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リアル過去編「K番とは」

K番とは、K大に伝わる200年近い伝統で、まあざっくり

言えば、番長のようなものである。

正式には、サークル連の議長になるのだが、代々、サークル連の

議長は、いつのころか、K大の番長を略して、K番と呼ばれるように

なった。

K番に、選出されるのは3年生で、運動系サークルの部長というのが、

長年の慣わしとなっていた。


この日、K番の空手部主将、神崎は、3年生に歯向かった2年を6人

掛かりで締め上げていた。

「いいか轟、お前も応援団の端くれなら、上級生に歯向かうのは、

 御法度だってのは、知ってるだろ?」

ボコボコにされながらも、2年生の轟は、一切手を出していなかった。

訳あって上級生を殴ったが、現在の状況になる事は、覚悟の上だった。

「殴った相手に謝る気は、ないよな?」

「自分は、間違ってません。」

土の上に正座したまま、轟は答えた。

「仕方ねえな。」

再び、6人がかりで、竹刀でフルボッコにしようとした。

「何をしてるんですか?」

体育館の裏という事で、人通りも少ないが、皆無という事ない。

誰も、サークル連というかK番には関わりたくなく、見ても足早に

その場を去るだけだったのだが。

「お前、1年の井伊だな。関係ないから、さっさと何処かへ行け。」

高校選手権3連覇という鳴り物入りで、入学した井伊千鶴は、

サークル連の人間で知らないものは居なかった。

「その竹刀は、剣道部のものでは?」

「心配するな、剣道部は、了承済みだ。」

「私は、了承した覚えはありません。」

「おいっ!! 1年が粋がるんじゃないぞっ!」

神崎は怒鳴った。

「6人がかりですか?あなた達は卑怯者ですね?」

去ろうともせず、むしろ近づいてきた。

「いい加減にしろよ。」

神崎は、竹刀の先を千鶴へと向けた。

「か、神崎さん。その子は関係ありません。井伊と言ったか、関係ない者は、

 口を挟まないでくれ。これはサークル連の問題なのだから。」

轟は、井伊千鶴に、この場から去るように言った。

「竹刀とは、闘う為の道具であって、人を虐めるための道具では、

 ありません。これは剣道部の、つまり、私の問題です。」

パッと見、小学生にしか見えない少女から、物凄い覇気が放たれた。

千鶴は、目の前に突き付けられた竹刀を掴んだ。

「ガキがでしゃばるんじゃねえっ。」

神崎は、持たれた竹刀を振りほどこうとしたが、竹刀は動きもしなかった。

「弱い犬ほど、よく吠えますね。」

「て、てめえ。」

神崎は、両手で竹刀を持ち引いたり押したりした。

しかし、竹刀が動くことはなかった。

「ちっ。」

更に力を込めて竹刀を思い切り引いた。


刹那。


千鶴は、竹刀を思い切り押した。

二人の力が合わさった竹刀の柄は、神崎の鳩尾に直撃した。

言葉も発する事なく、その場に膝をついた。


千鶴は、手に持っていた竹刀を、ちゃんと持ち直し、残りの5人を

睨み付けた。

「面倒です。いっぺんに掛かってきなさい。」

「ふざけんじゃねえっ!」

「いい気になるなっ!」

5人の中に剣道部は居なかった。

運動系サークルの主将や部長連中だ。

もし、剣道部主将が居たなら、即座に降伏しただろう。


「まったく、剣道部の備品をなんだと思ってるんですか。」

井伊千鶴は、残り5本の竹刀を無事回収した。

未だ6人は、地に伏せっていた。

「し、竹刀を回収したなら、さっさとこの場を去れ、後は俺がなんとかする。」

「あなたも随分、傷ついてますね。直ぐそこに剣道部の部室がありますので、

 そこへ行きましょう。」

「いいから、俺の事は、気にしないでいい。」

「ゲホッ、ゲホッ・・・。」

一時、呼吸するらままならなかった、神崎が起き上がった。

「か、神崎さん、俺が全責任をとりますので、コイツは・・・。」

「お、お前、そいつの事知ってんのか?」

「い、いえ・・・。」

「高校剣道3連覇した期待の新人だ。応援団なら知っておけ。」

「す、すみません。」

190近い、大男は小さくなって謝った。

「もういい。今後は、上級生に逆らうな。どうしてもままならない事があれば

 サークル連に言え。」

「は、はい。」

「それでは竹刀は返して頂きます。」

そう言って、井伊千鶴は、轟を立たせて、神崎に挨拶した。

「おい、井伊。わかってんだろうな。大学選手権で負けたら、

 しょうちしねえぞ。」

「御心配には及びません。」

そう言って、井伊千鶴は、その場を後にした。


「まったく無茶をする。」

轟が言った。

「何がですか?」

「神崎さんが今のK番だぞ。運動系サークルなら聞いてるだろ?」

「さあ?」

「剣道部だって、サークル連に入ってるんだがな。」

「そうなんですか?へえ。」

全然気にもしてなかった。

「どうして、やられっぱなしだったんですか?」

「あの場に居たのは、各サークルのトップだからな。応援団の俺が傷つける

 わけにはいかんだろ。」

「へえ、あなたは応援団なんですね。」

「お前、1年なんだろ?俺は一応先輩なんだが・・・。」

「私は気にしませんから、大丈夫です。」

「・・・。まあいい。今度大学選手権があるのか?」

「はい。」

「なら、応援団が・・・。」

「結構です。」

速攻で断られた。しかも話の途中で。

「応援ぐらいいいだろ?」

「剣道の試合中に、応援団に応援されたら迷惑です。」

「そ、そうなのか・・・。」

「はい。」

「・・・。」

「でも、壮行会の時は、応援をお願いします。」

「あ、ああ。任せといてくれ。」

そうして、轟は、剣道部の部室で手当てをしてもらった。


剣道大学選手権当日、轟は、個人として井伊千鶴を応援に来ていた。

「あの子、高校の時も無敵だったんだろ?」

「まあでも、決勝はヤバいんじゃないか?」

「そういや、去年の全日本女子でも、巨漢の人に負けてなかったっけ?」


千鶴の相手は、体が大きく、大学4年生だった。

通常は、3年で引退する者が多いが、4年で出場する人間も皆無では、

ない。

「大丈夫か、井伊の奴、あんなに体格差があって。」

轟は、心配になった。

「問題ねえよ。レベルが違う。」

そう言って、話しかけてきたのは、空手部主将、神崎だった。

「か、神崎さん。」

「隣いいか?」

「おっす!」

「あのデカいのは、全日本レベルじゃあない。井伊の相手じゃねえよ。」

「神崎さん、詳しいですね?」

「同じ武道系だからな。まあ、見とけ。決勝もすぐ終わる。」


井伊千鶴のようにスピード重視の相手には、体をぶつけスピードを殺すのが、

一番手っ取り早い。

しかし、体をぶつけるスピードが無いとお話にならない。

全日本にも出てない相手では、体をぶつけることなく1本目をとられて

しまった。

2本目、見事、体をぶつける事が出来た。

いや、千鶴があえて受けたのだ。


そのまま、巨漢にまかせて押そうとしたが、ピクリとも動かない。

「ま、まさか、押し負ける?私が?」

なんと、千鶴が巨漢の相手を押しのけ、面を入れた。


面ありっ!


あっさり2本先取し、大会は終了した。


「なっ、レベルが違うんだよ。」

「凄いですね。」


「さすが、K大の小さな巨人だな。」

「ちげえよ。裏番らしいぞ。」

「1年でか?」

「K番フルボッコにしたらしい。」

「まじで?K番って他の大学の奴でも避けて通るって言われてる?」

「こええよ。」

「あんなにちっちゃいのにな。」

「ば、馬鹿ッ、ちっちゃいって言ったら殺されるらしいぞ。」

「こえええええ。」


「か、神崎さん、何か噂になってますよ?」

「まあ仕方ねえだろ。見てた連中は居たんだろうしな。まあ俺としては、

 大学選手権とってくれたし、文句はねえよ。」

そう言って、神崎は笑った。


そして、神崎が、3年の3月。

後任のK番に、4月から応援団団長になる轟を指名した。


「悪いな、わざわざ、空手部の道場に来てもらって。」

「いえ、剣道部から近いですから。」

神崎は、空手部を引退の前に、井伊千鶴を呼び出した。

「もう一度、お前と立ち会ってみたくてな。って、竹刀はどうした?」

千鶴は丸腰で、道場に来ていた。

「私は、手刀で構いません。」

「舐められたもんだな。って言っても、前に負けてるからな。いいのか?

 手加減はしないぞ。」

「はい。」

真剣な表情で見つめ合う二人。

神崎は、空手の構えを、千鶴は右手刀を前に出した。


最初に動いたのは神崎。

渾身の正拳突きを放つ。

対して、千鶴は、手刀で正拳突きを叩き落とした。


「いってええええ・・・。ありえねえ、普通やるか?」

右手の甲を抑えながら神崎が言った。

「神崎さんは、どうして蹴りを使わないんです?」

「そりゃ、お前・・・、竹刀使わない相手に蹴りなんて出せねえだろ。」

「手加減してるじゃないですか?」

「まあ、何だ。俺の負けだな。」

「用ってこれだったんですか?」

「いや、次のK番だがな。轟に決まったぞ。」

「轟君が?」

「ってお前、先輩だろ、轟は。」

「私は気にしませんが?」

「・・・。まあ、なんだお前も裏番って呼ばれてるから、何かあったら

 力になってやってくれ。」

「力にはなりますが、なんですか裏番って?」

「知らんのか・・・。」

K大の裏番は鬼より怖しと言う噂は、都内の大学中に広まっていた。

知らぬは本人ばかり。

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