思わぬ出会い。
〝間もなく、3番線が発車します〟
頭がぼーっとしている午前6時。
電車に乗り込んだ私は適当に席を見つけて座る。そして寝る。
これが、私の高校生活の習慣になりつつある。
だから今日もいつもみたいに席を見つけて、寝ようとしていた。けど……
私の特等席には、大口をあけて爆睡するおっさん。
丁度朝日でいい感じに頭がテカる。
…なんかムカつく…。
別にそこは誰の席でもないよ?電車は公共のものだしね。
でも、1週間連続でキープしてきた席をとられるのはプライドが傷つく…。
…まぁいいか。
どうせ明日は座れるし。
諦めモードにスイッチが変わると、隣の車両に行った。
新しい座席に新鮮さを感じてたりする。
「どこがいっかな~…」
寝心地がよさそうなところ…。
ざっと奥まで見渡して、また手元の位置が見える。
その途中、日当たりのいい席を発見。
迷わずそこに行き、座り心地を確認。
隣には人もいない、目の前には通り過ぎるビルや建物の風景。
ここ、よくない?
今日はここに決定♪
〝次は~松前~松前~〟
…あれ?もうこんなとこ?
気がつけばそこは、私の高校の3つ手前の駅まで来ていた。
にしても、すっごい寝心地いいなぁ~、ここ。
明日からここに座ろうかな?
若干、寝ぐせのついた髪を簡単にセットしながら、そんなことを思ったはいいが…
目の前には、さっきまで見えていた風景ではなく、同じ高校生や会社員などの身体が目に映っている。
つまり、人が多くなっている。
人ごみとか、あんまり好きじゃないんだよなぁ…。
しかも、男ばかりだから、男臭がただよう。
〝次は~緑ヶ丘~緑ヶ丘~〟
また人が増えた。
次は私の高校だけど…少しだけ寝よう。
男臭に耐えられなくなったので、仮眠。
〝次は~青南~青南~〟
やっと着いたか。長かった~…。
いつもより長く感じた通学電車。
美優からお土産でもらった大きなクマのストラップがゆれるバッグを片手に、重い体を立ち上げる。
カタン
「え?」
立ち上がったと同時に何かが床に落ちた。
足元には黒い手帳のようなもの。
「なんだ?学生手帳?」
それを拾い、勝手にパラパラと中身を拝見。
うーん、見事中はに真っ白。
普通、校則とか書いてあるだろ?
思わず失笑。
駅員さんに届ければいいよね?
じっと見つめて、片手でバサバサしてみる。
お金とか求めてるわけじゃないよ?
何となくやってみただけだし…。
1人で意味不明な行動をとる私は、外からみたらただの変人だろう。
うん、馬鹿みたいだからやめよ。
手帳を閉じようとしたとき、最後のページに何か書いてあるのを発見。
ちょっぴり汚い字で 一ノ瀬瑞樹 と書いてある。しかも、定期もはさまってた。あぶねぇな。おい。
いちのせ…みずき?
どこの高校かな?みずきってくらいだから、女の子だよね?
駅員を見つけに、改札口まで。
切符売り場近くのサービスセンター的なところへ。
あー、めんどくさい。
つか、寝ぐせついてるし。
今日は最悪。
嫌々重い足をそっちへ運ぶ。
「あの~…これ、落し物なんです「あの!!俺の定期届いてませんか?!」
後ろからすごい勢いで来た。
隣には軽くパーマのかかったダークブラウンの髪。さわやかな整った顔立ち。180はあるであろう長身を私に向ける。
…なんか、かっこいいなぁ~…。
「あ~~~!!それ、俺のヤツ!!」
じっと見つめていた私を現実に戻す大きな声と同時に、私の手は温かいその人の手でギュッと握られた。
「ありがと~~!!拾ってくれたの?!神様みたい!サンキュー!!」
ブンブンと上下に振られる。
私が気にしているのは、そっちではない。
「あ…あなたのだったんですか?」
「うん!ほらここ、俺の名前書いてあるでしょ?」
手帳をひろげ、指差したのは〝一ノ瀬瑞樹〟と書いてあった。
「俺、青南工業高校1年の一ノ瀬瑞樹っていうんだ!今日はほんとありがと!」
誰もがほれてしまうような超ハニカミスマイル。
「はぁ…」
名前とか、高校よりもそっちにもってかれる。
「君は?」
「え?」
いきなり話をふられて、びっくり。
あわてて思考回路を戻す。
「あ…私は、薗部葵です」
一様、名前だけ。
「そっか!葵ちゃん、ありがと!んで、よろしくね!」
…よろしくね…?
最後の意味がわからないけど、走る瑞樹君の背中に手を振った。
…また、会えるかな?