なんてたってアイドル
ウルトラ姉妹は、今、売れてるアイドルグループの一つ。
今年のミスK大最有力候補の風祭敦子が所属しているグループでもある。
「敦子、あんまり根を詰め過ぎると、体壊すよ?」
ウルトラ姉妹の絶対的リーダー東条優子が話しかけた。
歌番組の収録が終わり、風祭敦子は、大学の課題を控室でやっていた。
一般入試で、K大の政経に入った敦子は、一芸入試で入った者たちとは、
違い本来なら講義を休むことが出来ない。
教授たちの中にも、わざわざ政経に入学した敦子を快く思ってない人も少なくない。
しかし、大学側としては、敦子のネームバリューは絶大であり、何とかならないかと苦肉の策が課題提出だった。
根っからの頑張り屋で、ウルトラ姉妹の絶対的センターの敦子は、真剣に課題に取り組んでいた。
「私と一緒にA大にしとけば、苦労せずにすんだのに。」
「いやよ。ただでさえ総選挙で、争ってるのよ?大学のミスコンでも争う訳?」
「楽しそうじゃない?」
「優子と争うのは、仕事だけで勘弁してほしいわ。」
「で、敦子は、ミスK大取れそうなの?」
「今の所はね。そっちは?」
「ほぼ当確って感じかな。」
「あれ?ミスA大って今は、女王様とか呼ばれてる人じゃあ?」
「評判がよくないから、相手じゃないわ。」
「そうなんだ。」
「そっちは、百合姫だっけ?」
「らしいね。まだ会った事もないけど。」
「うちも、そっちも変な人多いね。」
「そうね。」
敦子は、課題を終わらして、カバンからボロボロになった台本を取り出した。
「あれ?まだドラマの出番終わってなかったの?」
「次で出番は、最後かな。」
「暫く、ドラマから離れたら?」
「それ、マネージャーにも言われた。」
彼女がドラマに出始めた頃、女子高生と初々しさもあって、出るドラマが、
殆ど高視聴率と調子が良かった。
しかし、段々と初々しさも視聴者に飽きが来たのか、この所、出るドラマの調子がすこぶる悪い。
ドラマの視聴率は1人の力では、どうすることも出来ないのだが、マスコミは面白可笑しく、ターゲットを定め、煽る。まさに鬼畜の所業。
こういった事で、マスコミにターゲットにされるのも有名税の一つと割り切れば
いいのだが、彼女はまじめな為、責任を感じていた。
「なんなら、私が演技指導してあげようか?」
優子が言った。
「あんたも、女優業は散々じゃない。」
「・・・。」
東条優子も敦子と同じ状況だった。
なので、現在は女優業を控えていた。
翌日、風祭敦子は、一応の敵情視察として、刈茅未菜に挨拶をしに行った。
K大のミスコンは、他の大学と違い、ノーエントリー制。
K大の学生なら、誰にでも投票していいという方式だった。
「刈茅先輩ですか?初めまして風祭敦子と言います。」
敦子は、丁寧に挨拶した。
「あ、あっちゃんっ!か、可愛いっ!!」
未菜は、目がハートになった。
ちなみに、未菜はテレビを見ないので、アイドルの事は知らない。
ただ敦子の事は、オタクの尾崎にPADで見せて貰っていたので知っていた。
【所詮、ミスK大って言っても一般人と同じか・・・。】
わざわざ、挨拶にくるまでもなかったなと敦子は思った。
未菜は、調子に乗って、敦子との距離を近くに縮めた。
敦子は、ニッコリと微笑んだ。
更に調子にのって、目の前まで近づいた。
敦子は、ニッコリと微笑んだ。
有頂天になった未菜は、公衆の面前にも関わらず、敦子にキスをした。
敦子は、驚いた風もなく、平然とキスを受け入れた。
同性同士のキスは、ドラマで何度も経験してるし、酔うとキス魔になる女性芸能人は、死ぬほどいた。
そもそも、同じグループ内にも1名いる訳で・・・。
受け入れられたことに、更に更に更に調子に乗った未菜は、舌を入れた。
さすがに、ひいた敦子は、未菜を押しのけた。
【こいつ、本当にガチじゃねえかっ・・・。】
「酷いです。先輩いきなり。」
そうして、泣いたふりをする。
「あう・・・。ごめんなさい。」
さすがに女性を泣かしてしまい、慌てて謝る未菜。
【勝手に自滅したか。】
敦子は、そう思った。
大学内の公衆の面前でやらかした未菜の行動は、即、大学中に広まった。
「尾崎、不味い事になったんじゃないか?」
剣持が教室で尾崎に話しかけた。
「な、何が?」
「未菜のキス事件だよ。」
「べ、別に、た、大した問題じゃない。」
「大問題だろ?そこら中で噂になってるし。」
緑川優が言った。
「い、一年には、マ、マイナスイメージだけど。も、元から1年の票は、
あ、あてにしてない。」
「他の学年は?」
「か、刈茅が百合姫なのは、み、皆、し、知ってる。」
「そういや、そうだな。」
緑川は納得した。
「しかし、あっちゃんファンの結束は固まるんじゃないのか?」
剣持が心配して聞いた。
大学内にもファンクラブ会員は多く、入ってないファンも大勢いる。
「あ、あっちの切り崩しは、も、もう終わってる。」
「用意周到だな。」
「ぬ、抜かりはない。そ、それよりも。ポ、ポスターに使う、宣材が無い。」
ミスコンはノーエントリー制だが、ポスターを作製し、掲示する事が出来る。
事前に学祭実行委員に申請すれば、1枚だけ掲示する事が許可される。
学祭の一週間前から何十枚ものポスターが並ぶわけだが、K大の名物の一つだった。
もちろん1人につき1枚だが、敦子のような人気者の場合は、何人もの申請者が出てくる。
基本、自分で自分のポスターを作る人は居ないわけで。
未菜の場合も、尾崎が勝手に作ってるだけだった。
特に重複する者が居ないので、問題も起きない。
「未菜の場合、写真撮らせてって言っても、撮らせてくれねえだろうな。」
緑川が言った。
「緑川が、言えば撮らせてくれるんじゃ?」
剣持が聞いた。
「何を要求されるかわかったもんじゃない。」
「そうか・・・。」
「い、井伊さんなら、も、持ってそう。」
「ああ、幼馴染だったね。そう言えば。」
「聞いてみればいいんじゃね?」
緑川が他人事のように言ったが、尾崎と剣持は、緑川を見た。
「え?私が?無理無理無理っ! 裏番でしょ?あの子。」
「俺も少し怖いかなあ。」
「お、俺は、ぜ、絶対無理・・・。」
振出しに戻る3人。
「何の悪巧み?あれ?未菜は?」
赤松明子が優の隣に座りながら聞いてきた。
「公休よ。公休。」
優が答えた。
公休とは、ミスK大の仕事の為に講義を休むという意味で、出席扱いになる。
未菜は、現在、週末に行われる商店街の祭りの為の打ち合わせに出席していた。
「なる。で、何の悪巧み?」
「井伊さんに未菜の写真を頼みたいんだけど、誰も話せる人が居なくてね。」
剣持が答えた。
「千鶴ちゃんに?私が聞いてあげようか?」
「明子、あんた裏番と知り合いなの?」
「うちのサークルは、剣道部の手伝いによく行くから。」
「お、お願いできるかな。」
尾崎が頼んだ。
「どんな写真がいいの?」
「い、意外性のあるのがいい。」
「わかった。聞いてみとくよ。」




