〈第30話〉断罪イベント当日ー暴走と告白ー
凛とした声が会議室に響く。
「え……?」
静まり返った会議室にデービットの声だけが取り残された。
メアリーちゃんは肩を掴むデービットの腕を振り払う。
早足で演台の中央に移動すると、頭上高く右手を掲げる。その手の中にはーーー録音用魔道具があった。
「これは先日、デービット様が私に語ってくださった内容です」
会議室にいる人間全員が息を飲み、その様子に釘付けになる。
その手に魔力が流し込まれ、魔道具が淡く光出した。
キィンーーー!!
高く鋭いその音が響く。ーーー私にはその音が、デービットを裁く終末のラッパのように聞こえた。
「は……?」
想定外の出来事に呆気に取られるデービット。
『……デービット様が、あの噂を流したのですか?』
くぐもった声が、魔道具から発せられる。
デービットははっとして、凄まじい形相でメアリーちゃんを睨みつけーーーそのまま拳を大きく振り上げた。
「やめろっっっ!!!」
悲鳴にも近い怒鳴り声がビリビリと鼓膜を揺らす。
やばい、止めないと……!
咄嗟に手を伸ばすが、届かない。
間に合わない……!
その瞬間目にも止まらぬ速さで隣を影が通り過ぎる。理解する間もなく聞こえる何かが倒れるような大きな音。
次の瞬間視界に飛び込んできたのは、床に伏したデービットだった。ミカはその腕を容赦なく捻り上げる。
「てめぇ、何やってんだ!!」
放たれた声は、空気が震えるほどの威圧感に満ちていた。
それを受けて声を上げられるものは1人もいない。
一転して静かになった会議室に、くぐもった声だけが流れ続ける。
『メアリー……お前なら、僕の気持ちをわかってくれると思ってたよ。』
まるで何かに酔っているような、妙に甘ったるい声が耳にまとわりついた。
デービットは何か言おうとするが、肺を圧迫するように抑えつけるミカがそれを許さない。
『……噂を流したのは、僕だ。どれだけ頑張ってもリリアは僕を見てくれなかった。それなら、こちらを向かざるを得ない状況を作るだけだ』
疑いようがない自白。それを聞いたデービットは負けを悟ったのか、嘘みたいに大人しくなった。
歪んだ愛情が、思考が、白日の元へ晒されていく。デービットは床を見つめたまま、静かに肩を震わせていた。
『お前のおかげだよ、メアリー。僕はやっと自分のやるべきことがわかったんだ。メアリーを第一妃として迎えて、リリアを第二妃として受け入れる。全部、僕だけのものにするんだ。……明後日が楽しみだ。なぁ、メアリー』
光が消えると共に、会議室は再び静寂に包まれた。
「……これが、今回の事件の真相です」
鈴を転がすような美しい声は、震えている。しかしその瞳には揺るぎない信念が宿っていた。
メアリーちゃんは言っていた。この記録を出すのは『最後の手段』だと。これを出す前に罪を認めてほしいと。
しかしその思いはデービットには届かなかったようだ。
「メアリー……お前も、僕を裏切るのか……?」
デービットの顔に浮かぶ、絶望の色。
「お前は僕の味方だって、いってくれたじゃないか……!」
喉から搾り出すような悲痛な声が鼓膜を震わせる。
それを聞くたびに、罪悪感がちくちくと心に刺さった。
頭では自業自得だと考えているはずなのに、濡れた瞳が光を反射するたびに胸が痛む。
「貴方の瞳には私は映っていない。貴方の中にいるのは、可哀想な自分と、愛をくれないリリア様。今はただ、それだけです」
メアリーちゃんはしゃがみ込み、デービットに視線を合わせる。
「そんなこと……僕は……」
デービットはふっと視線を逸らした。まるで現実から、自分の気持ちから逃げるように。
「デービット様はずっと、リリア様を欲していた。全てを肯定して、愛してくれる存在を。違いますか?」
「……」
沈黙が場を支配する。それが何よりも雄弁に、デービットの心の内を語っていた。
デービットは、ずっと私を思っていた。こんな風に許されないことに手を染めるほどに。
考えれば考えるほど、心に刺さる針は増えていく。
「デービット様……。何故一言、愛していると、私が必要だと、言ってくださらなかったんですか……?」
気がつくとそんな言葉が口をついていた。
もしそう言えていたら、きっとこの物語は変わっていた。そう思えてならなかったから。
「言葉なんかにしなくても、大丈夫だと思ってた。リリアなら、わかってくれるって……」
デービットが肩を震わせるたび、ぽたりと床に雫が落ちる。
胸が、痛い。
「なんで僕を捨てたんだ……あんなに僕のこと愛してるって、ずっと一緒だって、言ってくれたのに」
涙と共に溢れ出す言葉が、私の心を侵していくようだった。
ゆっくりと、潤んだ瞳が私に向けられる。
「リリアのことが……好きだったのに」
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