会社倒産
「申し訳ない、皆、今日で会社をたたむ事になった。」
時野正は、41歳で職を失った。
「あほかあああああっ。」
最後の会社が終わり、居酒屋で時野正は、絶叫した。
「まあまあ、課長代理。」
そうやって、常磐亮一は、元上司である時野を慰めた。
「お前はいいよ、お前は。まだ28だし。ヘッドハンティングもされてたぐらいだからなあ。
俺なんて・・・。」
「そんなに気落ちしないで下さいよ。明日は、職安の合同説明会ですから。」
それなりの会社が倒産した場合、職安では、その元従業員達に向けて、合同説明会が実施される。
通常は、即日というのは、あまりないのだが、前もって会社が相談していたのだろう。
説明会が実施されるという事で、早めに切り上げ、翌日の説明会に臨んだ。
とりわけ、大した話は無く、2週間後には、合同就職説明会まで、開いてくれるとの事。
ここまで、やってくれる事は、中々ない。
「よかったですね。課長代理。」
合同就職説明会を3日後にひかえて、また二人で飲み屋に来ていた。
「もう課長代理じゃ、ないんだからやめろ、それ。」
なんだかんだ言って、付き合ってくる部下は、常磐一人しか居ない。
「えーと、じゃあ、時野、よかったなっ!」
「ちょっ、そこはさん位つけろよ・・・。」
「めんどくさいなあ。じゃあ先輩でいいですか?」
「まあ、いいだろ。てか、お前は参加しないんだろ?」
「僕は、決まっちゃいましたから。」
「さらっと言うなよ。」
「でも、失業保険は、長く貰えるんでしょ?先輩は。」
「270日だけどな、こういうのはさっさと決めた方がいいんだ。
あれこれ日数経つとニートになるからな。」
「大丈夫ですよ。先輩はニートになりませんから。」
「そ、そうか?」
褒められたような気がして気分がよくなる。
「だってニートって35歳未満の無職を言うんですよ」
「なっ・・・。」
上げて落とされ。
「じゃあ、俺は何になるんだよ。」
「ただの無職ですね。」
ガーーンっ。無職という響きがもの凄いぐさっときた。
それから3ヶ月、時野正はコネを使わず死にものぐるいで就活をした。
めぼしい所は、殆ど駄目だった。
「この募集は35歳未満ですねえ。」
職安の人にそう言われ、ニートだけでなく、ここにも35歳の壁があったのかと、
嫌ほど、あじ合わされる結果となった。
そうして、草むらに大の字に寝て、流れゆく雲を見る時野正の姿があった。
「どうしてこうなった・・・・。」