薔薇の花と不穏な気配
色とりどりの薔薇の咲き乱れる庭園で、私は1人昼食を食べていた。
今の時期限定だし、せっかくなら満喫しないと損だよね! 毎日のようにきてるけど、いつ見ても癒されるなぁ。
そっと目を閉じ、深呼吸する。鼻腔をくすぐる華やかな香りに、思わず頬が緩んだ。
「ふぅ……」
ゆっくり息を吐き、目を開けたその先で――
何故か、デービットが顔を真っ赤にして固まっていた。
…………。
「……幻覚?」
私は目を閉じて、眉間を揉んで再び前を見る。
そこには変わらず頬を赤く染め、熱っぽい目でこちらを見つめるデービットが居た。彼は喉をひくりと揺らして口を開く。
「僕の幻覚を見るぐらい、僕のことを考えていたのか……?」
「違いますけど!? そもそもなんでデービット様がここにいるんですか!?」
「ここにくればリリアがいると思ってな。……お前は、薔薇の花が好きだから」
照れた様子で目を逸らすデービット。相変わらず顔がいい。けどそれとこれとは別問題だ。
「そういう問題じゃないんですよ、殿下。貴方今謹慎中でしょう??」
謹慎が解けるまでまだ1週間あるはずだ。なのに、なんでここにいるの??
デービットは私の言葉にハッと目を見開き、軽く咳払いをした。
「……そうだ。お前に一つだけ聞きたいことがあって、僕はここに来たんだ」
「聞きたいこと、ですか?」
どうしよう、嫌な予感しかしない。
デービットは先ほどまでの照れた様子はどこへやら、真面目な顔でじっとこちらを見つめてくる。
「あぁ。……僕と婚約を破棄して、今後結婚する当てはあるのか?」
「はぁ……?」
想定外の質問に、私はぴたりと動きを止める。一体どういう意味? まだ私を……いや、リリアを狙ってる?
質問の意図が分からず、ぐるぐると思考が巡る。答えがうまく出てこない。
「お前はミカエルかラファエルと結婚する。……そうだろう?」
そんな私を見かねたのか、顔を歪めて苦しげに呟くデービット。
その様子が、さらに私を混乱させた。
「えっと……一応、ミカエルと、その……」
「……そうか。あいつか」
どこか寂しげなその声。デービットはきつく口を引き結んでから目を伏せる。
「それなら、お前に一ついわなければならないことがある。……お前との婚約は、正式に破棄されることになった」
「え……?」
予想はしていた。だが、まさかそれをデービット本人の口から聞くことになるとは。
わざわざそれを言うために、ここに来たの……?
もしかしたら、これはデービットなりの謝罪なのかも知れない。そう解釈するのが自然だと思う。……けど、ただそれだけとは思えなくて。
「……なにか、あったんですか?」
私の言葉にデービットは一瞬瞳を泳がせてから――観念したように、口を開く。
「あぁ、実は――」
『――でさ』
『あー――』
それと同時に遠くから聞こえる人の声。ぴくりと身を揺らすデービット。彼は忌々しげに眉をひそめ、声とは逆方向へ体を向けた。
「悪いが続きはまた今度だ。とにかく気をつけろ。お前を狙う輩がいる」
短くそう言い残し、急いでその場を後にする彼。
まるで嵐のようなその出来事に、私は1人ピシリと固まることしか出来なくて。
『お前を狙う輩がいる』
その不穏な一言だけが、耳にこびりついて離れなかった。




