〈第15話〉断罪イベント3日前ー最推しの聖女ー
ーーーコンコンコン
ふいに扉がなり、視線がそちらへと集まる。
「メアリー様がいらっしゃいました」
淡々としたラファエルの秘書の声が部屋に響く。
扉越しのその一言で、空気が張り詰めるのがわかった。
「……ありがとう。通してくれ」
「承知致しました」
一瞬の沈黙の後、ゆっくりと扉が開く。
そこにいたのは『聖女』という呼び名に相応しい存在感と神聖さをあわせもった少女。ロイヤルブルーのウェーブのかかった髪。不安げにふせられたアクアマリンの瞳。透き通るような白い肌が、日の光を反射して輝いていた。
彼女こそが、この世界の主人公ーーーメアリー・ホワイト。
無意識に、息を呑む。
稲妻が落ちたような衝撃が全身の骨を軋ませた。
ーーーめっっっちゃ美少女では??
え、うわ、すごい。遠くから見てもまつ毛が長いし顔ちっっっちゃ。整いすぎじゃない? え、そりゃ攻略対象みんな惚れるよ私も好きになってるもん現在進行形で。
拝みたい気持ちをぐっと押しとどめて、メアリーちゃんの方を向く。
落ち着け、私。最推しが目の前にいても平静を装え。私と彼女は初対面、うん。
「おひさしぶりです、メアリーさん」
興奮のあまり、声が震えた。
いや無理!!
メアリーちゃん総愛され二次創作極めまくってるもん興奮しないなんて選択肢ないんだよ……!
あまりにも自制心がない。情けなさで顔が歪む。
メアリーちゃんの美しい目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「リリア様……申し訳ありません、私が、私が
もっとちゃんと、リリア様は悪くないと言っていれば……」
その瞳は私の頭にまかれた包帯を見つめていた。
あ、これ誤解されてる。私の声の震えオタク歓喜の声じゃなくて怯えだと思われてる。
えっ、じゃあさっきの悔やんだ表情もアウトじゃない??
頬に冷たい感触がつたう。
やばい、誤魔化さないと……!
「メ、メアリーさん! 大丈夫です! 今記憶
ないので全く気にしてませんから!」
「リリア、それ慰めてるのか? 俺にはとどめさしてるようにしか聞こえねぇけど」
うーん失言! 墓穴通り越して墓石彫り始めてるんだなぁ!!
「と、とりあえず本当に気にしてないし、メアリーちゃんは悪くない。悪いのはうわさを流したやつ、でしょ⁉︎」
「いや……それはそうなんだけどな?」
ミカは額に手をあて、ラファエルは静かに肩を揺らす。メアリーちゃんは呆気にとられ、薄く口をあけてこちらを見ていた。
「あってるならそれで良し!」
ここまできたらこのまま突っ走るしかない!
私はガタリと淑女らしくない音をたてて、テーブルに手をつきソファから立ち上がる。
「で、でも私……」
困惑した様子のメアリーちゃん目掛けて一気に距離を詰める。これ以上、この綺麗な顔を歪ませてたまるものか。
「むしろメアリーさんも被害者です こんなに気に病んでるんですし! だから、一緒に犯人探して問い詰めてやりましょう、ねっ!!」
今にも手をとらんばかりの勢いで、そう話しかける。いや、実際に手なんて握ったら心臓が爆発して私が死ぬ。血の海が出来上がる。
メアリーちゃんはしばし視線を彷徨わせてから、私の目をじっと見る。潤んだ瞳に応えるように、私はしっかりと頷き返した。
「え……えぇ。リリア様が、そうおっしゃるなら……」
困惑して揺れる声すらも鈴を転がしたように美しい。これが聖女パワー、聞いてるだけでやる気が湧いてくるから不思議だ。
私は力強く頷く。
「ではここからは作戦会議ですね!」
椅子に座り、持参した紙とペンを出す。
さあーーーここからは、真面目な話だ。
すっと表情を消し、別人のように声に一本芯が通る。
「現時点でわかってることは2つ。1つ目、そもそもいじめはなかった。2つ目、その噂を外部に流している人間がいること。それならばやることはただ一つ」
人差し指をたて、3人にゆっくりと視線を這わせる。
「噂を流した犯人を、捕まえることです」
私の推しを悲しませたことーーーその身を持って償ってもらおうか。
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