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【第一部完結】あと7日で断罪とかマジですか? ーヤンデレ幼馴染と走る断罪回避RTAー  作者:
あと7日で断罪とかマジですか!?ー断罪回避RTAー
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〈間話〉断罪イベント4日前ー光と影ー ラファエル視点

ゆらゆらと揺れるランタンの光が、薄暗い部屋を朧げに照らしていた。


ぬるくなったハーブティーを煽り、カップを置いた手でページを捲る。静かな空間に、その音だけが響いた。


夜はいい。どこまでも静かで、どこまでも優しくて、変わらない。


コンコンコン


「兄貴、悪いが今大丈夫か?」


ーーーしかし今日は、日常通りとはいかないらしい。


ゆっくりお椅子から立ち上がり、ドアを開ける。


「あぁ、大丈夫だよ。珍しいな、ミカが俺の元に来るなんて」


視線を僅かに上に持っていく。背を抜かれてしばらく経つが、未だにこの目線には慣れなかった。


「あぁ、少し用があってな」


真剣な瞳。昨日から、急に生気が戻った目。


「……リリアちゃんのこと?」


「はっ!? な、なんでそれ……」


図星か。わかりやすいところだけは、子供の頃から変わらないな。


慌てふためくミカを見て、肩をすくめた。


「わかるさ。伊達に21年、君の兄貴をやっているわけじゃない」


「はぁ……そうかよ」


ミカはこめかみを抑え、ため息をつく。


もちろん当てずっぽうで言ったわけではない。出勤停止中一度も王宮に来なかったリリアちゃんが、一昨日から急に王宮へ姿を現したこと。


見舞いに行きたいと手紙を出したら、教会に行く予定だとメイド長経由で断られたこと。


むしろ、何もなかったと考える方が不自然だ。


「そうだ、リリアのことだ。あいつが明日宗教省に行くらしいから、悪いが庇ってやってくれ。噂のせいで針の筵だろ」


確かにそういう噂が流れている。だがそれはあくまで、『外』での話だ。


口元に手を当て、腕を組む。


「うーん……それがそうでもないんだよねぇ。あるとしてもメアリーちゃんへの伝達ミスくらいだなんだよ。省内ではリリアちゃんがいじめをしているなんて思えないって人が大半だね」


俺も確信はない、が同じように思っている。陰口を言っている様子もなかったし、それなら俺の耳に入らないはずがない。


「そうなのか?」


訝しむように眉を顰めるミカ。


「まあ、リリアちゃん自身優しくて人望があったのもある」


彼女はなんやかんやお人好しだ。控えめではあるが、確かな優しさがある。


……俺だって助けられたことが何度もあった。


「なにより、メアリーちゃん本人が否定してるんだよ。『私、リリア様からいじめなんて受けてません』ってね。王宮内じゃそれすらも『聖女様の慈悲深い言葉』なんて言われてるが」


実際、庇っている可能性は0じゃない。だが、状況を考えるとどうも嘘だとは思えなかった。


「それに……おかしいんだよね。少し前までほとんど実績がなかったやつが急に昇格したり、羽振りがよくなったり。俺には誰かの意図があるとしか思えない」


中にはそいつがデービットと話しているのを見たという声もある。確信がないからまだ話せないが……正直、匂う。


「何者かの、意図……」


眉間の皺が一層深くなる。力を入れすぎて、そろそろ彫刻のように刻まれてしまいそうだ。

それを伸ばすように、そっと指を這わせる。


「ま、気になるならミカも来ればいいさ。兄貴の忘れ物を持ってきたって言えば、少し居座るぐらい問題ないだろ。普段真面目な君がそういえば、疑う人間なんていないさ」


ミカは目を丸くしてから、俺の腕を掴んだ。

子供の頃のようには甘やかさせてくれないらしい。


俺はその手に愛用の手帳を掴ませる。中身を見られても問題ないサブの方だ。忘れ物としてはちょうどいいだろう。


「それに、気になるだろう? どんな話があるのかさ」


「それは……まあ……」


ミカの目が泳ぐ。しかし、その手はしっかり俺の手帳を握っていた。


「俺は嬉しいんだよ。リリアちゃんと離れてから剣しか見てなかった君が、ようやく現世に戻ってきた感じがして」


リリアちゃんの婚約が決まってからのミカは、欠けた何かを必死に埋めるように剣に打ち込んでいた。なりふり構わず剣を振るうその姿は痛々しいく感じるほどで。

その背中を、俺は止められなかった。


「兄貴……」


か細い声が鼓膜を揺らした。

こういう時ぐらいしか、『兄』として振る舞えないしな。


「俺でよければ協力するさ。可愛い弟の『初恋』だからな」


初恋という言葉を聞いて、ミカはぴくりと体を震わす。


「お前……からかってんのか?」


その顔は僅かに熱を持っていて。

それがおかしくて、思わず吹き出してしまった。


「さあな。にしても、君が俺を頼る日が来るとはなぁ。お兄ちゃんびっくりだよ」


この自立心の塊が俺を頼ってくるなんて、正直予想していなかった。何があったらそうなるのか気にならないと言えば嘘になる。


ミカはしばらく唸って、視線を彷徨わせる。しばらくして覚悟を決めたように、じっとこちらを見据えた。その頬は先ほどより確実に赤みを増していて。


「……今日、リリアに告白してきた」


「……マジ?」


想像の斜め上をいくスピード感に、そうとしか言えなかった。


あの飛び降りたって聞いても動けなかったミカが、告白?


あまりに衝撃的な内容に、その一言すらも揺れていた。


「本気だ。俺はあいつを今度こそ守る。そのためたら、あんたに頭を下げることになっても構わない」


その瞳は、見たことがないほどまっすぐで。

ただの気まぐれじゃないことは明らかだった。


後悔を滲ませて、いつまでも過去に囚われていたミカ。そのミカにこんな顔させるなんて……。


リリアちゃんは、俺が思っていたほどか弱い乙女ではなかったらしい。

僅かに喉がなるのが、自分でもわかった。


ーーーいいじゃないか、面白くなってきた。


「ミカ、本気なんだな。……それなら俺も本気で協力する」


そう、ミカの後悔を誰よりも近くで見てきた。だからこそ俺は、本当だったらミカの代わりにリリアちゃんを守ってやらないといけなかったんだ。この、不器用な弟の"代わり"に。


面食らった様子のミカの肩をポンポンと叩く。


「……リリアちゃんを救えなくて後悔してるのは君だけじゃないってことさ」


その声はどこまでも軽い。軽いふうを装うのは慣れている。それでも、顔がこわばるのを止められなかった。


「ほら、さっさと寝た方がいいんじゃないか? 明日も早いんだろ」


俺の顔を見てミカは一瞬言葉を失ってから、静かに頷く。


「……わかったよ。おやすみ」


「あぁ、おやすみ」


去り行くミカエルの背が遠くなるまで見送ってから扉を閉める。

再び静寂が広がったはずの部屋は、先ほどよりも明らかに熱を帯びて揺れていた。


「……あいつが諦めたままだったら、そのまま貰おうかと思ってたのに」


どこまでも真剣なその声は、誰にも聞かれることなく、虚空へと溶けていった。

お読みいただきありがとうございます!

皆様の反応が励みになりますので、よろしければブクマ&リアクション&コメントお願いします!

ブクマ5ごとに番外編を追加予定です✨

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― 新着の感想 ―
鐘の音に包まれた教会でのシーン、とてもドラマチックで心を掴まれました! ミカの真剣な想いと、それに揺れながらも前を向こうとする主人公の気持ちが丁寧に描かれていますね。 続くラファエル視点では、兄弟の絆…
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