〈第26話〉断罪イベント当日ー戦闘開始ー
大学の講義室のようにずらりと木製の机と椅子が並んだ部屋。ざわめく職員たちの視線の先にあるシンプルな演台。
その上に、私は立っていた。
本来リリアが断罪されるのはここではない。
その事実が覚悟を決めたはずの心をかき乱す。
何が目的なのかわからない。まだ何か見落としがあるのか?
疑念を押さえつけるように俯き、息を吐く。
考えても仕方がない。私達は作戦通り、この断罪を切り捨てるだけだ。
後方に控える2人をチラリと見る。いつも通り掴みどころがない笑みを浮かべるラファエルと、緊張感を漂わせきつく口を引き結んだミカエル。
2人のためにも私は戦う。細かいことは後だ、今は目の前のことに集中しよう。
自身の心に喝を入れるように、ぎゅっと拳を握り前を見据える。
その時だった。正面にある重厚な大扉が、ギギギと音を立てて開かれる。
その先に立っていたのはーーーくまのこびりついた不敵に笑うデービット。どこか焦点のあっていない目が、どことなく不気味に思えた。
その視線は一瞬ミカの方へ向いたが、すぐに正面へと戻る。
「待たせてすまない。宗教省本部職員諸君、今日は君たちに話がある」
魔法で拡声された声が、会議室を全体震わせた。
いつもと違う力強い声は、王子という公的な立場を感じさせるには十分だった。まるで波が引いた後のように、部屋がしんと静まりかえる。
凪いだ空間に、カツカツと靴音を響かせ歩くデービット。その背後には感情を悟らせない、神妙な面持ちをたたえたメアリーちゃんがいた。
集まった職員の視線が全てデービットへと向けられる。
デービットは演台に上がるとそれに応えるように視線を這わせ、満足そうに唇の端を吊り上げた。
「今この場で公爵令嬢リリア・キャンベルによる、聖女メアリー・ホワイトへの陰湿ないじめを、第二王子デービット・エーディンの名の下に断罪する!」
ゲームと同じ断罪イベントの口上。それなのに、胸がざわめく。
部屋にこだまするデービットの声が、『これはゲームじゃなくて現実なんだ』ということを私の体に刻んでいるようだった。
デービットは芝居かかった様子で、そのまま語り続ける。
「リリアの悪名は王宮中に広まっている。ここに居る全員、それを耳にしているはずだ」
視線を逸らす何人かの職員。それが、噂の存在を肯定していた。
「僕はそれに心を痛めた。僕の婚約者は聖女を虐めるような悪女なのか。もしそうであれば彼女が第二王子である僕の妃になることは断じてあってはならないと」
わざとらしく眉をひそめるデービット。
その表情がパッとかわり、視線が虚空へ投げかけられる。
自分で噂を流したくせに、なんて白々しい。
嫌悪感が、胸の底から迫り上がってくる。
「そんな時に僕を支えてくれたのがメアリーだった。彼女は傷ついた僕の心を癒し、リリアを許すと言ってくれた。その寛大な心に、僕は胸を打たれたんだ」
まるで舞い降りた天使を抱き寄せるように、開かれた手を、再び胸へと押し当てる。
「彼女こそ、僕の妻に相応しい女性だと。僕はメアリーを第一妃として、真の婚約者として迎え入れる」
メアリーちゃんの方を腕で指し示すデービット。
職員が、再びざわめき出す。
わずかに聞こえる、『キャンベル家の失脚』『聖女との結婚』というワード。
まあ、そうなるよね。
リリアとの婚約破棄宣言と、新たな婚約者の示唆。それは王国の勢力図が大きく変わる事を意味する。興味がない人間など、この場にはいない。
「聖女を脅かす行為は大罪。最悪"国外追放"の可能性もある。だが、僕はそれを哀れだと思った。10年間婚約者として生きてきた彼女に、そんな酷な仕打ちをしていいのかと」
デービットの視線がはじめて私を捉える。
その瞳に映し出されるのは、どこまでも暗く澱んだ執着心。その中で渦巻く、激しい支配欲と歪んだ自己肯定に、思わず身がすくみそうになる。
そこにはリリアという人間の意思を尊重する意思など、微塵も感じられなかった。
「そんな僕にメアリーは言ってくれた。『人は誰しも間違いを犯すもの。デービット様の寛大なお心が、彼女を変えることでしょう』と。僕は今ここで、リリアに生まれ変わる機会を与えようと思う」
呆れ返る私の気持ちなど露知らず、デービットはその手をこちらへ差し出してきた。
滑稽に思えるほど勝利に酔いしれたその顔に、思わず舌打ちしそうになった。
「ここで悪行を詫びれば、第二妃としてお前を迎え入れよう。……さあ、どうする? リリア・キャンベル!」
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