一ノ瀬瑞樹。
「えぇぇ~~?!一ノ瀬君とあったの?!」
「…美優…うるさい」
今はお昼休み。
今日はいつも以上に手抜きの市販のコロッケパンを食べている。
「だってぇ~……いいなぁ~、アオ!」
紙パックのミルクティーを軽くすすって、拗ねたような顔をする美優。
「つか、なんでそんなに羨ましがるの?」
美優は、さっき瑞樹君の話をしてからずーっとこんな態度の繰り返し。
確かにかっこよかったよ?
身長も高いし、なんてったって、笑顔にほれそうになったもん。
いろいろ考えるけど、でも、そんなに有名なのかな?
モンモンと妄想を膨らませていると、美優がズイっと顔を寄せてきた。
「アオ、ほんとに何も知らないの?!」
大きな目を、さらに大きく見開いている。
…美優さん、怖いっす。
「し…知らないよ…何なの?」
「…アオ、あんたって子は…」
大きくため息をつかれ、呆れ顔。
仕方ないじゃん、ほんとに何も知らないんだもん。
「あのねぇ、一ノ瀬君は、青南工業高校、つまり、この辺のイケメンが多い高校のモテ男NO.1なの!しかも、運動神経は全国レベル!」
「ふぅーん。」
青南にイケメンが多いってのは知ってたけど、私、イケメンに興味ないし。
正直、どうでもいい話。
「ほら、去年の陸上、アオも関東代表で出場したでしょ?!」
…あぁ、そういえば、あのとき瑞樹なんて名前がいたっけ。
私は、走るのが得意。
いつも運動会、体育祭では、周りと50メートル差が当たり前。
そのおかげで、中学の陸上ではだいぶ活躍した。
「…いたなぁ。一ノ瀬。人一倍周りにキャアキャア騒がれて、迷惑だったヤツ。」
「もう!なんでそういう言い方するの?アオって毒舌~…」
美優のすすっていたミルクティーがとうとうなくなったらしく、ズズッという音が聞こえてくる。
でも、まだすすっている。
あの、もう諦めたらどうですか?
「まぁ、一ノ瀬君はそれくらいすごい人なの!この辺の女子だったら、みんな名前知ってるんじゃない?」
つまり、モテ男と会った私をラッキーって言いたいのか。
それとも、羨ましいだけか。
「うん。はいはい。私はラッキーでしたね。」
最終的に、やっぱり興味はゼロをさした。
「…アオ、絶対何かしら損してるよ…。」
美優の一言を完全無視し、最後の一口サイズのコロッケパンを口に放り込んだ。
休み時間終了のチャイム。
一ノ瀬瑞樹君ねぇ~…。