつもとは違う人が私を止めた。

「貴様はいつもと変わらないと言うが、ドラゴンの特性によっては、

 補助魔法は変わるのではないか?」

「特性?所詮火を吐くトカゲでしょ?」

「ギルバルド、今回のドラゴンは火だけか?」

「全方位の火を吐くと聞いている。」

「ほら、みなさい。その辺は心得てますので、ご心配なく。」

「テイルアタックがあると聞いたが?」

「あ、ああ、そういや尻尾に毒があるとか・・・。」

「それを先に言え!この屑がっ!!」

「・・・。」

「貴様の状態異常治癒に毒は無かったと思うが?」

「そんなに沢山のスキルがとれるわけないでしょ。」

「ならば、毒消しの準備が必要になってくる。

 会議は終わってない。さっさと座れっ!」

「お断りします。」

「貴様、PTを全滅させる気か?」

「私がやるべき事は、きっちりとこなしてみますわ。」

「自信過剰も度を過ぎると困りものだな。」

「私、あなたの事が大嫌いですの!」

「そうか。ならば私には回復も補助魔法もかけない事だな。

 無様に死ぬ姿を後ろから眺めていればいい。」

「馬鹿にしないでくださるっ!!私が僧侶で参加する限り、

 死者は出させませんわっ!」

「それは、頼もしいことだな。」

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