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月下の庭  作者: 行見 八雲
三組目:二人の子ども
17/21

いの1――主人公視点



 さて、冬もだいぶ深まり、引っ張り出した炬燵からなかなか出られない今日この頃ですが、私は現在目を逸らし続けていた現実に直面しております。


 何と!! テレビが……テレビが映りません……っ!


 もともとこの家に暮らしていた祖母は、時代劇を見るのが大好きでしたから、地デジ化に合わせてテレビも新調し、山奥なので特別なアンテナ設備もきちんと整えておりました。私がこの家に来たときもちゃんとテレビは映っていたのです。しかし、お空が愉快なポップ風になってからというもの、ずっとどのチャンネルも砂嵐のままなのです!

 電波状況が悪いのかとしばらく様子を見ておりましたが、いつまで経っても直る様子もなく、受信アンテナをチェックしようにもどうすればいいのかさっぱり見当もつきません。電波の問題ではなくテレビが壊れた可能性もあるのですが、自分では直しようがなく、ネットでどう修理屋さんを呼べばいいのかもわからず……。


 ああ、どうしましょう。毎週楽しみにしていた、大きなお友達も楽しめる日曜朝の変身ヒーローものも、様々な妄想を掻きたてる汗と青春と友情が眩しいスポーツアニメも、メンバー同士のさり気ない距離感にときめきを抑えきれないアイドルグループの番組なども見ることができません!

 あまりの絶望的な状況に、テレビの前で両手両膝をついて打ちひしがれておりましたら、近くで寝そべっていたオヤブンさんから何とも言えない白けた視線を感じました。ううう、私の日々の活力なのに! 仕方がないので、ネットで取り寄せたDVDやBRで我慢しております。



 えと、ああそれから、同居人が出来ました。

 その男性はお名前が“ラン”と仰るそうで、見上げるような長身に長い手足、服の上からでも分かる鍛え上げられた体に、白銀の髪と赤い眼が特徴的な少し鋭い眼差しの、初めて見たときしばらく言葉が出なかったほどの美形さんです。髪と目の色も相まって非常にキラキラしいです。


 ランさんにお会いしたのは、私が畑の手入れをしているときでした。今は荒野の原住民さんランドになっている方の林から足早に歩いてこられたランさんは、私の姿を見て僅かに目を瞠り眉間に皺を寄せた後、きょろきょろと辺りを見回し、やがて顔を私に戻すと「……ナミはいるか?」と聞いてこられました。

 ナミというのは私の祖母の名前です。この方は祖母の知り合いだろうかと考えつつ、私が「少し前に亡くなりました」と答えると、ランさんは無表情だった顔に驚きを前面に映し出し、やがて一つ息を飲むと目線を下に落として「……そうか……」と呟かれました。


 そのまま黙ってしまったランさんに何となく気まずさを感じた私は、「お線香でもあげていってあげてください」とランさんを祖母の遺影が置いてある仏間へと案内しました。ランさんは見た目でも分かるように外国の方らしく、お線香のあげ方が分からないと言うので丁寧にお教えすると、「すまない」と礼を言われてから、背筋の伸びた綺麗な姿勢で仏壇に向かって手を合わせられます。

 和風の仏間に仏壇とその前に正座する異国の煌めく美形、という風景はどうにもミスマッチでしたが、仏壇に向かって手を合わせるランさんの表情はひどく真剣で、目を細めて見入ってしまいました。



 それから居間に案内し、お茶をお出ししていたところランさんに「……もしかして、ナギか?」と問いかけられました。この時点では私はまだ名乗っておらず、以前お会いしたことがあるようなその口ぶりに、私は首を傾げつつ「そうですが……」と返しました。祖母の知り合いなのですから、もしかしたら以前お会いしたことがあるのかもしれません。しかし、こんなキラキラしい美形、一度会えばそう忘れられるものでしょうか。……いや待って下さい、この眩しい銀色の髪に庭に植えたチューリップのような赤い瞳、どこかで見たことがあるような……?


 私がよほど顔中に思い当たりません感を出していたのでしょう、ランさんは小さく苦笑いを浮かべて、「憶えていないならいいんだ」と首を振られました。一瞬その目に傷ついたような色が過った気がします。うう……記憶力悪くてすみません! たぶんそのうち思い出すと思いますので!


 そうしてちょこちょこ祖母の話をしていたのですが、ランさんが何度か言葉を飲んで躊躇った様子の後、しばらくここへ泊めてもらえないだろうかと言われました。私は僅かに考えましたが、どこか必死の眼差しでこちらを見るランさんと、昔会ったことがあるらしいランさんをすっかり忘れている罪悪感から、承諾することにしました。


 見知らぬ男性との同居ということで、身の安全上の心配をされる方もいらっしゃるかもしれません。しかしよく考えて下さい。ランさんは顔も飛び抜けて整っており、身長も高く必要な分だけしっかりと筋肉の付いた素晴らしい肉体の持ち主です。そんな彼ならば、道を歩けば十人(男)が十人振り返り、美人系(男)・美少年系・平凡系(男)等々より取り見取りの選びたい放題、来る者(男)拒まず去る者(男)追わずの超モテモテ、(腐)ハーレム状態のはずです。

 そんなランさんが、あえて私(女)に手を出したりするでしょうかいいえありえません! なのでそんな自意識過剰な心配は全くもって無用なのです!


 貴重品などは隠し金庫にしまってありますし、見られたら困る本や腐グッズの数々は鍵のかかる自室へ隠しておりますので、その辺りも大丈夫です。あえて心配するなら、全く生活習慣が違うであろうことでしょうか。習慣や考え方の違いで何かと衝突しなければよいのですが。

 まあ何より、オヤブンさんが警戒していないっていうのが決定打でしたね。ランさんが現れてから、彼の足に擦り寄り傍に寄り添っているので、やはり祖母とオヤブンさんと面識のある人なのだろうなと思いまして。オヤブンさんは人を見る目が厳しいですからね。怪しげなセールスマンなど吠えて威嚇して庭を去るまで付け回します。よほど悪人でなければ噛み付いたりはしませんけれど。



 そんな感じで始まった同居生活ですが、心配していたような衝突もなく、他人がいることでのストレスも感じることなく、日々平穏に過ごしております。むしろ、男手が出来て何かと楽になりました。畑仕事も進んで手伝って下さいますし、高いところの物も楽々取って下さいます。

 私の部屋は家の二階にあり、ランさんは一階の片付の終わったもと祖母の部屋で寝起きしておりますし、ランさんは料理が出来ないということなので料理は私がしておりますが、掃除はやり方を教えれば家中して下さるようになりました。洗濯は、まあ見られたくないものもありますので私の担当ですね。ランさんの下着? 兄のものを散々見てきたので気になりません。


 それから、ランさんは最初我が家に来たときは、分厚い生地の少々着古した感の詰襟状の服と、外套を羽織っておられましたが、他に着替えが無いということでしたので、祖父の浴衣と半纏をお貸ししました。丈がだいぶ足りない気がしますが……ご本人が気にされてないので大丈夫でしょう。


 ランさん自身は口数も少なく物静かな方で、用事のない時は炬燵でオヤブンさんと並んでぼーっとしていたり、縁側から外を眺めていたりします。その一つ一つの行動が絵になること絵になること! さっすが今までテレビでも見たことのないような美形さんです。ここに居るのが私だけというのは非常にもったいないですね。オヤブンさん、ちょっと擬人化してみませんか? あ、いや、すみません、冷たい目で見ないで下さいお願いします。



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