テスト勉強
「ねえ、ちょっとだけ胸揉んでいい?」
「いい訳ないでしょっ!」
マンションの一室で、両手を組み合い、プロレスでもするかのごとく、
刈茅未菜と後藤留美は火花を散らしていた。
「そもそも勉強教えに来てくれたんですよね?」
「だから、ちょっとだけって言ってるじゃん。減るもんじゃないし。」
「わかりました。千鶴さんに報告しますね。」
「さっ、勉強しましょうか。」
大人しく座る未菜。
「呼ぶんじゃなかったです。」
「そんな事言わずにさあ。」
「キモイですよ・・・。」
「だって、留美ちゃん、可愛いんだもん。」
「全然嬉しくありませんが?そもそもBL系は嫌いなんでしょ?」
「いや、まあ、そこは私が目覚めさせてあげればっ。」
「死んでも目覚めません!」
「あーあ・・・、で、何の勉強だっけ?」
「これですよ。」
そう言って後藤留美が出したのは、基礎数学という教科書だった。
「基礎?あんた何年だっけ?」
「2年ですよ?」
「基礎って何処の大学でも、1年でやるんじゃないの?」
「そうですが?」
「単位落としたの?」
「落としましたよ。」
「ちょっ・・・あんた理系でしょ?」
「基礎なんで油断してました。」
「まあ、そもそも文系の私に教えて貰おうってのが間違ってるのよね。」
「出来ないんなら、帰ってください。」
「出来るわよっ!これくらい。」
「ちっ、うちの大学よりランク上だからって、いい気にならないでください。」
「別にうちの大学だって大したこと無いと思うけど?」
「腹立ちますよね。」
「ま、まあまあ。とりあえず、出そうな公式、印付けといたから。」
「って、はやっ!」
「そっちのプリントは何?」
「去年のテストですよ。」
「ふーん。」
そう言って、サラサラっと読む未菜。
「教授って変わった?」
「いえずっと変わらずです。」
「じゃあ印んとこ、覚えとけば何とかなるわよ。」
「ありがとうございました。どうぞお帰り下さい。」
「ちょっ!あんた、千鶴より酷いじゃないっ!」
「いやあ、未菜さんは、私になんて興味ないって安心してたんですが、
いきなり胸揉ませろとかいうし・・・。」
「・・・。」
「せめてお昼くらいはと思ってたんですが、もう用済みですので、
お帰りください。」
「な、何言ってんのよ。今日はお泊りのつもりで来てるんだからね。」
「絶対ありえません。」
「何でよっ!」
「黒き戦士たちのカザミさんの話を私が知らないとでも?」
「・・・。」
「まあ、さすがに今すぐってのは可哀想なので、昼飯食べたら、さっさと
帰ってください。」
「ううう・・・。」
「とりあえず、私は、勉強に集中しますんで、漫画でも読んでてください。」
「何の漫画よ・・・。」
「それは、そのー、あっち系の・・・。」
「いらんわっ!」
仕方なく未菜は、暇つぶしに教科書や資料を読みだした。
時折、留美が質問したら、スラスラと解説した。
「未菜さんの大学も試験中ですよね?」
「そうよ。だから千鶴も勉強中よ。」
「勉強しないんですか?」
「私が?」
「試験勉強とかしたことあります?」
「ないわよ。」
「よく今の大学入れましたね?」
「別に、何の苦労もなく。」
「くっ・・・。しかし千鶴さんは?」
「千鶴はスポーツ推薦よ。」
「その手があったかっ!」
「あんたスポーツ出来るの?」
「出来るように見えます?」
「全然見えない。」
「出来ません・・・。」
「まあでも、スポーツ推薦より一般入試の方が簡単よ。」
「えー、だって勉強しなくていいんですよね?」
「じゃあ、留美ちゃんは、高校選手権3連覇なんて出来るの?」
「天地がひっくり返っても無理です・・・。」
「その上、学生選手権も2連覇と同世代じゃあ向かうとこ敵なしよ。」
「あんなにちっちゃいのに・・・。」
「あんた、それ本人の目の前で言ったら、アイアンクローされるわよ。」
「気を付けます・・・。」
こうして、雑談を交えながらも、留美の勉強はある程度はかどった。
夕方になり、帰えれとか泊まるとかでひと悶着はあったものの、
翌日は、未菜も試験の為、大人しく帰る事になった。
「試験終わったら、ちゃんとONしなさいよね。」
「あら?未菜さん、私が居ないと寂しいんですか?」
「違うわよっ!ベルニウム補給し隊は、あんたが居ないと私の番が、回って
来ないのよ。」
「なんです?それ・・・。」
「ベル様と一緒に冒険できるのよ。」
「ベルさんとですか、いいですねえ。」
顔が綻ぶ留美。
「で、なんで未菜さんと一緒なんですか?」
「僧侶が・・・。」
「そういや、そうでしたね。教会のルビアさんに未菜さんの事がバレたら、
大変な事になりますもんね。」
「もうバレテルけどね・・・。」
「え、ええええええええっ、マズイじゃないですか?」
「ま、まあ、その辺は、テスト終わってからゆっくりね。」
「いやいや、気になりますよ?」
「とりあえず、基礎数学だけは単位落とすんじゃないわよ?」
「気になりますって・・・。」
「落としたら、胸揉み3分だからね!」
「・・・。死んでも落としませんっ!」
そうして、未菜は、留美のマンションを後にした。
「私がONしてない間に、ゲーム内で何があったのよ・・・。」
思いっきし、気になる留美だったが、胸は揉まれたくないので、夜遅くまで
勉強を頑張った。




