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今日も一番端のカウンターで待ち合わせです〜お昼寝したい受付嬢のために今日も依頼を受けるしかない〜

作者: 海咲雪
掲載日:2026/03/25

 俺が暮らすライナード国は、冒険者の国と呼ばれ他国からも人が集まってくるほど冒険者という地位が確立されている。そんな国に生まれた俺は物心ついた時から冒険者に憧れていた。その気持ちのままに成人すると同時にギルド登録を済ませ、この職業についた。

 一番大きなギルドがある街で暮らしていたこともあったが、三年目になった今年、落ち着いた雰囲気の街に移住した。この国で五番目に大きな冒険者ギルドがあるサミカという街。依頼は中心地より少ないが、探せば合う依頼も見つけられる。何より街の人が穏やかで優しいこの街が俺は気に入っていた。冒険者ギルドの人たちも親切で依頼に悩んだ時は相談出来る。

 そんな俺は今日も依頼を済ませて、冒険者ギルドの扉を開いた。


「あら、ジークさん。ごめんなさいね、今日は結構混んでいて。空いている列に並んでくれるかしら?」


 いつも担当してくれている受付嬢が忙しそうにカウンターから顔を出してそう伝えてくれる。

 他のカウンターに目を向けるとどこも並んでいるが、一番端の受付は場所的な問題からか並んでいる人が数人ほど少なかった。


(ここにしよう……)


 並んで10分ほどで自分の番が回ってきた。


「次の方、どうぞー」


 澄んだ声だな、と素直に思ってしまうほどよく通る声の女性だった。薄茶色の髪を上の方で一つに結んでいて、どこかキリッとした雰囲気を感じられる受付嬢。


「今日はどうされました?」

「午前中に受けた依頼が完了したので報酬を貰いに」


 俺は机の上に討伐した獲物のツノや採集した鉱物を乗せた。その瞬間に受付嬢の顔に一瞬驚きが滲んだ。


「これは今日の依頼ですか?」

「え、午前中のですけれど……」

「随分と仕事が早いのですね」

「もう三年目ですから」

「三年目はまだ初心者だと思いますが……」


 いつもの受付嬢は慣れていてこんな言葉を言われたことがないので、素直に少し嬉しかった。私語が一つもない受付嬢もいるが、急いでいない俺にはこれくらいが丁度良い。

 割とこの受付嬢への印象が上がっていたが、俺はまだこの受付嬢の秘密を知らなかった。


「では確認させて頂きますね」


 受付嬢が机の上の確認を済ませているので、当たり前のように俺の視線は机の上に向いていた。


 しかし、突然動きが鈍くなる目の前の受付嬢の確認の手。そして、聞こえたのは……


「すぅ……すぅ……」


 どう考えても可愛らしい寝息。

 バッと顔を上げた俺の目の前には、すやすやと眠っている受付嬢の姿があった。


「!?!?!?」


 突然寝たのか……!?

 にしても突然すぎるだろう。

 驚きで頭が働かないのに、目の前の受付嬢はカクンカクンと首を動かして眠っている。しかも、隣のカウンターとの仕切りに頭がぶつかりそうになっている。

 咄嗟に手を出して受付嬢の頭を支えた瞬間……受付嬢が目がぱちっと開いた。俺と目が合うと、ぽぽぽっと顔が真っ赤に変わっていく。


「大変申し訳ありません……!」


 受付嬢の慌て具合は凄くて、先ほどの冷静な雰囲気とは全く違う。


「あの……! えっと、違うんです! どうしてもご飯を食べると眠くなってしまうタイプで……! でも、今までこんなことは一度もなかったというか!」


 声が段々と大きくなっていく受付嬢。俺は慌てて後ろを確認したが、俺の後ろに並んでいる冒険者はいない。

 ギルド自体も先ほどより混んでいないようだった。俺は受付嬢と目を合わせて、出来るだけ動揺を悟られないように笑う。


「落ち着いて下さい。別に気にしていません」


 受付嬢は我に返ったのか、もう一度「申し訳ありません……」と謝った。


「昔からご飯を食べるとすぐに眠くなってしまって……少しでも仮眠を取ると大丈夫なのですが、今日は時間がなくて」


 先ほどの混み具合を確認するにお昼休みも短かったのだろう。受付嬢は誤魔化すように討伐完了書類を俺に差し出した。


「内容を確認してサインをいただけると……」


 目の前に差し出された今日の依頼三件分の依頼完了書類。しっかりと読めば10分はかかるだろう。

 その時、俺はピンと閃いた。


「あの、仮眠ってどれくらいいるんですか?」

「え……? いつもは10分か15分ほど取っていますけれど……」

「じゃあ、俺が書類を確認している間に寝ていていいですよ」

「っ!?」

「もう慣れているので聞くこともないですし。それにカウンターには仕切りがあるので後ろに並んでいる人がいなければ見えませんよ」

「そんなこと許されるわけ……!」

「たまには良いと思いますよ。それに俺はちょっとのズルは推奨派です」


 さらっとそう言い放った俺に受付嬢は呆気に取られたようだった。


「ふふっ、おかしい人ですね」


 もうこの受付嬢にクールのイメージは一切無くなっていた。むしろ柔らかくて(ほが)らかなイメージ。


「ちゃんとお客さんが来たら起こして下さいね」

「はい」

「それと今日だけですからね……!」

「もちろん」


 受付嬢はどこか恥ずかしそうにしていたが、すぐに眠りについた。次は隣のカウンターとは反対の壁に寄りかかって眠っている。俺はゆっくりと書類を確認し、サインを済ませていく。顔を上げればすやすやと気持ちよさそうに眠っている受付嬢。

 案外、嫌な気持ちはしなかった。


 10分後。


「書き終わりましたよ」


 俺の声にパチっと受付嬢の目が開く。

 しかし、すぐに俺と視線を逸らしてしまって何を言いたそうにしている。


「どうしました?」

「うう、いえ……ジークさんにお見苦しいところを見せてしまって……」

「気にしてませんよ」


 本当に気にしていないし、「ジークさん」と呼んでくれるようになった時点で少しは気を許してくれたのだろう。それに……


「折角なら謝られるより、お礼が聞きたいですね」

「っ!…………ジークさん、ありがとうございます……」

「どういたしまして、ラナさん」

「!? どうして名前を!」

「名札が付いているじゃないですか」


 俺はいつも担当してくれている受付嬢も名前で呼ぶことが多い。というか、親しみを込めて名札の名前で呼ぶ冒険者が多い。

 ラナさんは話を逸らすように書類に目を通し、「依頼完了です」と受付嬢らしく凛と言い放った。


「では、俺は帰りますね」

「っ! 待って下さい……!」

「?? 何かありましたか?」

「あの……えっと、、、実は最近忙しくて仮眠を取る時間がなかったんです。本当にありがとうございます……」

「……」

「ジークさん?」

「……じゃあ、またたまにここに並びますね」

「え?」

「ラナさんの仮眠……いや、お昼寝のお手伝いをしますよ」

「!?!?!?」


 それだけ言い放って俺はギルドを出ていく。最後に見たのは驚きに溢れたラナさんの表情。


 これからお昼寝したい受付嬢と受付嬢のお昼寝を推奨する冒険者の物語が始まります。


⭐︎ーーーーーーーー⭐︎


「えーと、今日の依頼は……」


 翌日、俺が向き合っているのは依頼が張り出されている掲示板。この中から気になる依頼を選んで、受付に持っていけば正式に依頼を受けたことになる。


(今日もスライムやホワイトラビットの依頼にしようかな……)


 このライナード国が冒険者と言われる所以(ゆえん)、それはやはり魔物が多いことだと思う。しかし、魔物のいる地区は限られていて街の人はさほど困っていない。落ち着いた雰囲気の市民街と狩猟区と呼ばれる冒険者しか入れない地区。

 その両立が成り立っている不思議な国だった。そしてもちろん危険度によりA〜Eに分かれていて、依頼を受けられるかは冒険者ランクに付随する。またAの上にはギルドが個別に認めた冒険者のみがなれるSランクも存在する。

 俺は手元にある自分の冒険者登録カードに目を向けた。


『ランクB』


 三年目にしては高すぎるほどのランク。この街でBランク以上の冒険者は二十人もいないだろう。

 そのランクを持つ理由は……俺が焦りすぎていたからだと自信を持って言える。ランクを上げるために危険なことも沢山したし、体力的に無理があるほどの依頼もこなした。そして無理が(たた)ったあの日、俺は休むことと無理をしないことの重要性を知った。だからこそ

……


『じゃあ、俺が書類を確認している間に寝ていていいですよ』

『たまには良いと思いますよ。それに俺はちょっとのズルは推奨派です』


 ラナさんにそう言ったのは無理をしている人間が嫌いだからだと思う。俺は人間は眠たい時に眠る幸せをもっと噛み締めるべきだと心から思っている。

 目の前に貼られた沢山の紙には「ダンジョンの到達」や「Bランク以上しか受けられない依頼」も多くある。

 もちろん報酬だって段違いに高い。なんならスライムなんて冒険者一日目に挑戦したくらいの低ランクの魔物だ。それでも、もう俺は無理したくない。

 だから依頼を受ける件数も最低限に……いや、依頼達成書類が一枚だとラナさんの仮眠が3分になってしまう。


 だから俺は下級魔物の依頼を三件取り、受付を済ます今は朝なのでラナさんの列に並ぶ必要はない。俺は今までよく並んでいた受付嬢の列が丁度空いていたのでそこに向かう。


「ジークさん、おはようございます。昨日は混んでいてごめんなさいね」

「全然。別の受付嬢も親切で助かりました」

「確かラナの列に並んでいたわよね。ラナは真面目で良い子だからそう言って頂けて嬉しいわ。またどの列で良いから空いている列に並んでね」

「はい」

「えーと、依頼を三件ね。今日は時間がある感じかしら?」

「ええ、そんな感じです」


 ちょっとした世間会話をしながら依頼を受け終える。受付を済ませた俺はその場で小さく「ふはっ」と吹き出してしまう。


(確かに受付嬢のお昼寝のために三件の依頼を取るのは初めてだな)


 しかし、そんな自分が嫌いじゃなかった。


「よし、さっさと依頼を終わらせて午後イチで一番端のカウンターに並びますか」


 俺は腕を伸ばしてから、冒険者ギルドの扉を開けた。



⭐︎ーーーーーーーーーーー⭐︎



「よし、こんなもんか」


 依頼を終わらせ、武器の手入れも済ませる。今日は良く晴れた日で依頼をこなすのが予定より早かった。

 冒険者ギルドに向かうと、ギルドの前に数人の冒険者が立っている。


「そういえば、今日の朝にジークを見たぞ。あいつってまだDランクなのか?」

「まさか。Bだよ」

「は!? なんであんな低級の依頼を受けているんだ?」

「さぁ?気まぐれだろ。意味が分からないけどな。むしろ嫌味かもしれないな」


 何度も聞いた会話。

 いや、実際は数回ほどしか聞いていないかもしれない。それでも嫌な会話の時間は長く感じ、回数すらも多く感じるものだ。どうせ時間に余裕もある。

 太陽だってまだ真上にいて、ラナさんだってお昼ご飯が終わっていないだろう。俺はギルド近くのベンチで十分ほど時間を潰してから、ギルドの中に入った。


 並ぶのは一番端の受付。ラナさんの列。


 ラナさんは俺の顔を見つけると、少しだけ恥ずかしそうに顔を逸らした。俺の順番が来ると、ラナさんが定型文を丁寧な口調で告げる。


「こんばんは、今日はどうされました?」

「朝に受けた依頼を完了したので」


 俺は魔物を倒した時にドロップされたものを机に置いた。


「確認しますね」


 ラナさんが確認している間、俺はぼーっと先ほど聞こえた会話を思い出していた。


『気まぐれだろ。意味が分からないけどな。むしろ嫌味かもしれないな』


 そんなことあるはずないだろ。俺だってそんなに暇じゃない。ただ、急いで生きるのが嫌になっただけだ。

 ラナさんが確認を終え、俺の前に書類を置いた。今日も三枚。


「ラナさん、寝ていて良いですよ」


 八つ当たりだと分かっていても、こんな感情のままラナさんと目を合わせる気にならなくて、俺は書類に視線を落としたままそう言い放った。

 『分かりました』と返答が来ると思っていたのに、ラナさんは淡々と『寝ませんよ』と答えた。


「え?」


 つい顔を上げてしまう。その日、初めてラナさんと目が合った。


「あ、やっと目が合いましたね。今日はどうかされたんですか?」

「なんで……」

「どう考えてもジークさんの様子がおかしいので。寝ても良いなら寝たいですが、目の前に嫌そうな表情の人がいたら寝にくいです」


 ラナさんは初めて会った時のようなクールな態度で淡々と言葉を紡いでいく。


「私も多少のズルは推奨派です。書類を書くふりをして愚痴っても良いですよ。寝ている私なら多分聞こえません」


 クールな言い方……でも、話している内容は優しすぎるほどだ。そして、ラナさんは昨日と同じように壁に寄りかかって目を瞑った。

 この厚意を無駄にしたくないし……ラナさんにならつい聞いて欲しくなってしまう。後ろを確認しても並んでいる人はいない。今なら許されるだろうか?


「ずーっと焦って無理のある依頼だって受けていたら……余裕がなくなっていったんです。精神的にも体力的にも。人は余裕があるから他人にも優しくなれる」


「ある依頼の帰り道に転んだ子供がいて。助ける気力も湧かなくて、でも助けないとってゆっくり歩いているうちに他の冒険者が走って子供を起こしてあげてしました」


「それを見て思ったんです。『目の前で子供を助けているような冒険者になりたかった』、と。焦って冒険者の名誉はランクが高いことだと信じて疑わなかった。でも、求めていた冒険者像はそんなものじゃなかった」


 ずっと胸に引っかかっていた思い出話を初めて人に話せた。


「なりたい冒険者は今の自分じゃないと心から思ったんです」


 人から聞いたらしょぼすぎる思い出かもしれない。それでも、幼い頃から格好良い冒険者に憧れていた俺にとっては大きな出来事だった。

 ラナさんは目を瞑ったまま聞いてくれている、と思っていたが……


「すぅ……」


 可愛らしい寝息が聞こえた。俺はつい小さく吹き出してしまう。


「ふはっ」


 本当に寝るんかい!と思いつつも、そんなラナさんだからこそ気楽に居られる。

 簡単に俺の胸を軽くする言葉を言ってくれるけれど、それはラナさんにとって当たり前の優しさなのかもしれない。


 その時、俺の後ろに別の冒険者が並んだ。


「ラナさん」


 俺は急いでラナさんを起こすと、ラナさんがぱちっと目を開ける。


「ラナさん、話を聞いてくれてありがとうございます」


 俺の言葉を聞いてラナさんの顔に分かりやすく、(あ、どうしよう。本当に寝ちゃってた……)と書かれている。


「寝ててくれた方がよかったです。お陰で気楽に話せました」


 俺がそう言うと、ラナさんが何故か自信満々に「私のお昼寝も役に立ちましたね」と笑っている。ラナさんが俺が書き終えた書類を確認しながら、「ジークさん」と俺の名を呼んだ。


「何か不備がありましたか?」

「いえ、書類ではなくて。何を悩んでいたかは分かりませんが、これからも話を聞くことはいつでも出来るので」

「寝ながらですか?」

「うるさいです」


 ラナさんが書類の確認を終え、トントンと机で書類を揃えている。


「はい、依頼完了です」


 報酬を渡され、すぐに俺の次の冒険者に順番が回っていく。どこか呆気に取られたままギルドを出て、涼やかな風が顔を掠めてやっと俺は気持ちが楽になっていることに気づいた。


「さ、明日も頑張りますかー」


 気ままに出来る範囲で頑張る冒険者と、お昼寝したいのんびり受付嬢。

 そんな二人は割と気が合うのかもしれない。


⭐︎ーーーーーーーーー⭐︎


 それからも午後一番にラナさんの列に並んで、お昼寝のお手伝いをする日々。


「今日も寝てて良いですからね」

「……」

「ラナさん?」

「いつもジークさんは私が寝ている時に次のお客さんが来たらすぐに起こしてくれますよね」

「え、はい」

「それに書類が書き終わったもすぐに起こしてくれる」

「ゆーっくり書いていますが……」


 ラナさんがどこか不服そうにしている。


「ラナさん? 何か不満でもありましたか?」

「無いから怒っているんです」

「え?」

「仮眠は取れるし、午後からの仕事の進みも速くなりました。文句は一つもないです……だからこそジークさんに頼りすぎではないかと思ってしまって……」

「別に大した手間もかかっていないので大丈夫ですけど」


 俺が当たり前のようにそう返すとラナさんがぷくぅと頬を軽く膨らませた。


「そういう所が腹が立ちます」

「は!?」

「まず私はお昼ご飯の後に仮眠がいるし」

「まぁ、それは仕方ないじゃないですか」

「ジークさんの悩みを聞く時もうっかり寝ちゃうし」


 (まだ気にしていたんだ……)と心の中でツッコミと入れてしまうが、言える雰囲気じゃない。ラナさんが周りに聞こえないくらいの音量で机をペチンと叩いた。


「だから! 今日は寝ません!」

「え、大丈夫なんですか? どうせ寝ますよね?」

「ジークさんは私のことを馬鹿にしすぎです!」

「ここで寝ておかないと次の人の時に眠くなりますよ?」

「っ! うう……」


 ラナさんが若干俺のことを睨んでいるが、本当のことしか言っていないので気にしないでおこう。


「じゃあ、今度ジークさんがお昼寝したい時は私が手伝いを……!」

「俺の場合は、別に普通に家で寝るんで」


 どこからか可愛らしい悔しそうな(うな)り声が聞こえた気がするが聞かなかったことにしておこう。


「じゃあ、何か私にして欲しいことはないんですか……!?」

「特にないですね。とりあえずそろそろ寝ないと時間なくなりますよ」


 もうすぐ昼過ぎの混み合う時間になってしまう。お昼ご飯を食べ終えた冒険者がギルドに来るのが、その時間なのだろう。

 ラナさんは悔しそうに壁に寄りかかって目を瞑った。一分ほどで「すぅ……」と寝息が聞こえてくる。相変わらず寝るのが早い。

 後ろに並ぶ人がいなければ、ラナさんのことは誰にも見えないだろう。横の列に並んでいる人も俺が障害になって見えない。それが一番端のカウンターというもの。


 たった15分にも満たないラナさんの仮眠。

 その小さな寝息を聞きながら、ゆっくりと書類を確認してサインをしていくのは嫌じゃない。世界の時間がここだけのんびりに感じるような、そんな雰囲気。10分経てば……


「ラナさん」


 すぐにぱちっと目を覚ましたラナさんは珍しく寝ぼけていた。


「おはようございます、ジークさん。良い朝ですね」

「もう昼ですね」


 そこでラナさんはハッと我に返ったようだった。


「ちょっとした冗談です」

「寝ぼけてましたよね」

「気のせいです」

「あ、ラナさん。先ほどラナさんにして欲しいことはないかって言いましたよね。ここで使います。正直に答えて下さい。寝ぼけましたよね?」

「っ! ジークさん、段々意地悪になってませんか!? 寝ぼけただけじゃにゃいですか!……あ」

「噛みましたね」


 ラナさんが今度はしっかりと俺の目を見て睨んでいる。


「からかいすぎました。すみません」

「分かれば良いです」


 ラナさんがコホンと咳払いをして、書類の確認をする。


「ラナさん」

「はい?」

「一つして欲しいことがありました」


 ラナさんが俺の次の言葉を真剣な顔で待っている。


「俺、割とラナさんのお昼寝時間が好きなので、他の人に頼まないで下さいね」


 それはこの時間が嫌じゃない本心と……やりたくてやっているのだから気にしなくて良いと伝わって欲しかった。何か俺にお返しをしないと、なんて考えてほしくなかった。

 しかし……何故かラナさんの顔は少し赤くなっている。


「ジークさんってそういう所ありますよね」

「え、どういう所ですか?」

「何というか……普通の人が恥ずかしくて言うのを躊躇(ためら)うことを軽く言い放つところがありますよね」

「そんな変なこと言いましたか……!?」


 ラナさんが小さくため息をついた「まぁ、たまには素直も大事ですよね」と呟いた。


「私もジークさんといると『休憩って悪いことじゃないなぁ』とか『疲れるくらいならこれくらいのズルは良いか』と思えます」

「それは、褒めてますか……?」

「褒めてますよ。私もこの時間が割と好きってことですから」


 その瞬間、やっとラナさんの言葉の意味が分かった。というより、同じ言葉を言い返されてやっと分かった。


「確かに普通に恥ずかしいもんですね……」


 すると、ラナさんが「分かればよろしい」と自信満々な顔をしている。書類の確認を終えたラナさんが「依頼完了です」とよく通る声で言う。

 俺が席を立つと、何故かラナさんが「ジークさん」と俺を呼び止めた。


「明日も待ってますので。仮眠同盟として」


 俺はどこか悔しくて「お昼寝同盟ですね」と言い返してから席を離れる。


「そこは仮眠にしといて下さい! そっちの方がまだ格好良く聞こえます!」


 後ろからラナさんの抗議の声が聞こえた気がしたが……うん、無視しよう。


 これは「お昼寝同盟」なのだから。


 だから……当たり前に明日もラナさんのお昼寝のお手伝いをすると思っていた。明日はお昼寝どころではなくなることを知りもせずに。


 次の日も俺はギルドの掲示板に貼られた紙を見ながら、受ける依頼を考えていた。

 今日は低級魔物の討伐依頼が少ないな……。


「ジークさん、どうされました?」


 名前を呼ばれ、咄嗟(とっさ)に振り返るとラナさんが掲示板の張り紙を足そうとしている。ラナさんの腕には十枚ほどの新しい依頼の紙が抱えられていた。

 朝の空いている時間なので受付以外の仕事も頼まれたのだろう。


「あー……えっと、受けたい依頼が少なくて……」

「確かに今日は低級魔物の依頼が少ないですね」


 ラナさんは俺の悩みを聞いていたわけでないが、依頼の受け方で何となく察していたのかもしれない。ラナさんは腕の中の紙をパラパラとめくり、低級魔物の依頼を探してくれているようだった。


「うーん、こちらの依頼も中級以上ばかりですね」


 ここで「中級の魔物にも挑戦したらどうですか?」と言わないところがまさにラナさんだった。そして、まさかのこう言うのだ。


「うーん、これは今日はお休みにした方が良いかもですね」


 その言葉に俺はつい「ふはっ」と吹き出して笑ってしまった。


「ジークさん……!?」

「いや、あまりに当然のように休みを提案されたので驚いてしまって。仮にもギルドの受付嬢に」

「先に息抜きを教えたのはジークさんじゃないですか!」


 ラナさんに言い返されても笑いが止まらない。やっと笑いがおさまってきた頃に、俺は笑いすぎて溢れた涙を拭いながら顔を上げた。


「そうですね。今日はお休みにしようかな。あ、でもここに一枚低級魔物の依頼がありますね。これだけ受けてから……」


 その時、ギルドの外からドガッと大きな音が聞こえた。

俺が振り返ったと同時に、プラスで二回ほど大きな音が鳴り響く。

 今度は地響き付きで。


「きゃぁああああああ!!」


 街の至る所から悲鳴が響き渡る。異常事態が起きたことは明らかだった。

 俺が慌ててラナさんの方を振り返ると、ラナさんはもういなかった。ギルド内を見回すと、ラナさんが他の職員と状況確認をしながら話し合っている。

 こういう時こそ行動が早くて、落ち着いているラナさんを素直に尊敬してしまう。俺も負けていられない。

 ギルドに飛び込んできた街の人が「街の方に魔物が出たの!」と職員に叫んでいる。ライナード国は魔物生息エリアと人々が住む街は離れているはずだ。なぜ街に魔物が入ってきた?

 疑問が浮かんだが今はそんなことを言っていられない。


「魔物の種類は分かりますか?」


 街の人を驚かせないように出来るだけ落ち着いた声で聞く。


「そんなの分からないわ! でも前に物語で読んだドラゴンみたいだったわ!」


 街の人の話から推測するに街に現れたのはワイバーンだろう。ライナード国では生息数が少なくはない魔物だが、どうやってここまで飛んで来た?

 しかし今はとりあえず対処法を考えなければ。

 ワイバーンを確実に仕留めるならばBランク以上の冒険者が五人はいるだろう。俺は受付の方向に向かって「今Bランク以上の冒険者はこの街に何人いますか!?」と叫ぶ。その疑問を受付嬢たちが確認している間に、俺はギルドの扉を開けて街へ走り出した。


 ワイバーンを目視で確認する。


 街にある家の上を飛びながら、たまに家の屋根に着地して屋根から瓦礫(がれき)を落としている。しかしサイズ的には小さい方だろう。これならばBランク以上が4人で対応出来そうだ。

 街の避難指示の進み具合を確認すると、衛兵がしっかりと指揮をとっているようだった。

 

 俺がギルドに戻ると、ラナさんが「ジークさん、四人ほど集められそうです! ただ到着に十分ほどかかるかと思います!」と叫んでくれる。その情報が分かっただけで十分だった。


「他の冒険者が来るまで時間稼ぎをしますので、他の冒険者が到着したらすぐに合流するよう伝えて下さい! それと、C級の冒険者はいますか! 少し離れた位置からワイバーンの正確な位置を逐一ギルドに伝えて下さい! その位置情報を元に街の人の避難経路の確保を行い、B級以上の冒険者が到着したら合流する場所としても伝えて下さい!」


 ああ。今までこんなにのんびりと過ごしてきたはずなのに、頭は何故かよく回る。

 B級の魔物と戦うのは久しぶりだ。

 傲慢さと大胆さを持て余せば、当たり前に命を落とすだろう。自分の技量を見極めて行動しないと。

 ブランクの長さも考えると、他のBランク以上の冒険者が来るまでの時間稼ぎは出来れば上出来だろう。それでも、無理もあるかもしれない。ここで自分に過信することは街の人の命に関わる。それに街の人の命を預かるということは責任も当たり前にある。


 早く決めないと……早く考えないと……!


 頭はよく回るとか言っていたのはどこのどいつだよ。


 こんなのじゃ何の役にも立たないあの頃のまま。転んだ子供をすぐに助けられる人間になりたかったのに、力がなければ助けることも出来ないということだろうか。

 やっぱり焦っても力をつけていたあの頃が正しかったというのだろうか。

 ああ、もう嫌だ。頭が熱くなるようなこの感覚は嫌なのに……



「ジークさん!」



 よく通る声が聞こえて反射的に振り返る。ラナさんの声は本当に通りやすい。



「ジークさん、ワイバーンを倒す倒せないじゃない! 街にいる転んだ子供を起こしてあげるつもりで駆け出して下さい!」



 きっと他の人からしたら少し意味が分からない言葉かもしれない。でも俺には分かる。

 ラナさんは「出来る範囲で出来ることを『後悔なく』やってこい!」と言ってくれている。その言葉がどれだけ俺に勇気をくれるのかなんて分かりきっていた。俺はギルドの扉を開けて、文字通り飛び出した。

 あの時、寝ていたはずのラナさんはどうやら俺の話を聞いていたらしい。そういうところは本当にズルい。


 それでも……


「働く時は働かないとな。多少のズルは働いてからの楽しみにしよう」


 俺は自分の武器である大剣を取り出して、街を駆け出した。前に「お前に大剣は似合わない」と言われたことがあった。別に親しくもないのに、偶然一度だけ同じパーティーになった冒険者に言われた。


「大剣よりもっと弓などの遠方攻撃用の武器が向いているんじゃないか」


面と向かってそう言い、陰では、


「あいつの性格で大剣は似合わない。積極的な性格じゃないからな」


と嘲笑っていた。


 俺は……逆だと思う。積極的じゃないからこそ状況把握は得意だった。それこそが一番大事な能力だと分かっていた。それでも、どこか攻めきれないところがあるのも事実だった。

 そんな性格のくせに沢山の依頼を入れて、無茶なスケジュールをこなしていた自分。そんな無茶をする馬鹿者のくせに、本当のリスクは取らない自分。最後の一振りを諦める癖がある。矛盾ばかりの格好悪くて最悪な冒険者。それが俺だろう。

 どこか一貫した折れない芯が欲しい。


 ああ、なんで目の前でワイバーンが暴れ回っているのにこんなことを今考えているのだろう。


 久しぶりに命の危機に瀕しているからだろうか。


 ワイバーンを相手にした時間稼ぎなんて、下手をしたら死ぬだろう。それでも結局ワイバーンに向き合ってしまうのだ。目の前のワイバーンが街に進みそうになる度に大剣を振るう。

 出来れば、もっと街から離したいが進ませないようにするので精一杯だった。あとどれくらいで他の冒険者は到着するだろう。後ろでC級の冒険者が俺の指示通りにワイバーンの位置を逐一ギルドに報告している。ワイバーンを後退させるつもりだったから「逐一報告してほしい」と言ったが、今の俺ではワイバーンの位置はほとんど変わっていない。


「ははっ、かっこわる」


 ワイバーンに大剣を振るいながら、独り言のように自分で自分を嘲笑っている。あと十分(じゅっぷん)が体力的に限界だろう。他の冒険者の到着がそれ以上遅れたらどうすれば良いだろうか。

 方法は思いつかない。つまり俺が出来るだけ頑張るしかない。今日が終われば、一週間寝込んでも良いから頑張らないと。


 無理でもやらないと。


 やるしかないのだから。


 そんな思考は……そんな自分を追い詰めるような思考が巡るのは、無理をしていた時の自分のようだった。


 頑張らないと。

 

 やるしかない。


 手を抜いて良いはずがない。


 ラナさんの言葉が頭をよぎる。


『ジークさん、ワイバーンを倒す倒せないじゃない! 街にいる転んだ子供を起こしてあげるつもりで駆け出して下さい!』


 その言葉に勇気をもらった。安心した。それでも、ここで俺が無茶しないと人が死ぬ。

 その瞬間、ワイバーンが唸り声を上げた。

 俺に少しずつ傷をつけられてストレスが溜まったのだろう。高く空に上がり、そしてもう一度街に飛び込もうとしている。あの助走のまま飛び込んだら家が二十軒は吹き飛ぶだろう。少なくとも俺の力が防げるはずがない威力であることは確か。街の人の避難が済んでいるか確認すると、家の中に人はもういなさそうだった。

 ならば、ここは一旦退避を……


「うわぁあああああああん!」


 聞こえたのは幼い男の子の泣き声。家の前で転んで足を痛めたようで歩行すら困難そうな男の子。ワイバーンの被害に遭うであろうギリギリのライン。

 こんなところで過去と重なるなど皮肉すぎるが、目の前に起きていることは現実だ。俺は無我夢中で子供を拾い上げ、全速力で走る。ワイバーンが飛び込んでくるまで、あと数秒であるはずなのにとても長く感じる。

 

 ドーン、という音と共にワイバーンが家に飛び込んだ音がする。地面から振動が伝わってくるのを無視して走り続ける。

 家にぶつかった衝撃で瓦礫が飛び散っている。

 もっと離れないと……と思った瞬間に視界の上に瓦礫の破片が見えた。咄嗟に男の子を庇うように体を丸めた俺に、ドンッと衝撃が走る。

 これは瓦礫が当たった音じゃない。




「ジークさん! 早く起き上がって走ってください!」




 ラナさんが俺を押して、飛んできた瓦礫からギリギリ()けさせたようだった。まだ瓦礫は飛び交っているので、俺は子供を抱えたままラナさんと走り続ける。


「ラナさん! なんでこんな危ない所に出てきているんですかっ!」


 俺がそう叫びながら走っているのに、ラナさんは俺の言葉を無視して「走るのに集中して下さい!」と言い返した。安全な場所に着く頃にはワイバーンの衝撃も収まりつつあった。

 飛び交う瓦礫はなくなり、土埃だけが舞っている。

 そこでやっとラナさんは止まり、「他のB級以上の冒険者が到着しました。A級二人とB級二人です。既にもうワイバーンの方へ向かっています」と早口で言い切った。


「ジークさん、体力は残っていますか?」


 ラナさんは俺と目を合わせたままだった。


「残っているなら今すぐに応援に行って下さい。体力的に限界ならこのままギルドへ」


 今、ラナさんと目を合わせてやっと分かった。ラナさんはずっとを俺を信頼してくれていた。

 俺の判断を信じてくれていた。俺はそれが死ぬほど嬉しかっただけだ。


「体力はまだ余力があります。無理が来るまでは応援に行きます。限界が来たら……」


 そこでラナさんが俺の言葉を取るように先に口を開いた。


「無理なく帰ってきて下さい。私はちゃんとギルドにいますので」


 ああ、俺は何を不安がっていたんだ?

 頑張るしかなくて、でも自分の無力さも嫌で。矛盾ばかりで嫌になる?

 違う、矛盾じゃない。

 いつだって俺たちは出来る範囲を見極めて、頑張っているだけ。そんな無我夢中の自分が嫌いじゃないだけだ。


 それで疲れた時は多少のズルで休憩する。



「ラナさん。俺、頑張ってきますね。それで今日が終わっても、たまに下級以外の魔物にも挑戦します」


「休みがあるから頑張れるんで。次は俺の休憩を手伝って下さい」



 ラナさんはこんな状況なのにクスッと少しだけ笑ってくれる。


「仕方ないですね。いつも私の休憩に付き合ってもらってるので」


 俺はもう一度ワイバーンに向かって走り出した。


 俺がもう一度ワイバーンの目の前に立った時には、他の冒険者はもうワイバーンと戦闘を始めていた。戦闘の補助をする形で応援に入る。

 A級ランクの冒険者が指揮を取り、B級ランクの冒険者をまとめている。統率の取れた戦闘でわずか20分ほどでワイバーンとの戦闘は終了した。俺は目の前に倒れているワイバーンを呆然と見つめてしまう。


「ジークさん、だったかな。お疲れ様」


 メインで指揮を取っていたA級ランクの冒険者が俺に声をかけてくれる。


「戻ってきてくれて助かったよ。それに俺たちが到着するまでも戦ってくれていたんだろう?」

「いえ、時間稼ぎすら出来たかどうか……」

「あはは、何を言っているんだか。ジークさんが戦わなかったら、もっと被害が出ていたことは確かだろう。それくらいは君も分かっていると思うけれど」


 わざとからかうようにそう言ってくれるのは、俺を気遣ってのことだろう。ワイバーンとの戦いを終えた後なのに、他の冒険者を気遣う余裕も残っているのは流石A級としか言えなかった。

 他の冒険者たちは流石に疲れているようで、みんなで軽く労い合ってから共にギルドに戻っていく。ワイバーンの討伐を終えた俺たちは一躍(いちやく)街の英雄のような扱いで、ギルドにいた人たちから称賛の声が飛び交う。

 俺は時間稼ぎと補助しかしていないので、称賛は他の冒険者に任せてそっとギルドの隅にいるラナさんに近づいた。ずっと聞きたかったことをラナさんに問い詰める。


「なんでワイバーンがいるところまで来たんですか。無事だったから良いものの危なすぎます」

「それは……ジークさんが心配というか、心配とは違うというか……」

「どういうことですか」

「なんかジークさんなら自分を犠牲にしてでも誰かを助けそうだなって思ったんです」

「いつもあんなに多少のズルを推奨している俺がですか?」


 すると、ラナさんは心底意味が分からないとキョトンとした顔をした。


「そんなの関係あるはずないじゃないですか。だってジークさんは生粋の冒険者でしょう?」


 その言葉で俺は悟った。ああ、俺は一生ラナさんには敵わないな、と。

 その時、先ほどラナさんに言った言葉が頭をよぎった。


『休みがあるから頑張れるんで。次は俺の休憩を手伝って下さい』


だから、俺は……


「ラナさん。俺は疲れたから暫くそこの椅子で寝ているので、15分ほどで起こしてくれますか?」


 ラナさんが「任せて下さい!」と意気込んでくれる。休みがあるから頑張れる。

 でも、どうせ休むならラナさんと一緒が良い。

 

 だってお昼寝同盟なのだから。



⭐︎ーーーーーーーーーー⭐︎



 それから一週間が経った頃。

 俺はいつも通り一番端のカウンターにラナさんと向き合って座っていた。


「じゃあ、ワイバーンが街を襲撃したのは近くに生息地が出来たからなんですね」

「正確にはワイバーンの数が増えたことにより、生息地が広がったという感じですね」


 これからも他の魔物が街を襲うような異常事態が起きているのか心配だったが、ワイバーンに集中して対処すれば良いということだろう。それでも最悪の事態は避けられただけで、これからもワイバーンが街を襲う可能性があるということだ。

 それに増えすぎたワイバーンは他の生態系も崩すだろう。


「それで国はどのような対応を?」

「まず選抜されたA級の冒険者は召集され、ワイバーン対応に向かうそうです。そして、ギルドで受けるワイバーン討伐の依頼も報酬を上げることになりました。しかし、報酬が上がったことにより初心者の冒険者が挑戦したら危ないのでワイバーン討伐はC級ランク以上。そして絶対にB級ランクより上の冒険者を三人以上入れるという規則が決まりました」

「なるほど……」


 俺が納得していると、ラナさんがじっと俺と目を合わせた。


「ラナさん?」

「ジークさんはどうされますか?」

「俺は……」


 もう決めている。前にラナさんに言った通りだ。


「無理のない範囲で討伐に向かいます」


 それで……


「でも、疲れたら休憩しても良いですか?」


 ラナさんは当たり前のように笑った。


「前も言ったはずです。私も多少のズルは推奨派だと」


 俺はこれからも頑張って仕事するだろう。多少のズルを推奨してくれる受付嬢の隣で。いや、カウンターを挟んで向かい合いながら。

 無理はしない。疲れたら休む。


 これから先も待ち合わせ場所は一番端のカウンターで。


⭐︎ーーーーーーーーー⭐︎


 今日も俺は受付カウンターの一番端の席に座る。


 時間はお昼過ぎ。


「ラナさん、今日も仮眠とって良いですよ。俺は依頼達成の書類をゆーっくり書いているので」

「うう、お言葉に甘えます……」


 これからもこんな日々が続いていく。


 たまにお昼寝をする方を交代しながら。



fin.


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