〈第27話〉断罪イベント当日ー反撃の狼煙ー
なるほど……舞台をここに変更したのは私を第二妃にするためか。裁きの間を使った場合、外聞が悪すぎて妃になど出来ないだろう。
不安が払拭され幾分か気持ちに余裕ができた。肩の力が抜け、頰が微かに緩む。
残念ながらその目論見は今ここで水泡に帰すのだ。他でもない、デービットが渇望した私の手によって。
意志のこもった強い瞳がデービットを捉える。想定外だったのか、彼はびくりと肩を揺らした。伸ばされた腕が、固まる。
「デービット殿下、私は詫びねばならぬようなことは何もしておりません。もし仮にあるとするならばーーー貴方の蛮行を、止められなかったことぐらいでしょうか」
デービットへ突き刺すように、淡々とそういい放つ。
私に落ち度があるとすればただそれだけ。だからこそ、さらに罪を重ねる前にデービットを止めなければならない。
私の冷たい声がデービットの神経を逆撫でし沸騰させていく。震える肩が、それを如実に表していた。
「どういう意味だ……!」
王子然とした余裕の表情はすでに消えている。代わりに見えたのは、怒りを堪える子供のような幼稚な感情だった。
本当に、単純で可愛らしい限りである。
「そのままの意味です、殿下。私はそもそもいじめなど行なっていない。証拠はあるんですか?」
証拠もなくこんなことを言うとは思えない。何を出されるかはわからないけど、早めに相手の手札を見ておいた方がいい。
何が出てくるかわからない恐怖が自然と声を強張らせる。
そんな私を見下すように、デービットはふんぞり帰って鼻を鳴らした。
「ふん、証拠? 火のないところに煙はたたない。王宮中でお前がメアリーの私物を壊した、情報共有をしなかった結果危ない目にあった……そんな話が山ほどある」
どこまでも堂々としたその態度に、面食らう。
えっ、それだけで証拠になると……? 断罪するとか言っておいて?
想像以上の浅はかさに思わず肩の力が抜けた。
こんな浅い人間と話し合うために7日間振り回され続けたの私?? 神様を見習って1日ぐらい休んでもよかったんじゃないこれ?
「そもそも……僕という婚約者がいながら、後方に男を2人侍らすなんて何を考えているんだ」
ミカとラファエルを親の仇のように睨みつけるデービット。その指先は怒りでプルプルと震えていた。
いやメアリーちゃんを後ろに立たせておいて何言ってるんだこいつ。一回幽体離脱して自分の姿を客観的に見た方がいいんじゃないだろうか。
想像以上の小物っぷりに、もはや返事をする気力も無くなっていた。
息を吐いてから、私は視線だけでラファエルに合図する。
いや、流石にこれで終わったりはしないはず。だって半年かけて噂を流したんだから。きっと、何かしら考えあってのことに違いない……!
無理矢理自分を奮い立たせ、背筋を伸ばす。
まずは小手調べだ。リリアが関わらなければ頭が切れると評されるデービット。その頭で描いたシナリオを、ゆっくりと見せてもらうこととしよう。
ラファエルは笑みを深め、一歩前へと踏み出した。いつも通りのゆったりとした動きは、このような場所でも変わらない。
それがとても頼もしく感じられた。
まずは作戦どおり、状況証拠からだ。
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