〈第14話〉断罪イベント3日前ー重い愛情ー
「ミカのため……か。リリアちゃんらしいな」
ラファエルは笑みを深める。その顔に、先ほどまでの探るような色はない。
代わりに、純粋な疑問が顔をもたげたようだった。
「……ミカのこと、重いって思わなかった?」
「重い、ですか?」
「そう。今のリリアちゃんからすると出会って2日目で告白されたわけでしょ? ミカのことだ、将来の話もしてそうだよね」
えっ……何で、しってるの??
いや、確かにそれは事実だ。『俺はお前と未来を歩む覚悟がある』って言ってたし。
そう、真剣な顔で、あんな……至近距離で……。
駄目だ! 思い出すだけで脳が沸騰する!
雑念を振り払うように軽く頭を振ってから、ミカの方を見た。それに気がついたミカはバツが悪そうに目を逸らす。
……なるほど。自分から話したのか。
ミカにとっては、ラファエルへの決意表明に過ぎなかったのかもしれない。でも、私にとっては『で、なんで返事したの?』なんて言われかねない大大大問題である。
軽く息を吐いて、言葉を探しながら答える。
「まぁ……思うところはありましたよ? 記憶のない私に向かって『リリアのことをずっとみてた』って宣言してきたり」
紅茶を口に含んだラファエルがむせた。
「笑ってんじゃねぇ!!」
いや、記憶もない人間に対してストーカー宣言したらそらお茶吹きたくもなるよ。
「まあまあ、ミカ落ち着いて」
ぽんぽんとミカの肩を叩くと、ミカは渋々引き下がる。口元がひき結ばれているあたり、納得はしていなさそうだ。
……それでもいうこと聞くの、可愛過ぎか?
撫でたくなる衝動を一度落ち着けて、言葉を紡ぐ。
「確かに最初は驚きましたけど……そこまで一途に思えるって、素敵なことだと思いませんか?」
誰かを思う気持ちは、美しい。重ければ重いほど、強ければ強いほど。強固な想いこそが人間を動かす。
私は色々な作品を通してそれを感じた。そして今、自分自身の経験を通じてそれは確信へと変わり始めている。
ラファエルはそれを聞いて一瞬目を見開いた。そしてどこか迷うような、しかし確実に熱がこもった目で、こちらを見つめてきた。
「はは、いいね。……俺もリリアちゃんみたいな器の大きい恋人、ほしいなぁ」
カップを置いて、足を組み替えた。腿に肘をついき口元に手を当てる。その仕草が妙に色っぽくて私は息を呑んだ。
「……ねぇ、今からでも俺に乗り換えない?」
いつも通りの軽い声。それなのに冗談に聞こえないのは、その瞳に扇状的な色があるからだろうか。
ラファエルの唇をなぞる仕草から視線を離せなくなる。
ゆっくりと這う指先が、値踏みするような視線が、ねっとりと私の心に絡みつく。息の仕方もわからなくなるような、そんな、甘い束縛。
「はぁ!? 何言ってんだ!? 絶っっっ対やらないからな!」
その声で私はハッとした。やばい、ラファエルのペースに飲み込まれるところだった。
早鐘を打つ心臓を、なんとか落ち着かせようと深呼吸する。
ちらりとラファエルを見ると、残念そうに肩をすくめてから姿勢を正していた。なんて、危ない男なんだろう。
「というか、あんた女取っ替え引っ替えしてるだろ!? お前の毒牙にリリアまでかけられてたまるかよ!」
ミカは今にも唸り出しそうな勢いで猛抗議している。さすが番犬、反応が早い。
「冗談だよ、冗談。弟の恋人をとる趣味はないさ」
ラファエルは困ったように眉を顰め、くすくすと笑う。本心なのか否かも、全て軽薄な笑みに包み込まれていく。
「でもリリアちゃんみたいな子が相手なら、俺ももっと真剣に恋できたかもなって……そう思っただけ」
ラファエルの瞳がゆれ、唇をわずかに噛んだように見えた。
しかし、それは一瞬でいつもの微笑みへと変わる。
その差が、何故かとても痛々しくて。作りこまれた軽さの中に、押し潰されそうな重い感情が混ざっているような、そんな気がしてならなかった。
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