〈第3話〉断罪イベント6日前ー決定的な違いー
右から左へ、本が積み直されていく。本が増えれば増えるほど、眉間の皺も増えていく。
10冊目を隣へスライドさせた瞬間、私は倒れるように机に突っ伏した。
大きく息を吸い、心の中で全力で叫ぶ
ーーー無理ゲーじゃねぇか!!!!
なにこれ? 他国と仲悪過ぎない?? いや辺境伯キャラの地位が高いなとか軍部出身のキャラ多いなぁとは思ってたよ? 思ってたけどさ、マジで四面楚歌。
貿易関連は壊滅、他国に関する情報は圧倒的に不足。そもそも国外追放されたとして入れる国あるんか状態。
待ってこんな状態でデービットはリリアのこと国外追放したの? 実質死刑宣言じゃない? えっ、もしかして解釈違いじゃなくて最初から私のキャラ解釈が間違ってたの?
情報を処理しきれなくなって、思わず天を仰ぐ。
確かに聖女は絶対的な存在で、その命を脅かすことは大罪だとは言われていた。
でも、他国の貴族に嫁がされるとかその程度だと思ってたのに。こんなに救いのない未来が、リリアや他の悪役令嬢に用意されていたなんて。
プレイヤー時代には想像しなかった過酷な現実に、思わず手のひらがじんわりと汗ばみ、無意識に表情が険しくなる。
ずっと愛していた婚約者を奪われそうになって、嫉妬に狂った結果がーーーこれ?
胃が痙攣するような気配がして、口を押さえる。迫り上がってくる湿った感覚と、砂漠のような口の渇き。相反する感覚が、気持ち悪くて仕方なかった。
絶対に、追放だけは回避しないと。
積まれた本から、特に分厚い一冊を無理やり引きずり出す。
そうなると、残るは教会への出家しかない。
この国において教会の力は強大だ。神に身を捧げることで様々な罪を灌げるとされている程度には。
正直私みたいな煩悩の塊にそれがあっているとは1ミリも思えない。108の鐘で存在ごと消えると友人に言わしめた私だぞ。悪霊が自ら浄化されにいくようなものだ。
……だけど今は、なりふり構っていられない。
パタリと本を閉じて、息を吐く。
ダメだ、なんか目眩してきた。
一回落ち着こう。考えるのをやめよう。眉間を抑えて、目を瞑る。
「リリア様、あの傷どうしたのかしら?」
「なんでも自室から飛び降りたらしいわよ」
そんな私の耳に飛び込んできたのは、こそこそと話す女性達の声だった。
「えっ……もしかして、メアリー様が殿下と仲良くしてるって聞いてショックで、とか?」
「かもしれないわよ? えげつないイジメしてるらしいし」
「あの方が……想像できないわ」
「どこの馬ともしれない平民の女に婚約者を取られそうになったら、誰だってキレるわよ。いくら相手が聖女とはいえ、ねぇ?」
直接聞くことはなかなかできない噂話。
貴重な情報を逃すまいと、耳をそばだてる。
「でも……リリア様、数年前に婚約破棄を申し出たのよね? 結局うやむやになって、婚約は続いてるらしいけど」
婚約、破棄?
デービットに執着して壊れていく、あのリリアが?
息が浅くなり、手が震える。
そんなの、知らない。そんなはずがない。だってリリアは、デービットの事を壊れるほどに愛しているのに?
情報の処理が追いつかないが、せめて少しでも距離を詰めようと、背後の椅子にぴたりと体を預ける。
「考えが変わったんでしょ。ほら、手放すと惜しくなるってやつよ」
苦笑する女性も、その話を否定しない。
バッドで頭を殴られたような衝撃に、思わず目の前が真っ暗になる。
あの、リリアが? なんで? どうして?
……本当にここは、私の知ってる『ディスティニーチェイン』の世界なのか?
困惑する私を置いて、話は進み続ける。
「殿下、お見舞いにもいかなかったってきいたわ」
「ま、ほとんど関わってなかったじゃない、あの2人。今はメアリー様の方が大事なんでしょ」
関わってなかった……!?
髪が乱れるほど勢いよく後ろを振り向く。
そんな訳がない! リリアとデービットはずっと一緒にいたんだから!!
私の鋭い視線を受けた二人は、ぴくりと体を震わせそそくさと去ってしまう。
その様子を見て私はハッとする。
……やらかした、振り返らなければもっと色々聞けたかもしれないのに。
一瞬だけそう悔やんだが、諦めてすぐに切り替えた。正直、それどころではなかったから。
包帯がずれるのも構わず、私は両手で頭を抱えた。
ーーーここは、私が知ってる『ディスティニーチェイン』の世界ではない。
リリアとデービットの関係性、ミカエルの反応、そしてーーーゲームにはなかったリリアの飛び降り未遂。
謎だけが増えていく。まだ何も解決していないし、ヒントすら手に入っていないのに。
頭痛を悪化させる謎の数々に、思わず舌が鳴る。
物語を知っているという優位性が、その音にあわせてガラガラと崩れていくようだった。
……どこかで決定的に世界が変わっている。
私の知らない『物語』へと。
何か原因があるはずだが、全く心当たりがない。そもそも情報が少なすぎて予想すらできない。
つまり、転換点を知る過去を知っている人物に会う必要がある。
私が次に行くべき場所はただ一つ。
リリアの最も古い知り合いで、先程違和感のある反応をした人物。
ーーーミカエルの元だ。
お読みいただきありがとうございます!
皆様の反応が励みになりますので、よろしければブクマ&リアクション&コメントお願いします!
ブクマ5ごとに番外編を追加予定です✨




