些細な誤解と大きな問題
青空と爽やかな春の風。
「はぁー、ポカポカしてて気持ちいい……。こういう日は思いっきり運動したくなるよねぇ」
「そ、そう、だな……」
ミカは気まずそうにふっと視線を逸らす。
なんだか最近、こういう反応が増えた気がする。心当たりはあるけど……ミカに限って、それはないと思いたくて。
「……ミカはやっぱり淑女ーって感じの、女の子っぽい方が好きなの?」
いつの間にか、そんな言葉が口をついていた。
「はあ!? 別にそういうわけじゃねぇよ」
「この前ショートにしたいって言った時も、仕事着パンツスタイルにしたいって愚痴った時も似た様な反応してたよ?」
「それは……」
気まずそうに目を逸らすミカ。
ミカの家ってゲームだと特殊な家訓とかもあったりするし、あんまり私みたいな性格好ましくはないんだろうけどさ。……でも、ちょっと傷つくなぁ。
ミカはしばらく眉間を揉んでから、大きく息を吐く。
「ルカがやりたい様に振る舞えばいい。……俺はお前が男だったとしても、それでも受け入れるつもりだ」
……は?
衝撃的すぎるその言葉にコンクリートのようにガッチリと固まる。
今男って言った? え、私そんなに猛々しい振る舞いしてた? いや断罪されそうになってやり返す女は淑女ですって言ったら国語辞典作った人に辞書の角で殴られそうだけれども。
聞き間違いであることを信じて、私はミカに問いかける。
「……今なんて??」
「お前が前は男だったとしても、俺は構わない」
あかん、聞き間違いじゃなかった。
「待って、確かに私リリアと比べたらガサツかもしれないけど流石にそれはなくない??」
「最初は困惑したけど俺が好きなのはお前だ。例え……性別が男でも……っ!」
「いや女だよ!? いい顔で宣言してるとこ本当に悪いけど私前世も今世も肉体的にも精神的にもきっちりかっちり女だよ!?」
「え、でも名前ルカって……?」
「私の国では! ルカは男にも女にもいる名前なの!!」
確かに西洋だとルカって男の名前だけどさ! なんで現代日本の企業が作ったゲームの世界なのにそんなとこだけしっかり徹底されてんの!?
私はガタリと音を立てて机に突っ伏す。
「はぁー! もう気にしてた私バカみたいじゃん!」
まさか蓋を開けたらすれ違いコントの一節だなんて誰が思うよ勘弁してくれ……!
「お前……女だったのか……?」
「そんな信じられないみたいな言い方しないでよ傷つくから」
「いやそういうわけじゃねえけど。お前の名前を聞いたときからずっとそこが気になってたんだよ」
「……名前を聞いた時からずっと?」
その言葉に私は思わず顔を上げる。
「あぁ。お前が元のリリアと違うのわかってた。だがもし男だったら、なんて考えねぇだろ」
「そりゃ考えないよ! 『初恋の幼馴染の中に男が転生してました』とかもうそれだけで本一冊かけちゃうもん! 大事件だもん!」
てか私が『ミカ、やっぱりリリアのことが好きなんだ……』なんてシリアスしてた裏でそんなこと考えてたの?? えっ、私の悩んでた時間返して欲しいんだが??
私は頭を抱えて、はぁー、と大きく息を吐く。
「本っ当によかった……。ミカの家ってさ『紳士たるもの強くあれ、淑女たるもの淑やかであれ』って家訓あるじゃん? だからてっきり『淑女らしさのかけらもない』って引かれてるのかと思ったよ」
このディスチェの世界では、家ごとに家訓がある。だからてっきり、それのせいだと思ったのに。
「なんだそれ。うちの家訓は『紳士淑女たるもの強くあれ』だな。そんな差別的な言葉じゃねぇよ。そもそもお袋も剣士だしな」
「え?」
眉をひそめるミカ。その顔は嘘をついている様には見えない。というか、そもそも嘘をつく必要もないが。
「この世界私が知ってるのは違うと思ってたけど、そんなところまで違うの……?」
「ルカの世界の俺ん家は随分と頭が硬いんだな」
ミカは呆れた様にそう言ってから、そっと私の手をとった。
「お前の性別がどうでも、どんだけガサツでも――それでも、俺が好きなのはルカだけだ」
「ひぇっ……」
急に向けられた真剣な表情にどきりと心臓が跳ねる。
「これからはしっかり言葉にする。それでいいか?」
真っ直ぐ向けられた瞳に、私はコクコクと頷くことしかできなくて。
今日もミカの顔と声がいい。それだけしか、わからなかった。
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