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メモと風

英語の金先生の声が、教壇からゆっくりと響いていた。

その声には少し疲れが混じっていて、

「Good afternoon」さえも鼻にかかったような調子で、

眠気を誘うほどだった。


「クラスのみんな——please look at the blackboard——」


チョークが黒板に「カカッ」と音を立てる。

午後の陽射しが半分開いた窓から差し込み、

空気の中に細かなチョークの粉が浮かんでいた。


趙翰文ジャオ・ハンウェンは黒板をまっすぐ見つめながら、

目の焦点はどこにも合っていなかった。

ペン先は紙の上に浮いたまま、

しばらく動かない。


やがて彼はゆっくりと横を向き、

窓の外の雲に目をやった。

幾重にも重なった雲が、風にほぐされた綿のように広がっている。

陽が頬の片側にあたり、その輪郭をやわらかく照らした。


李方苒リ・ファンランのペンは止まらなかった。

今日は文法の授業で、期末にも出る重要な単元。

黒板を凝視しながら、心の中でそっと祈る——

先生、もう少しゆっくり話して。


けれど、集中できなかった。

視線の端が、どうしても隣の席へと流れていく。


彼がたびたび窓の外を見ているのに気づく。

その心ここにあらずな表情。

ひと目で、授業を聞いていないことが分かる。


李方苒はノートを取りながら、何度もちらりと見た。

彼は授業の始まりから、ほとんど何も書いていない。

注意したい、でも声はかけられない。

金先生は、生徒の私語を何より嫌う。

見つかったら、すぐに叱られる。


数秒迷って、

彼女はそっとノートの端を破った。


「どうして聞いてないの?」


そう書いて、紙を小さく折りたたみ、

先生が黒板に向かっている隙を見て、

静かに彼のノートの端に滑らせた。


趙翰文は一瞬、きょとんとしたが、すぐに察した。

手で紙を押さえ、すばやく机の中に入れ、

先生の視線がこちらに来ないうちに、

小さく開いた。


その一行を見た瞬間、

胸の奥で何かがふわりと弾けた。


彼は軽く俯き、

ペンを持ちながら、まるでノートを取るふりをして書き返した。


「ちゃんと聞いてるよ。この授業、簡単すぎるだけ。」


書き終えた瞬間、

思わず口元が緩んだ。

少し格好つけすぎたかも——そう思って書き直そうとした時には、

もう紙を返してしまっていた。


その時——


「趙翰文!」


教壇から金先生の声が飛んだ。

教室中の視線が、一斉に彼に向けられる。


彼は一瞬固まり、

笑みの名残がまだ口元に残っているのを感じた。


先生は眉をひそめて言った。

「何がおかしいの? ノートを取るのがそんなに楽しい?」


教室は静まり返った。

趙翰文はすぐに姿勢を正し、落ち着いた声で答えた。

「……いえ、なんでもありません、先生。」


先生は数秒見つめたあと、

「あなたじゃなければ、もう立たせてたわよ。

集中しなさい。次は立って聞くことになるわよ。」


「……はい。」

彼は小さく答えた。


教室に再び静けさが戻る。

だが、李方苒の心臓はまだ早鐘を打っていた。

——もしかして、私のせいで……?


後悔と罪悪感が胸を刺す。

そっと隣を見ると、彼は何かを書き続けていた。

真剣な横顔。

だけど、口の端にほんのわずか笑みが残っていた。


李方苒は慌てて視線を逸らし、

ノートを取るふりをしながら、ペン先を震わせた。


しばらくして、

机の上に小さな音がした。


彼からの新しい紙片が、

そっとノートの横に滑り込んでいた。


そこには一行だけ——


「心配すんなよ、まだバレてない。」


彼女はそれを見た瞬間、

思わず吹き出しそうになった。

唇を噛んで笑いをこらえながら、ページをめくるふりをした。


二人はそれ以上何も書かなかった。

でも、互いの心は何度も、

あの小さな紙切れに戻っていった。


まるで、ほんの少しの風で、

そのメモが飛んでいってしまいそうな気がして。

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