〈第23話〉断罪イベント1日前ー並行世界ー
夕日が落ち、空が紫色に染まる時間帯。
薄く照らされた広場で、1人佇むシルエット。
「あれ、ミカだけ?」
いつも朝練に使っている朽ち果てた庭。そこのベンチに、ミカは考え込んだ様子で足を組んで座っていた。
「あぁ。……さっき、宗教省に殿下が向かってんのを見た。もしかしたら今頃何か話してんのかもしれねぇな」
ミカの隣に、そっと腰掛ける。
「明日いじめに関して公に晒す予定だから集まるようにって話だと思う。昨日殿下が直接うちに来てそう言って帰ってったんだよね」
明日は断罪の日だ。本来なら裁きの間で行われ、一部の関係者のみが見れるそのイベント。だが、今回は違うらしい。……一体、何を考えているんだろう。
「はぁ? 家まで来たのかよ。しかも冤罪を公に晒すって……何考えてんだあのバカ王子」
呆れた様子でため息をつくミカ。
「本当にね。あの拗らせ王子を反省させるのは大変そうだけど、なんとかしないとだからねぇ」
「……メアリーと約束したからか?」
訝しむような視線を向けるミカ。
なんだか答えにくくて、くるくると指先で髪を弄ぶ。
「それもあるし……何より、記憶を失う前の私がそれを望んでたから、かな」
ミカの手が私の両肩を掴む。
その衝撃で、軽く体が揺れた。
「……っ! お前、記憶戻ったのか?」
ミカは目を見開き、じっとこちらを見つめていた。その強張った顔からひしひしとリリアの存在の大きさが伝わってくる。
ずきりと胸が痛んだ。
「そう……昨日、ね。順番に説明する。ミカには、ちゃんと知ってもらいたいから」
私はゆっくりとミカに記憶の話をし始める。
一つずつぽつりぽつりと溢れる私の言葉を、ミカは頷きながら聴き続けた。
全て聞き終わったミカは、大きく息を吐いてからガシガシと頭を掻く。
「……なるほどな。お前はその『矯正力』ってやつに抗って、なおかつ殿下を真っ当にしたいと」
事実を反芻するようその言葉。急にこんな情報を開示されたら混乱するだろうから、無理もない。
「そう。方法はこれから考えないとだけどね」
「確かに歴史の授業だとそうだったな……。そこに、共通点とかないのか?」
「共通点?」
考えもしなかった、その可能性。
悪役令嬢と結ばれる、2作の共通点……。
「そうか、ファンブックか……!」
そうだ、そうだった。なんでこんな大事なことを忘れていたんだろう。
あの2つはファンブックが存在している人気ナンバリング。その中には悪役令嬢とくっついたifルートの話が書いてあったはず……!
「ファンブック……? なんだ、それ?」
困惑した様子のミカの声に、私はハッとする。
「えっと、実は……えぇーと……」
この話をすれば、話はぐっと前に進むだろう。だけど……なんて、話せばいいんだろう。
言い淀む私の顔を、ミカは眉を顰めて覗き込む。
「これを話すとややこしくなるし、そもそも信じてもらえるかな……」
それでもミカは視線を揺らすことなく私を見つめ続ける。
「お前がそんな顔して話す事を、俺が疑う訳ねぇだろ。どんなことでも受け止める。話してくれ」
そのまっすぐな声が、瞳が、私の心を揺さぶり続ける。
もし話すとしたら……私がリリアでないことを話さないと、だよね。リリアがそのもしもの世界を知ってるなんて、どう考えてもおかしいもの。
でももしそれを知られたらーーーミカとの関係が、終わってしまうような気がして。
ミカの視線を避けるように、瞳が揺れる。
「話したくないなら、無理に話せとはいわねぇ。だが……俺は、何があってもお前を守る。それだけは、忘れんな」
力強く、どこまでも優しいその言葉が私の胸を打つ。
私が今真相に辿り着けたのは、ミカが居たからだ。それなのに、わたしはミカに何も明かさずいていいのか?
それは、ミカに対する裏切りではないのか?
「それならまずは、本当の私の話をしないとだね。実は……私は、リリアじゃない。リリアの中に宿ったもう1人の人間。……名前は、ルカ」
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