平凡続行。
「起立、礼」
みんながいっせいに「ありがとうございました」と言う。
最後の授業が終わって、あとは帰るだけ。←帰宅部
今日も長かったな~…。
家帰ったら昨日のあまりのドーナツ食べよ。
「アオ~!!一緒にかえろ!」
そんな私の終了モードを打ち切るかのような元気な声で私の前に現れたのは、ショートボブでハニーブラウンの髪、若干、桃のような香水の香りを漂わせたおバカ女子、加藤美優(かとうみゆう)。
中学からの友達で、同じ部活|(バレー部)だったこともあり、仲がいい。
「ね?かえろ!」
「…。2回も言わなくていいから…」
「やった~!アオ、優し~!」
無駄にハイテンションなのがめんどくさかったりするけど、それ以外は、勉強を除き、完璧。
身長も158と丁度よく、女の子らしい可愛いぱっちり二重。
美優は容姿への意識が強く、いつも可愛くしている。
私も二重だけど、美優とは正反対。
…もっと女の子らしくしたほうがいいのかな?
「帰るんじゃなかったの?」
今頃、電車に乗っているであろうはずが、なぜか目の前にはケーキ、ミルクティー、そしてそれを幸せそうにほおばる美優。
フォークからはみ出る量のクリームとスポンジケーキを一口でパクリ。
あなた、鼻だけじゃなくて、アゴにまでクリームついてますよ?
手元にあった紙ナプキンを差し出すと、それを素直に受け取った。
「いいじゃん、高校生の特権♪」
鼻とアゴのクリームをふき取って、また大きな一口をパクリ。
「ん~、おいし~♪」
目の前の大食い女につられ、自分のフォークに手を伸ばす。
そして、小さく切ったチョコレートケーキを一口。
…あ…「何これ?!超おいしー!!」
私の暴走スイッチが入った。
…わたしって馬鹿だ…。
そんな激ウマチョコレートケーキをほおばる最中、美優が口を開いた。
「ねぇアオ、好きな人できた?」
…なんだいきなり…。
それまで猛スピードで進んでいたフォークを置いた。
「できるわけないじゃん。かっこいい人いた?」
すこしうんざりした私は、自分の声が少し低くなったのがわかった。
「いたじゃん!いっぱいいたよ?1組の中岡くんとか、2組の松木って人もかっこよかった!」
「どこが?」
ピシャリと打ち切った私の一言。そして、固まった目の前の美優。
小さくため息をついた美優の様子から、どうやら呆れられたらしい。
「アオ…ほんと男に興味ないの?」
ケーキを食べるのをやめて、私をまっすぐ見る美優。
「興味がないわけじゃないよ。ただ、出会いがないってやつ?」
話をそらすかのように携帯を出して、いじってみる。
別にメールもないけどね。
美優がまたフォークをもって、ケーキを食べ始めた。
「じゃあ、出会いがあれば好きな人ができるの?」
「…は?」
意外な質問にちょっと拍子抜け。
出会いがあれば?
まぁ、そりゃできるんじゃない?出会い方次第だけど。
「どうなの?」
曖昧なような、ハッキリとしたような考え。
「…たぶん…できる!」
なぜか、自信に満ち溢れたような姿勢で答える。
美優もため息をついて「あっそ」なんて軽い返事を返してきた。
自分からふっといて、受け流すのかよ…
美優のぱっちり二重で見つめられて変な神経を使った後のチョコレートケーキは、一段とおいしかった気がした。