〈第11話〉断罪イベント4日前ー女神様ー
ゴーン、ゴーーーン
その時だった。教会内に響き渡る、重厚な鐘の音。音に導かれ視線を向けた先で、微笑む女神様と目が合った。
なんとなく、こちらをじっと見つめているような気がして。この状況が急に恥ずかしく感じられた。
「ミ、ミカ……その、ここ、教会だし……女神様が、見てる」
震える手で、ミカの胸を押す。頰が熱くて、今にも沸騰してしまいそうで。
もっと近づいたら、どうなっちゃうんだろう。
そう考えるだけで、頭がおかしくなりそうだった。
そんな私の理性を溶かすように、ミカはゆっくりと目を閉じる。
っーーーー!
思わず、ぎゅっと目を瞑る。
震える唇、強く握られた手。体が全て、ミカの気持ちに縛られたがっているようだった。
……しかし、いつまで経っても想像していた熱が触れることはなかった。
細く息を吐く音が聞こえて、近かった吐息が離れていく。
ーーーあぁ、キス、しないんだ。
うっすらと開いた瞼、霞んだミカの影がぼんやりと私を見つめていて。
……っていやいやいやいや!!!! 何残念がってるの!? ダメって言ったの私じゃん!!!
身体中が焼かれたように強く火照る。
思わず見開いた視界の先にいたのは、どこまでも真剣に私を見つめるミカの姿。その眼差しに、熱が全て吸い込まれていくようで。
「……わかった。だがーーー俺はお前が好きだ。次同じことがあったら、我慢できる保証がないぐらいにはな」
恥ずかしくて仕方がないはずなのに、何故か、目を逸らすことができない。
「返事はいらねぇ、これは俺の誓いだ。……だけど忘れんな。俺はお前と未来を歩む覚悟がある。今度こそ、な。」
頭の中にミカの声だけが響く。どこまでも真っ直ぐな気持ちが、私の胸に突き刺さって抜けない。
ずるい……ずるいよ。そんな直向きな声で、顔で、告白しておいて、返事はいらないだなんて。
唇が微かに震える。今すぐに、言いたいことがあった。
でも私はそれを誤魔化すように、きゅっと唇を噛む。
まずは、前に進む。いつか全部解決したら、その時はーーーミカの気持ちに、胸を張って返事をするんだ。
その目をしっかりと見つめ返す。お互いの姿が、合わせ鏡のように映し出された。
「……わかった。そのために殿下の件に終止符を打つ。この一件には殿下が一枚噛んでるとしか思えない。明日、メアリーさんと殿下に話を聞いてくる」
それを聞いて彼は、ふっと優しく笑った。
「多分、その読みは正しいだろうな。……お前1人じゃ不安だ。兄貴に話つけといてやるよ」
「兄貴って、ラファエル様?」
想像していない人物の名前に思わず聞き返す。
ラファエル・カーター。ミカの兄かつ、メアリーとリリアの上司で攻略対象の1人だ。
正直、性格とキャラデザだけなら1番好きなキャラ。
あの包容力が直向きで頑張り屋すぎるメアリーちゃんと超合うんだよなぁ……。
私の中のオタクが拍手喝采で次のイベントを今か今かと待っている。切り替えが早い? オタクって情緒ジェットコースターに慣れてる生き物だから。
ミカはゆっくりと頷く。
「あぁ。色々と都合つけてくれるだろ。俺じゃ宗教省の中までは守ってやれねぇし」
「……ありがとう、ミカ」
頼もしくて、一緒にいて楽しくて。よくわからないこの気持ちを……人は恋と呼ぶのだろうか。
ミカが見ているのは、私ではなくリリアだ。それも、わかってる。そう思うと胸が痛むけれど……今だけは、この幸せに浸っていたかった。
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