開校の日
それは、2018年9月の最初の日だった。
校庭では整列、挨拶、笛の音――そしてすぐに始まった軍事訓練。
あまりにも速いテンポで、まるで誰かの手によって全員が一列に押し込まれるようだった。
入学したばかりの子どもたちにとって、そのスピードが意味するのはただ一つ――
「もう友達がいる人」と「まだいない人」が、一目でわかってしまうということだ。
李方苒は列の中に立っていた。
編み込まれた三つ編みが首筋にぴたりと張り付いている。
小学校から一人でこのクラスに分けられ、知り合いは誰もいなかった。
話したくないわけではない。
ただ――まだ「どう話しかければいいのか」を知らなかった。
彼女は心の中でそっと言い聞かせた。
目立ちすぎてもいけない。でも、静かすぎてもいけない。
休憩時間になると、いくつかのグループが自然と輪を作った。
小学校の噂話をする者、親戚を見つけて喜ぶ者。
みんなが必死に、居場所を作ろうとしていた。
李方苒は一人、校庭の隅の影にしゃがんでいた。
あたりを見回しながら、あたかも隊列を観察しているふりをして、
実際は――自分と同じように、一人でいる誰かを探していた。
そして、ついに見つけた。
反対側の列の陰に、同じように一人の男子生徒が座っていた。
背は高くも低くもなく、目立つ顔ではないが、肌が白い。
手の中で水筒をくるくる回しながら、どこか遠くを見ている。
太陽の光が髪に当たり、つむじが少し乱れていた。
誰とも話さず、まるで熱気の中に一人閉じ込められているようだった。
彼が無理に平然を装っていることは、すぐに分かった。
そのぎこちなさと、無理に落ち着いて見せる姿勢が、あまりにも自分と似ていたのだ。
(ああ、この人も同じなんだ。)
そう気づいた瞬間、胸の奥に小さな安堵が浮かんだ。
「自分だけじゃないんだ」と思えた、その一瞬の軽さ。
だが、ちょうどその時――彼が顔を上げた。
目が合った。
その一瞬は本当に短かった。
瞬きをする間もないほどの一瞬。
けれど李方苒の心臓は一気に跳ね、慌てて視線を逸らした。
靴紐を直すふりをして、顔を伏せる。
(……きっと、私が他の人を見てたって思ってるよね。)
そう思いながらも、つい目の端でまた彼を見てしまう。
すると、彼も同じように下を向き、水筒をもう一度回した。
二人の仕草は、まるで鏡のように同じだった。
その“気づかれたくない”のに“気づいてしまう”気まずさに、
彼女は笑いそうになって、同時に逃げ出したくなった。
「ねえ、あなたも一人?」
柔らかく笑う声が、横から聞こえた。
李方苒が振り向くと、同じクラスの女子が立っていた。
肩までの髪が「許されるギリギリの長さ」で揺れ、
その中途半端な“校則ギリギリ”の感覚が、彼女の得意技なのだとすぐに分かった。
彼女の肌はすっぴんのように整っていて、笑い方も慣れていた。
「うん。」李方苒は小さくうなずいた。
胸の奥でそっと息をつく。
――誰かに話しかけてもらえる、それだけで救われる気がした。
「私、陳雅桐。あなたは?」
「李方苒。」
陳雅桐は話題が豊富で、テンポも速かった。
「教官、めっちゃ怖くない?」「校服、ださくない?」
「ねえ、うちのクラスに学年トップいるらしいよ。」
李方苒はただ、笑って、うなずいて、相づちを打つ。
沈黙が怖かった。
この唯一話しかけてくれた子が、もし退屈だと思って離れてしまったら――
そう思うだけで、喉が詰まりそうだった。
「前の列のツインテールの子、見た?
軍訓なのにあの髪型、ちょっとあざとくない?」
一瞬、李方苒は返事に詰まった。
その言葉に潜む悪意が、すぐに分かったからだ。
でも、反論する勇気はなかった。
「……あ、気づかなかった。」
それが、彼女にとって一番“安全な答え”だった。
陳雅桐は「ふーん」と笑って、話題を変えた。
午前の軍訓が、ため息の中でようやく終わる。
昼になっても校庭の熱気は消えず、地面から湯気のように上がっていた。
「一緒に食堂行こ!」
陳雅桐が声をかけてきた。
「うん。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが緩んだ。
――私、今日ちゃんと“仲間”ができたのかもしれない。
列に並びながら、陳雅桐が尋ねる。
「知り合い、いる?」
「誰も……まだいない。」
「そうなんだ。でも大丈夫、これからいっぱい話すでしょ。」
その声のトーンが、ほんの少し軽かった。
“ああ、この子はもう判断したんだ”――李方苒は直感した。
「安全。脅威にならない。」
夕方。
軍訓を終えた生徒たちが列を作って教室に入り、
先生が座席を読み上げていく。
「李方苒、趙翰文。五列目の四番目。」
一瞬、息が止まった。
――それは、今朝視線がぶつかったあの男子。
赤く日焼けした頬、視線をそらすあの一瞬。
席に向かうと、彼はすでに座っていた。
「こんにちは。李方苒です。」
「趙翰文。」
低く、落ち着いた声。派手ではないが、礼儀正しい。
二人はそのまま黙り込んだ。
少しの気まずさ。けれど、それは不思議と居心地が悪くなかった。
敵意のない沈黙――それだけで救われる瞬間がある。
李方苒がふと後ろを振り返ると、
そこには陳雅桐が、ひとりの男子と並んで座っていた。
その男子――孫静沢。
整った顔立ち、明るい笑顔。
たった半日の軍訓で、すでにクラスの人気者だった。
その明るさは、外見の良さ以上に、人を惹きつける“空気”を持っていた。
一度笑えば、周囲の警戒がすっと溶けていく。
「彼女が後ろの席でよかった。」
李方苒は、ほんの少し安心した。
孤独から逃れたような、そんな気がした。
――けれど、それは長くは続かなかった。
孫静沢は誰とでも話す。
陳雅桐ともすぐに打ち解け、笑い声が絶えなかった。
「男子って大変だね、教官に走らされたんでしょ?」
「はは、そう。でも腕立てじゃなくてよかったよ。」
軽やかな会話、自然な笑い。
陳雅桐も、すっかり表情が柔らかくなっていた。
髪を整えながら、時々いたずらっぽく微笑む。
まるでずっと前から知り合いだったみたいに、
二人の空気は自然で、温かく、軽かった。
李方苒はその声を聞きながら、何度か口を開きかけた。
話に入りたかった。
けれど、タイミングをつかむたびに、話題はまた遠くへ転がっていく。
「運動得意?」
「まあまあ。バスケ好きなんだ。」
「わあ、試合のとき応援に行くね。」
笑い声がまた響く。
李方苒は、そっと手の中のペンを握った。
――話しても、誰も聞いていない。
そう気づいたとき、彼女は静かに教科書を開いた。
けれど、一行も目に入らなかった。




