〈間話〉 ミカエルーこぼれ落ちた初恋ー
俺は、いつも後悔してばかりだ。
リリアが急に殿下と疎遠になった時も。
リリアがいじめの犯人だという噂が流れた時も。
そして、寝室から飛び降りた時も。
俺は、会いに行く事ができなかった。
リリアには婚約者がいる。俺のことを避けてるのに、今更行ってどうするんだ?
そんな風に言い訳をしていた。
自分が傷つかないための、言い訳を。
うっすらと瞼を開ける。
淡い月明かりが、質素な部屋を照らしていた。
夜闇に浮かぶあいつの姿を見て……俺は、どう感じた?
最初は純粋に嬉しかった。俺に会いに来てくれたのだと。俺はリリアにとって『過去の人間』じゃなかったんだと、そう思えた。
だが、その次に湧いてきたのは恐怖だった。近づくほどにはっきりと照らされる姿。包帯が巻かれた痛々しい頭部、体を庇うような歩き方、見たことのない、俺を責め立てるような強い意志の瞳。
『なんで一度も助けに来てくれなかったの、ミカ?』
口は動いていないのに、はっきりと脳内にこだましたその言葉。
気がついたら俺はーーー手に持っていた剣を、あいつに突きつけていた。
震える右手を、左手で無理やり抑える。
話したいことは山ほどあった。元気にしてるのか、何があったんだと。
それなのに出てきたのは、お前の存在を否定する言葉だった。
こいつがリリアなはずがない。俺はリリアがこんな姿になるまで放置するような人間じゃない。言い訳だけが、折り重なって喉を詰まらせる。
あいつは、震えていた。知らない男に刃物を突きつけられれば、誰だってそうなるだろう。
俺は最低だ。丸腰の相手に剣を突きつけるなんて、正気の沙汰じゃない。
それなのにあいつは……こんな俺に向かって『助けて欲しい』と言ってきた。真実が知りたいのだと。
俺が吐き出す後悔を全て受け止めて。前に進めず俯いている俺に『後悔するには早すぎる』とまで言い放った。
俺はいつも、手遅れだと諦めていたのに。
ーーーこいつは俺の知ってるリリアじゃない。
本能が、そう騒ぎ立てた。
前のリリアはあぁじゃなかった。
助けてほしいなんて素直に頼まない。あんな豪快な励まし方はしない。
なのに不思議なことに、嫌だとは思わなかった。
それどころか背中にのしかかった罪が全部とっ払われたかのような、爽やかな気分だった。
欲しい、あのリリアが。笑顔も、記憶も、心も、体もーーー全て。
先ほどまでの震えは、いつのまにかすっかりおさまっている。
今ならできる。今度こそ、俺がリリアを救うんだ。
俺はもう諦めない。次は絶対に掴み取ってみせる。
最後にリリアの隣に立つのはデービットじゃない。リリアに、俺の隣を選ばせてやる。
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