【初レビュー記念】間違い探しは永遠に【過去編・ラファエル視点】
暖炉の火がパチパチと弾け、炎がゆらめく。その度に、ミカの眉間の影が微かに揺らいだ。
「……宗教省に就職するって、本気なのか?」
どこか強張ったその声に、俺は困ったように肩をひそめる。
「そのつもりだよ。父上に凄い反対されたけど」
「当然だろ。建国以来の伝統が途絶えるんだから反対しない理由がねぇ」
"建国以来の伝統"
何度も聞いたそのセリフに、思わずため息が漏れる。
「カーター家の当主は代々近衛騎士団長だ、ってやつでしょ? 俺は父上みたいに強くないからなぁ。そもそもそんな器だと思う?」
「兄貴がちゃんとやらねぇからだろ」
俺を責め立てるようなミカの鋭い視線。そこから目を逸らすように、俺はふっと目を伏せた。
俺だって昔は真面目にやってたつもりだ。でもどれだけやっても、父上のように強くはなれなかった。あろうことか、14歳のミカにすら負けてしまった。
俺がどんな気持ちで剣と向き合っていたか、ミカエルが知る必要はないと思う。
それでもこの少々真っ直ぐすぎる言葉に、何も思わないほど俺は人間が出来ている訳ではなかった。
「形だけの大将ほど虚しいものはない。ミカみたいに才能があればそうはならないかもしれないけど、俺じゃそうなるのが関の山さ」
出てきた声は普段より何処か刺々しい。我ながら大人気ないとは思うが、このくらいならば許容範囲だろう。
息を吐いてから手の中にあるティーカップを傾ける。口の中に広がる苦味が、じんわりと体へ滲んでいった。
「そもそも俺は当主になりたい訳じゃない。才能がある人間が継いだ方が、家のためになると思わない?」
ゆっくりと目線をあげミカを見つめる。彼は目を見開いてから、きっとこちらを睨みつけた。
「俺に当主を押し付けようってわけか?」
俺ははぐらかす様に薄く笑い、ティーカップを静かにテーブルに置く。
「人間向き不向きがあるからね。俺は剣筋を探り合うより、腹の中を探り合う方が向いてたってだけさ。ミカが嫌なら俺がやるしかないけど……そういう訳じゃないだろう?」
こいつが誰よりも剣に打ち込んでいることを俺は知っている。例えそれが何かから逃げるためであっても、努力した事は揺るぎない事実だ。
それなのに弟だというだけでそれが認められないなんて、そんな理不尽なことはないだろう。
ミカは言葉につまり、ぷいと顔を背ける。
……図星だな。
「まあ、俺は最悪どこかのご令嬢にでも見初めてもらうさ。そういうの、得意だからね」
頬杖をついて僅かに首を傾げて微笑んだ。普通のご令嬢なら、この表情に顔を赤らめるところだ。
それなのにミカは怪訝そうに眉をひそめ、吐き捨てるように言葉を投げてくる。
「婚約者に振られたくせに何言ってんだよ、バカ兄貴」
ミカの容赦のない言葉が、グサリと胸に突き刺さった。
「人間にも、合う合わないがあるからね」
出てきた声は、微かに震えている。
自分で言うのもなんだけど、モテる方だと思う。思うが……どうやら俺は、世間一般的に少しばかり愛が重いらしい。
それが原因で婚約者にまで愛想を尽かされるとは思わなかったが。
「もう3年も前の話だろう? 今度はもっと上手くやるさ」
「上手くやるって言うのは、毎回違う香水の匂いまとわせて朝帰りすることか?」
「さぁ? どうだろうね?」
自分なりに軽く振る舞ってみたが、どうにもしっくりこない。何度やり方を変えても、いまだに答えは見つからない。
「なんでそんなんになっちまったんだよ。昔は違かったろ。兄貴は、もっと……」
それ以上、言葉が紡がれることはなかった。
伏せられたミカの瞳は、暖炉の火のようにゆらゆらと揺れている。
なんで、か。
「さあね。……どこで間違えたのかな」
俺の呟きは、温められた空気に溶けていく。
それを1番知りたがっているのは、多分、俺自身だ。
だけどきっと俺はその答えに辿り着けない。辿り着くことを、心が拒んでいるから。
いつか俺すらも見つけられなかった俺を、見つけてくれる人が現れたなら。その時俺はーーーまた昔みたいに、何かに本気になれるのかもしれない。
お読みいただきありがとうございます!
皆様の反応が励みになります!
よろしければブクマ&評価お願いします!
ブクマ5ごとに番外編を追加予定です✨




