〈第10話〉断罪イベント4日前ー隣に立つ者ー
神父様が席を外した後の祈りの間。そこの長椅子にミカと2人並んで腰掛ける。
「……ミカ、本当に記憶をなくす前の私のこと愛してたんだね」
正しくは私ではなくリリアだけれど。先ほどの叫びはどこまでも悲痛で、愛に溢れていて。2人の関係を感じさせるには十分すぎるものだった。
オタクとしては尊いカプ要素のはずが、なぜか心はときめかない。薄ぼんやりと膜が張っているような、そんな不思議な感覚。
ミカは視線を床に落とし、頭をガシガシと掻く。
「そりゃあ……まあ、は、初恋、だからな。……でも、それだけじゃねぇよ」
ミカは肩をひそめてから視線をゆっくりこちらへ移す。柔らかいのに熱を帯びたその視線に、私の心臓がどきりと跳ねた。
「あいつがなんて言ったか聞いた時のあんた、すげぇ苦しそうな顔してた。あいつは過去のリリアも、今のあんたも傷つけた。それが許せなかったんだよ」
ほんのりと朱がさした頬が、私の心をかき乱す。ミカが見ているのは私であって私じゃない。複雑な心地のはずなのに、心が緩やかに満たされていく。
「ミカ……ありがとう、凄く嬉しい」
ゆっくりと、ミカの方へと寄りかかる。がっしりとした体躯は私の体重ぐらいではびくともしなくて。
心臓の鼓動さえうるさくなければ、寝てしまえそうだった。
「……もしもミカが婚約者だったら、もっと楽だったんだろうなぁ」
ふと、そんな言葉が口からこぼれ落ちた。
「はぁ!? な、なんだよ急に……!」
ミカは肩を揺らすが、決して私から離れようとはしなかった。さらに赤さを増した頰のせいで、普段より彼が幼く見えて。
なんだか、可愛いな。
イベントスチルで何度も見たはずの顔なのに……もっと見たくなっちゃうのは、なんでだろう。
「だってそうじゃん。昔の私が何に怯えてたのかわかんないけど、ミカがいればきっと一緒に立ち向かえる。そんな気がする」
「……当たり前だろ。お前の隣に立つために、俺は強くなったんだから」
ミカの手がそっと私の手に重ねられる。その温もりが、心地よくて。
「ねぇ……今後私がどうなっても、こうやって一緒に話してくれる?」
思わず、そんな台詞が口をついた。
今後どうなるかなんてわからない。国外追放になったら、きっと話せる機会なんてもう無いのに。
それでも今だけは、この温かい空間に縋りたかった。
重ねられた手に、力が入る。指先が絡んで、そこからお互いの境界線が溶け合うようだった。
「何言ってんだ。話すだけじゃ足りねぇよ。もう2度と、俺から離れることなんて許さない。どんな困難がきても、俺はお前と一緒にそいつにうち勝つ」
力強い声が鼓膜を揺らす。
「……最初に頼ったのが、ミカでよかった」
「そうだろ? ……俺以外に頼るなんて、考えられないようにしてやるよ」
ミカの体がこちらに向く。長いまつ毛、薄い唇、通った鼻筋。それはイベントスチルなんかよりもはるかに美しく、生々しかった。
ミカの左手が、私の頬に添えられる。
触れる吐息の熱さが、早鐘を打つ心臓が、これがゲームではなく現実であることを如実に感じさせた。
もし彼の瞳に映っているのが私でなくても……それでも、今だけは。
この感覚に、身を任せてしまいたかった。
「お前が何者だろうと……俺は、お前のことがーーー」
ミカの声が鼓膜を揺らす。その感覚は、言葉にできないほど甘美だった。
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