〈第32話〉断罪イベント当日ー決別と違和感ー
「……大丈夫。ありがとう、ミカ」
デービットの方をちらとみてから、ゆっくりと手を引いた。
名残惜しそうに眉を顰め、微かに声を漏らすデービット。
「ん……リリア……?」
その表情がひどく艶やかで、思わず喉を鳴らす。
でも、今度は流されない。
「ちゃんと謝れてえらいですね」
優しく微笑みかける。
これは、大きな一歩だ。だからこそーーー
「……でも、ごめんなさい。私、殿下の気持ちには応えられません」
私は、ここで彼と決別しないといけないんだ。
とろりと緩んでいたデービットの瞳が、大きく開かれる。
「え……許してくれるんじゃ……? 僕のこと、まだ愛してるんだろう……?」
困惑し揺れる声。乾きかけた涙の跡が、悲壮感を漂わせている。
喉元まで迫り上がる声を、感情を飲み下す。唇を噛み、肩を揺らす。
「ちゃんと反省するなら許しますし、今も憎からず思っています」
「じゃあ……なんで……?」
小さな呟き声が、胸をざわめかせる。
……なんで、か。
「……私は、貴方を叱れないから。デービット様に必要だったのは、貴方と共に歩めるような女性だったんです」
リリアにはそれができなかった。その結果がこの惨状だ。
「私は弱いから、デービット様を甘やかしてしまいます。でもそれでは、私も貴方も幸せにはなれません」
その証拠に、今も手の震えが止まらない。デービットの悲痛な表情を見るたびに、リリアとしての気持ちが暴れそうになる。
私では、デービットは救えない。
「ぼ、僕……頑張るから。お前に相応しい男になる。お前がいない世界で、僕はどう生きていけばいいんだ……?」
震える声に、ぎゅっと胸が締め付けられる。
でも私は絆されるわけにはいかない。私のためにも、デービットのためにも。そして、リリアのためにも。
「ちゃんと周りを見てください。貴方の周りには、誰がいますか? 今貴方を支えているのは?」
目線を逸らさずに、はっきりとそう言い切った。
「今……?」
こぼれ落ちる言葉。一点にのみ向けられていた虚な目が、ゆっくりと周囲に這わせられーーーメアリーちゃんのもとで、止まった。
僅かに口元がこわばるのが、自分でもわかった。
でも、これでいい。これで……よかったんだ。
口角をあげ、言葉を捻り出す
「ちゃんと、わかってるじゃないですか」
私はメアリーちゃんのことを見つめる。交差する視線の先で、メアリーちゃんはしっかりと頷いた。その青い瞳に、強い決意を宿して。
それを確認してからすっと立ち上がり、顔を見られないよう背を向けて歩き出す。もう、私がいなくても大丈夫だから。
ラファエルはそっと私の隣へ来ると、私の背中をポンと叩く。
デービットを押さえつけていたミカもそれに倣ってこちらへ来る。その指先がそっと、震える私の手に絡む。
「私達……最初から、やり直しませんか? 今度はちゃんと、お互いを見つめて。デービット様と一緒に歩んで行きたいんです」
メアリーちゃんの優しい声を背中に受けながら、会議室の大扉へと去っていく。
扉が閉まる直前に聞こえたデービットの言葉に、私は頬を緩ませた。
これでよかったよねーーーリリア
その呟きに返事はない。ただ温かな気持ちだけが、胸にじわりと広がっていた。
胸に手を当て、2人を連れて歩く私。
その視界の端に、チラリと何かが映った。
黒い、髪……?
振り返っても、そこには誰もいない。
「リリア? どうしたんだ?」
「いや……なんでも、ない」
気のせい、だよね。
そうわかってはいるのに、何故か胸がざわついて仕方がない。
ーーーこれが始まりに過ぎないなんて、この時の私は知るよしもなかったんだ。
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これで第一部は終了となります!
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