〈間話〉デービットーもう一度その声でー
『デービット様』
あいつが僕の目を見て、僕の名をよんだ。あの声で呼ばれるのは、一体何年ぶりだろうか。
思い出すだけで、心臓がうるさいぐらいに鳴り始める。……理由なんて考えたくもないが。
でもーーー悪くない。
ぐるぐると頭の中を巡る、リリアとの思い出達。
『デービット様の目、宝石みたいで綺麗です』
『デービット様、お菓子作ってきたんです。お口に合えばいいのですが』
『デービット様のこと、大好きです。私、ずっとそばにいたいなぁって』
真っ直ぐに僕を見るリリア、頬を染めて恥じらうリリア、そして、僕に愛を囁くリリア
全て、昨日のことのように思い出せるのに。それなのに……。
噛み締めた奥歯が、ズキリと痛む。
今日、あいつの隣にいたのはーーー僕ではない、別の男たちだった。
噛みすぎてボロボロになった爪が、音を立てて削れていく。その度に、ほんのりと血の味がした。
本当は僕のところに来るはずだった。助けて欲しい、私にはデービット様しかいないと。
そのはずだったのに……別の男を頼るのか?
リリアを守るように前に出たミカエル。その真剣な緑色の目、それを見つめるリリアの顔。
その一瞬を思い出すだけで、胸が焼け付くようだった。
そんな冷たい目を、声を……僕に向けるな……!
息が詰まる。喉に何かがつまったような不快感。言葉は山ほど出てくるのに、本当に言いたいことは結局何も言えないままで。
いや、違う。
リリアは、裏切り者だ。僕という婚約者がいるのに、あんな風に他の男を誑かす。
僕があんなに頑張って声をかけても、視線の一つもよこさなかったくせに……!
力を入れた拳の下で、シーツがくしゃりと音を立てて歪む。
ーーーまあいい。本番はこれからだ。
3日後、リリアの『いじめ』を僕が裁いてやる。メアリーは僕を肯定してくれた。彼女の協力があればーーー今度こそ、リリアは逃げられなくなるはずだ。
涙を浮かべて、僕に許しを乞うリリア。
僕に縋りつき、愛を求めてくるリリア。
ぞくりと、背筋に甘い感覚が走る。
そう、そうだ。お前は、僕に従うべきなんだ。
第一妃の枠はもうメアリーで埋まっている。だが、泣いて謝るというのなら……そばにおいてやっても良い。どうせ断罪されたお前を妻にする男などいるはずがないのだから。
そうしてずっと僕の隣でーーー昔みたいに、僕に笑いかけてくれたなら
お前は僕のものだろう、今までも、これからも、僕だけのものだ。誰にも渡さない。
ミカエルにも、ラファエルにも、誰にも。
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