安心感の正体
いつもと変わらぬ朽ち果てた庭。ミカがひとり剣を振る様子を、私はじっと見つめていた。
この世界に転生してきて、早1ヶ月。最初は断罪を回避することに必死だったけど……ふと余裕ができると、色んなことを考えてしまう。
「……? ルカ、どうしたんだ?」
「えっ!? あ、なんでもない。……ちょっと、昔のことを考えてただけ」
いつの間にか素振りを終えたミカ。彼はじっとこちらを見つめていた。
「昔? お前がこの世界に来る前のことか?」
「まあ、そんなとこ。両親は元気かなー、とか。友達どうしてるかな、とか」
私は過去に思いを馳せる。一番気になっているのは――転生したあの日、会えなかった友達のことだった。
「友達と約束してたんだけど、結局間に合わなかったんだよなぁ」
友達2人と約束してたのに、朝寝坊して、急いで走って。大学の目の前で、トラックにひかれて――。
その瞬間が脳裏によぎって、一瞬、息が詰まる。
「……それが申し訳なくて、謝りたくて。でも、きっともう会えないんだろうなぁって。そんなことを考えるたび、なんだか寂しくなっちゃって」
ミカはそんな私を横からそっと抱き寄せた。その力強い腕が、私の不安をゆっくりと溶かしていく。
「寂しくなったら、いつでも俺がそばにいる。お前だけに抱えさせたりしねぇ」
ミカと話してると安心する。ミカに出会ってまだ1ヶ月。それなのに、何だか懐かしい感じがして。
いつでもそばにいる、か。
親以外に初めて私にそう言ってくれた幼馴染。口の悪いあの子は、私が異世界転生したと知ったらなんていうだろう。
そんなことを考えて――ふと、気がついた。
「なんか、ミカといると安心するなぁって思ってたんだけど……前の世界の幼馴染に似てるからかもしれないなぁ」
「幼馴染?」
「そうそう。喋り方もミカに似ててね、すんごい強いのも同じで。ちょうど、身長差もこれぐらいだったかなぁ」
あの子はもっと華奢だった。けど、胸元に頬があたるこの感覚とか、背伸びするとちょうど肩に顎を乗せられるとことか。全部、あの時と近い気がした。
「……ルカは、そいつのことが好きだったのか?」
「今でも大好きだよ! すごくかっこよくて、いつも守ってくれて。ずーっと、そばにいてくれて……」
呆れたように笑うあの子の顔。それを思い出すだけで、ツンと鼻が痛くなる。
「もう……会えないんだけどね……」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと――ぐっと、私を抱きしめる腕が締まった。
「そいつの分も俺が埋めてやる。お前が、そんな顔しねぇように」
耳元にかかる息が熱い。どこまでも力強いその声が、私の鼓膜を揺らし続ける。
「すぐには無理かもしれねぇ。だが……いつか、そいつより俺が良いって言わせてやる」
執着心のにじむそのセリフに、どきりと心臓が大きく跳ねた。頬が熱くて、それが、心地よくて。
「ありがとう、ミカ」
私はミカの腰に、そっと腕を回しかけ――
「昔の男のことなんて、俺が忘れさせてやる」
――その一言に、私はピシリと固まった。
……もしかして、なんか勘違いされてる?
「えっと……幼馴染は、女の子だよ……?」
「……は?」
「私には2人幼馴染がいるけど、ミカに似てる幼馴染も、もう1人の子も女の子」
「えっ、だって俺に話し方似てて、身長差も同じぐらいって……」
困惑した様子のミカ。その手が、ゆっくりと緩んでいく。
いやよく考えたらそりゃそうなるよね。公式設定だとリリアは167センチ、ミカは178センチだ。今の身長で考えたらそりゃ男だと思う。
「実は前の私結構背が低くて、155センチくらいしかなくてですね……?」
「まじか……」
チラリとミカの方を見ると、真っ赤に染まった耳が見えて。
今日はすごいグイグイくるなぁって思ったらそういうことかぁ。
「もしかして嫉妬した?」
ミカは私の言葉にぴくりと肩を揺らして、はぁー、と大きくため息をつく。
「当たり前だろ。今でも好きとか、かっこいいとか。んなこといわれて黙ってられるかよ」
「……そっかぁ」
勘違いさせたのは悪かったと思う。でも、そのセリフが嬉しくて、頬がにやけてとまらなかった。
「ねぇ、ミカ。しばらくこうやって、ぎゅってしてて欲しいなぁ」
さっきまでの寂しい気持ちも、迷いも。こうしているだけで魔法のように消えていく。
もう、あの2人には2度と会えないかもしれない。でも、もし会うことができたら――今私は幸せだって、そう、伝えたいと思った。




