【1000pv突破記念番外編】お前の隣を奪えたら【過去編・ミカエル視点】
「ミカの幼馴染、婚約破棄しかけたんだって?」
急にかけられた声にびくりと体を震わせた。
教本から視線をあげて、前方の机に腰掛けた級友を見る。
「らしいな。詳しいことはしらねぇが」
「ふぅん。ま、お前相手にされてねぇもんな」
「喧嘩売ってんのか?」
そいつは悪びれる様子もなく、にやにやと笑っている。
腹立つ顔してるなこいつ。
「いや、別に。だってお前リリアのこと好きだろ?」
「はぁ!?」
さらりと飛び出すその発言に思わず固まる。
なんでバレてんだよ……!
「顔赤いぞ? お前リリアのこと見過ぎなんだよ。名前呼ぶ時のトーン全然ちげぇし。ま、あいつ可愛いよな。気持ちはわかるぜ?」
そいつは机に肘をつきながらケラケラと笑った。
気持ちはわかる、だと?
その一言にぐっと眉根が寄る。
「リリアに変なことしたら許さねぇからな」
「声ひっく。ていうかすげぇ顔してんぞ、お前本当にわかりやすいな」
そいつはどこか呆れた様子で、乾いた声をあげて笑った。
……本当に性格悪いなこいつ。
「誰のせいだと思ってんだ」
吐き捨てるようにそういうと、やつは眉をひそめる。
「いや、まさかそこまでとはな。お前誰とも婚約しねぇし、そうだろうとは思ってたけど」
「婚約は……別に、気がのらねぇだけだ」
ふっと目を逸らす。
どんな女と話してもリリアの顔がちらつく、なんて流石に言えねぇ。
「気が乗らないだけ、ねぇ? いいか、愛ってのは奪い取るもんだ。欲しいもんは力づくで奪う、それが強者ってもんだろ?」
口の端を不敵に吊り上げる。その顔は、完全に悪役のそれだった。
もし俺もこれぐらい自分本位でいられたら、今頃は……。
いや、やめよう。俺らしくもない。
「お前発想が物騒なんだよ。俺はリリアが幸せならそれでいい」
「幸せじゃねぇから婚約破棄なんて話が出るんだろ。いい加減現実見ようぜ?」
「現実? んなもん見なくてもわかるだろ」
結局婚約破棄は未遂で終わってる。あいつはまだデービットの婚約者のままだ。
それに認めたくねぇが……デービットを見るあいつの目には、まだ確実に熱が宿ってる。
何で婚約破棄なんて話になったのかがわからねぇほど、強烈に。
それを思い出すたびに、腹の底からどす黒い何かが湧いてくる。そんな事を感じていい立場じゃねぇはずなのに。
「お前本当に真面目だな。……これは忠告だ。後悔だけはしねぇようにな」
俺を見つめるその瞳には先ほどまでのおちゃらけた雰囲気はない。
「……わかってるよ」
後悔という言葉が俺の心を掻き乱す。何か大事な事を忘れているような、そんな気分になった。
『愛は奪い取るもんだ』
そのセリフが、ぐるぐると胸の中で渦巻く。
もし奪えたら、リリアの隣にいるのが俺ならば。
どうせそんな都合のいい未来は来ないのに、そんな妄想だけが脳を満たしていった。
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