〈第6.5話〉断罪イベント5日前ー現状確認ー
すっかり夜の帳が下りた時間。まだ肌寒い部屋に響く、何かを綴る音。
ランタンに照らされた机の上のノートには、ぎっしりと文字がかかれている。
机とキスしそうなほどの至近距離で穴が開かんばかりにノートを睨みつづける。しばらく睨めっこした後、息を吐いて椅子に背を預けた。
……今日のミカとの会話で得られたものは多かったけど、謎ばっかり増えてくなぁ。
この世界は私の知っているゲームとは微妙にずれている。その原因はおそらく15歳の時にリリアに起こった何かだ。
リリアは内気な人見知り令嬢のまま。
デービットとは見舞いにも来ないような疎遠な関係。
ミカエルは限界ストーカー幼馴染化。
キャラ変が酷すぎてもはや別ゲー、一周回ってむしろあり。いや、同じ人物のはずなんだけどさ。
しかし一方で変わらないこともある。
メアリーちゃんは正史に従って王子ルートへ入っていること。
その際に発生するメアリーへのいじめ、それに伴うリリアの出勤停止。
どう考えてもおかしい。リリアがメアリーちゃんをいじめる理由が無さすぎる。
おそらく『誰かがリリアを貶めるために、メアリーをいじめているという噂をながした』ってとこだろうなぁ。そして病んだリリアは自室の窓から飛び降りた、と。
すっと目を細め、机を指先でトントンと叩き続ける。
なんとも、酷い話だ。
じゃあ、そんな状況をつくりあげた犯人は果たして誰なのか?
これこそが今回の断罪回避のキーポイントだ。
最有力候補はメアリーちゃん。いじめられている発言でデービットの関心をひける。そしてリリアの排除が可能。リリアに何かしらの変化があったなら、メアリーちゃんに何かあってもおかしくない。
たまにあるよね、転生者が2人パターン。そちら側から仕組まれている可能性も否めない。
次点でデービット。婚約破棄を反対した過去がある手前、メアリーちゃんと結婚したくても言い出しにくいだろう。
でも、そこまで考えられるならわざわざ噂になるほどメアリーちゃんといちゃつくか?
いや、もっと慎重になるはずだ。
どちらにせよ、この二人にはあっておく必要がある。話してみないとどのような変化が起こっているのかわからない。
つまり、やることは二つだ。
1つ目に、リリアが通っていた教会へいくこと。ここは予定通り明日行けばいい。
2つ目に、メアリーちゃんとデービットに会って、直接二人から話を聞くこと。
メアリーちゃんは職場である宗教省で聖女としてほぼ毎朝祈りをささげているはずだ。その時間に行けば必ず会える。公務がなければデービットも同行しているはずだ。
ついでに、攻略対象のラファエルにも会っておきたい。シンプルに推しだから。本当はミカラファ兄弟のやりとりが見たいけど、流石にミカは連れて行けないよね……。
ぱたりと、ノートを閉じる。
今日が終わればあと4日。少しずつ、しかし確実に進んでいる。時間も、断罪回避への道も。
断罪ーーーその言葉が頭をよぎるたび、背筋が冷たくなる。手に持ったペンが机に擦れてカタカタと音を立てた。
本当に、私はこの世界で生き残れるのだろうか。これが、本当に正しいやりかたなのか……?
喉が鳴る音が、冷たい部屋の空気を揺らす。
今まで頼ってきた人は誰もいない。いつも守ってくれた親も、そばにいてくれた友人達も、誰も。
暗い部屋が、静かな空間が、心の穴を内側から広げていくような、そんな気がして。
ーーーいや、違う。私は1人じゃない。
頭。よぎる緑の瞳。私と共に歩むと言って差し出された、あの力強い手。
一口水を飲んでから細く息を吐き、前をしかと見据える。
私は、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ーーー絶対に、断罪を阻止してみせる。
リリアも、ミカも、全員幸せにするために。
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