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月下の庭  作者: 行見 八雲
二組目:主と騎士
8/21

いの1――主人公視点



 今は亡き祖母の家に暮らしはじめて数日が経ったころ、私は二つのとてつもない事実に気づきました。

 

 まず一つめは、お買い物に行けないということです!


 王子様とテンヨウさんがお発ちになってからしばらくは、家の片づけや農作業などに精を出していましたが、そろそろお肉やお魚などが無くなりかけてきたので、お買い物に行かなければと思い始めてきたのです。

 もともと祖母の家は買い物に行くのが不便な地にありましたので、祖母は日ごろから多くの食品を保存するようにしていました。お肉やお魚は冷凍させたり、干物にしたり、真空パックになっているものを買い溜めしたりと。また様々な野菜や果物も自分の畑で作っていましたので、食事を作るぐらいなら買い物に行かなくても一か月以上は余裕で持つのです。

 そんな食べ物のストックも残りが少なくなっており、いつの間にかこれほどに日にちが経っていたのかと驚きました。


 そこで、いつものように車に乗り、家を出て右側の方へ走って行ったのですが、立ち並ぶ木々の間をしばらく走り、ようやく木々の切れ目が見えたなと思いましたら、その先に地面が無かったのです。

 驚きつつも慌ててブレーキを踏みましたので、車ごと転落することは免れましたが、車を降りて恐る恐る確認したところ、そこはかなりの高さの崖で、遥か下には白い飛沫をあげる海が見えました。まるで、殺人事件ものの二時間ドラマのクライマックスに出てくるような景色です。

 あまりの高さに顔を上げると、真っ青な空に、うっすらとした赤茶色の大きな球体が、島などのない線で引いたような地平線から半分ほど覗いているのが見えました。顔を右に動かし、左に動かし。まあ地球って本当に丸いのですね。


 しかし、祖母の家のある県は確かに海に面してはいますが、車で数十分走った程度では着く距離では無かったはずなのですが。

 そもそも、祖母の家の右手の道は、十数本の木々の立ち並ぶ林を抜ければ、すぐに隣家が見えてくるはずです。あ、今は中世ランドになっているのですっけ。けれど、あんなに長く森が続くことは無かったと記憶しているのですが……。中世ランド計画が見直され、エコのために植樹でもされたのでしょうか。


 しばらく考えを巡らせてみましたが、一向に答えは出ず、とりあえずこの辺りにお店は無いようですので、一度戻って左側の道を行ってみようと思います。あちらの道は、山を一つ越えることになりますが、その先に大きめの住宅街と、大型スーパーがあったはずです。


 崖から落ちないよう恐る恐る車の向きを変えて、今来た道を戻り、そのまま家の前を通り過ぎました。

 そして、両側を深い林に囲まれた舗装されていない道を走っていますと、やがて木々の終わりと眩い光が差し込んできました。真夏のそれのような日差しに目を細めていると、目の前には乾いた大地に十センチほどの高さの草がちらほら散らばる、だだっ広い平野が広がっていました。まるで、いつかテレビで見たアメリカのどこぞの州のような光景です。

 慌ててブレーキを踏むと、ザザザとタイヤの擦れる音がして、砂煙が上がりました。


 思わずフロントガラスに顔を近づけて、辺りを見回していると、百メートルほど先の方に遊牧民のテントのような住居がぽつぽつと立っているのが見えます。

 そして、そのテントの前にいた男の子が、こちらを見て慌ててテントの中に入って行ったかと思うと、中からわらわらと大人の人達が出てきました。しかし、皆さんよく焼けた肌に腰みの……これも以前テレビで見た秘境の原住民さんのような恰好です。

 ええと、この辺りではあの恰好が流行りなのでしょうか。まあ、山奥ですし、よほどのことが無ければお巡りさんに捕まることも無いとは思いますが……。


 ついまじまじと見ていると、やがてその人達がこちらに向かって石を投げてきました。まだ距離があるので届きはしませんが、何かを叫びながら手のひら大の石がいくつも飛んできます。

 ちょっと、止めてください! 車に傷が……! 勢いしだいではボディが凹んでしまいます!


 徐々に近づいてくるその人達に恐れをなした私は、慌てて車をUターンさせると、もと来た林の中へと車を走らせました。

 ど……どういうことでしょう。見渡す限りの荒野に、住宅地やスーパーのようなものは全く見えませんでした。テントはいくつもありましたが……。やはり、エコ週間でマンションがテントに……?



 ようやく家にたどり着き、車を車庫に止めて家に駆け込み、玄関で両手両膝を突いて打ちひしがれていると、玄関戸の隙間からオヤブンさんが顔を覗かせました。

 あうう、どうしましょう、オヤブンさん! お隣が、エコ樹林と秘境の原住民さんランドになってしまいました! お店も見つけられず、お買い物にも行けません!


 野菜などは自家栽培が出来るとしても、お肉やお魚、卵や調味料、その他の生活必需品など、買わなければ困るものがたくさんあります。俗世間と隔絶して自給自足ができるほど、私は逞しくないのです。

 困ったなぁと思いながら廊下を歩いていると、廊下に備え付けられている電話が目に入りました。

 そうです! 行けないのなら持って来てもらえばいいのです! もはや世間に置いて行かれた私には、エコ樹林や秘境ランドは越えられないとしても、宅配業者の方なら越えてきてくれるかもしれません。


 最近は、ネット注文での宅配サービスが盛んになっていると、以前テレビのニュース番組で見ました。パソコンの故障の様子も気になりますが、とりあえず立ち上げてみます。


 ……えと、結論から言いますと、多分注文できました。何やら申し込みのページが随分シンプルで、申し込める物は限られているようですが、食料品や日用品などは問題なく注文することができました。支払いは公共料金と同じようにカード決済にして、お届け日は特に指定してません。後は無事に届くのを祈るのみです。


 それから十日以上経った頃、届いてました、荷物が。あまりにも遅いので半ば諦めかけていたのですが、場所が場所のせいか届くのに時間がかかってしまったようです。今度から早めに注文しておかなければなりませんね。

 そして、気が付けば玄関の中の上り口のところに荷物が置かれてました。あれ? 私受け取りのサインとかして無いですけど、良いのでしょうか。荷物だけ置いてすぐに帰るなんて、次に急ぎの用事でもあったのでしょうかねぇ。

 うん、中身はちゃんと注文したとおりでした。肉や魚等の食料品から日用品、つい買ってしまった合羽や非常食のような防災品まで、かなりの量になっていたようです。宅配業者さん、お疲れ様でした。



 さて、もう一つの驚きは――私的にはこちらの驚きの方が大きかったのですが――、ななななな何と! クラウセルベート王子様に頼りがいのありそうなイケメンの乳母兄弟がいたんです!! テンヨウさんにも、可愛い系やワイルド系など様々なタイプを取りそろえた部下達が……!

 ああ、どうしましょう、私二人を出会わせてしまいましたが、乳母兄弟さんや、部下の方達との間に、新たな火種を撒いてしまったのではないでしょうか! 惹かれ合う敵国同士の二人に対し、彼らを想う周囲の人達の燃え上る嫉妬の炎。度重なる周囲の妨害を受けながらも、徐々に周りを説得し結ばれる二人……! す……素敵です……っ!

 いやしかし、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染との恋。もしくは、何かと不器用な上司を健気にも支え続けてきた部下と上司の愛。それぞれの恋愛模様も美味しいですよね! 非常にたぎりますね!

 駄目です! 私には選べません!! しかし、一粒で二度おいしいとは、王子、テンヨウさん、あなた達は何者なんですか!?


 何故私が彼らのことを知っているかと言いますと、なんと、何となく二人の名前をパソコンで検索してみた結果、出たんですよ! ウィ○で。ちゃんと写真付きで、これまでの経歴が書いてありました。

 あ、でも、そんなに隅々まで読んだわけでは無いですよ。やはり、知り合いの個人情報を勝手に入手するのは、気が引けますからね。ただ、乳母兄弟や部下達との出会いやこれまでの関係状況などは、記憶する勢いで読みましたが何か?



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