〈第2話〉断罪イベント6日前ー重なる違和感ー
漆喰で固められた廊下。窓から降り注ぐ春の日差しに照らされ、淡く光返す。その温かさを全身で感じつつ、ゆったりと図書館へ向かっていた。
その途中に見えた、誰かと話し込む男の姿。
ーーー攻略対象の1人、ミカエル・カーターだ。
それを見た瞬間に、私の中のオタクが覚醒する。
うわぁ〜! リアルミカエルだ〜!!! えっ、背高すぎん? 流石近衛騎士逞しい〜……!
舐め回すように全身を見る。やっぱりスチルや立ち絵とは違う圧倒的立体感。全身リアルに動くキャラって最高すぎる……!
それに、リリアはミカの幼馴染かつ初恋の相手だ。もしメアリーちゃんがデービットルートに入っているなら、ミカ×リリは最も幸せルートに近いんじゃないの?
緩む口元を隠すこともせず、ミカ×リリ二次創作に思いを馳せる。うん、ありだな。
私はミカエルの方へ足早に寄る。こちらに気がついたミカエルは、エメラルド色の瞳を大きく見開いた。
「リリア……」
「ミカエル様、ごきげんよう」
にやけたオタクスマイルを一瞬で封印し、淑女らしい微笑みへ切り替える。
……それにも関わらず、ミカエルはしばらく固まったままこちらを見ていた。
えっ、なにその反応? 何かミスった?
「えっと、み、ミカエル様……?」
「……」
えっ、いや怖い怖い怖い!! まってこれ大丈夫? ホラゲの目を逸らした瞬間襲ってくるタイプの敵みたいな見つめ方してるよね?? 次の瞬間YOU DIED って出るやつだよね??
無言でひたすら見つめるミカエル。顔がいいから耐えられないわけじゃないが空気がやばい。てか隣で話してた人引いてるじゃん気付け……!!
「あのっ……わ、私、これで失礼しますね……?」
背中に赤外線でも当てられてるんじゃないかと錯覚するような強い熱を感じながら、可能な限り足早に移動する。
なんだろう、あの反応。ゲーム中ではミカエルと普通に話してたよね?
それにーーー瞳に宿る疑念と、驚愕。そこにわずかに滲む、ゾッとするような暗い色。あれは一体、何を表してるんだろう。
額に手を当てる。しかし、いい考えは思いつかない。
まあ、必要ならあとで話を聞きに行けばいいか。その余裕があれば、だけど。
そう結論づけ、目の前に広がる大扉を見上げる。
まずは大図書館での情報収集だ。何も情報がなければ前に進めない。
しかと前を見据えて、私は扉を潜り抜けた。
本の海を泳ぐように、ゆったりと歩く。
ここは王宮にある、王立大図書館。ゲームでも情報収集の要とされている。
どさりと机に本を置く。背表紙にかかれたタイトルはどれも国外事情に関するものだ。
万が一追放されることがあれば、そこで生きていく術を考えなければならない。そうなっても、リリアだけでも幸せにしなければ。
硬い木の椅子に腰掛け、分厚い本を開く。
他のキャラクターは、今どうしているんだろう。ふと、そんなことが頭をよぎった。
あの後見舞いに来た人間はいない。婚約者が飛び降りたというのに、デービットは顔も見に来ない。
ひらりと、ページを捲る音が響く。
それだけメアリーちゃんにご執心なんだろうか?
……オタクとしては美味しいが、人としてはあり得ないと思う。
リリアはずっとデービットだけを見つめ、10年間愛を囁き続けた。それなのにぽっと出てきたメアリーちゃんに夢中で、見舞いにも来ない?
思わず、ため息がもれた。
ーーーあまりにも、解釈違いがすぎる。
ゲームでのデービットは、そんな子じゃなかった。
第一王子と比べられて育った第二王子。愛を注がれなかった可哀想な子。そんなデービットを肯定するだけのリリアと、一緒に歩もうとするメアリー。その対比が美しいシナリオだった。
リリアを追放した業を受け止め、前に進む二人。その切なさが、好きだったのに。
『僕は前に進む。そのために、"大切な"過去を切り捨てることも厭わない』
それなのに、リリアの存在はそんなに軽いものだったの?
手のひらに食い込む爪の感触。その痛みが、私を現実に引き戻した。
嫉妬に狂うリリアをみて、自分が彼女を変えてしまったと後悔する彼が来ないはずがない。
そう思ってたんだ。きっと血相を変えて、1番に会いにきてくれるって。
視界がわずかに歪む。目頭の熱さが冷める気配はない。
……落ち着け。公式が明言していないのに憶測で語りすぎるな、厄介オタクになる。
フルフルと頭を振って、本に目を落とす。
今やるべきは、今後の対策を考えること。物思いに耽るのはそのあとでいい。
改めて覚悟を決め、目の前の情報と向き合う。情報を見逃すまいと、目を皿にしてひたすらに活字と見つめ合った。
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