ラッキータイム。
電車に乗り込んだ。
席は前に座ってた人のあとなのか、少しぬれている。
…若干抵抗あり。
「葵ちゃん?」
「え?あ、ごめ…」
「ぬれてるね、別の席行こうか」
心の中を読まれた?
ヤベっ。顔に出てたかも。
そんなこと気にしてないかのように素直な笑顔を見せてくれた。
ここは素直に、正直に。
「ぬれてないところね」
ちょっと、いや、かなり言いすぎた?
出すぎたかと思い、ちょっと顔色を確認。
だけど…
一ノ瀬君は一瞬驚いたような顔をしたかと思ったら…
大爆笑。
なんで?!
「アハハハハ!!マジで?!葵ちゃん、超意外!」
ただ私はポカーンと口を開けて一ノ瀬君を見るばかり。
じゃなくて!!
「何が意外なの?」
「だって、そういうことあんまり言わないかと思ってたからさ?意外と正直なんだね!」
違うし。素直←正直になったんだし。
「葵ちゃんオモシー♪あ、ほら、ここならぬれてないよ?」
指差した席は、まだ誰も座ってない、というより、まだ人が来てない車両。
「いーじゃん。ココ座ろ」
先に席についた。
「俺もー♪」
誰もいないのに隣に座った。
なんだろ。またドキドキ。
胸のあたりがあったかいような…
「葵ちゃん、ケータイ持ってる?よね?」
「ふぁ?!」
いきなりの声に、思わぬ悲鳴(?)。
「何今の声~」
クスクス笑われた。超恥ずかしい…。
…なんか馬鹿にされてばっか…?
ちょっと悔しい。
「んで、ケータイが何?」
話を戻さなきゃ。じゃないと負けちゃう。
「ん、アド交換しよ♪」
用意された赤外線画面を向ける。
断れない。ってか、断る気…ない。
「…うん」
焦る手元で、同じ赤外線画面を用意する。
「…よし!ありがとー!」
「ううん、こっちこそ!」
特別な意味はないけど、嬉しかった。
〝次は~…〟
「あ、もう俺降りなきゃ」
バッグにケータイをしまって、早々と立ち上がった。
あー…帰っちゃうのか。
ん?なんだ?今の。帰るなんて当たり前だろ?
「今日、帰ったらメールするから!またね!」
どこかホッとした。
いやいやいや、だから、なんでホッとした?
わかんないなぁ~、私。
でも、ケータイに自然に力がこもった。